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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「過酷すぎる新婚旅行」

ドイツ人の男性と結婚した日本人女性。
食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともにお届けします。
今回から3回に渡り、ふたりのハネムーンの様子をお届けします(ふたりは主に英語で会話していますが、日本語に翻訳してお届けします)。

約900キロ、5週間のハネムーンに出発

上のトップ画像の様子がこれまでと違うことに気がついた方はいらっしゃるでしょうか。
前回まではミュンヘンの街角の様子をお届けしていましたが、今回の画像はスペイン北部の田舎道の風景です。
なぜなら、私たちの「フードファイト」はスペインに出張……もといハネムーン(!)に出かけていたからなのです。

ハネムーンといっても、高級ホテルに泊まり、ビーチでのんびりしていたわけではありません。
目的地は、スペイン北西部の都市、サンチャゴ・デ・コンポステーラ。そしてさらにその先の大西洋まで。
フランスの町からピレネーと国境を越え、ひたすら徒歩のみで西を目指す約900キロ、5週間にわたる「サンチャゴ巡礼」の旅です。
「なぜそんなモノ好きなことを……」と周囲に呆れられながらも、重たいバックパックをかついで、ふたりで暮らし始めたばかりのミュンヘンを出発。
つい先日旅を終え、ドイツに帰国したところです。

旅先で出会った個性的な旅人たち、スペインの風土、夫との“フード以外のファイト”など、お伝えしたいことは山ほどあるのですが、それはまたの機会に。
こちらでは、最も苦労したといってもいい、旅先での食事について、全3回にわたってレポートしたいと思います。

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何を食べればいいの? 食事にひと苦労

初回の前編は、「朝ごはんと昼ごはん」について。

今回の旅では、「牛追い祭り」で有名なパンプローナや、世界遺産にも登録されている大聖堂がそびえるブルゴスなど、いくつかの都市を行き過ぎました。
しかし、スケジュールの都合上、日に30km前後を歩かなくてはいけなかった私たち。そういった大きな街をのんびり散策する時間を取ることはできず、写真を2、3枚パシャパシャと撮って、「さあ先を急ぎましょう」といった具合。

都合、宿を取ったり、休憩をしたりしたのは、名も知らなかった小さな田舎の村々がほとんどになりました。
おばあさんは川で洗濯をし、おじいさんは教会前のベンチでうたた寝をする。家畜たちの匂いの中、5分も歩けば通り過ぎてしまうような小さな可愛い村にたくさん出会いました。

もともとが石川県の田舎町出身。その風景に心癒され、旅の喜びを感じていたのですが……困ったのはそう、食事のこと。
小さな教会がひとつ、バルがひとつ、商店がひとつ、そして宿がひとつかふたつ、以上。舞台はそんな村々です。

バルといっても、東京にあるような粋なスペインバルを思い浮かべてはいけません。
店内は村のお年寄りたちの寄り合い所となっているような、簡素な喫茶店のような雰囲気。
年代もののスロットマシーンが置かれ、テラスにはビール会社から支給されたのであろう、プラスチックのテーブルとイスが雑然と並んでいます。
そして商店は、賞味期限が過ぎたお菓子や、なにやら不穏なものが沈殿しているジュース、しなびたりんごや真っ黒になったバナナが散見される薄暗い店内。

今日も重たい荷物をかついで、たくさん歩かなければいけないのに、さあ、ここで何を食べればよいのでしょう。

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口が傷だらけ……修行のような食事

答えはこうです。
〈朝ごはん〉
・バルに置かれてある、工場で大量生産されたぺたんこのクロワッサンか、甘すぎるアップルパイ
・商店で買った袋詰めのマフィン(15個入って210円の特価!)か、ビスケット
・飲み物は、バルのカフェ・コン・レチェ(カフェ・ラテ)か、オレンジジュース、あるいは宿の水道水
〈昼ごはん〉
・バルのボカディージョか、トルティージャ
・バックパックの中の余ったマフィンかビスケット、商店で買ったフルーツ
・飲み物は、同じくカフェ・コン・レチェか、オレンジジュース、あるいは水筒の中の水

5週間のうち、おそらく4週間分以上の朝ごはん、昼ごはんが以上からのチョイスだったでしょうか。

「ボカディージョ」というのは、バゲットサンドイッチのこと。
半分の長さに切ったバゲットの間に、ハムを挟んだだけの豪快なひと品です。
気の利いたところだと、ハムは生ハムだったり、チーズやトマトのペーストが塗られていたり、バゲットを少し温めてくれたりしましたが、それは珍しいほう。
味のないこん棒のような塊を頑張って全部食べ終わると、口の中が傷だらけになっている、修業のような食事でした。

「トルティージャ」というのは、皆さんも知るスペイン風オムレツです。
しかし、日本で食べられるような、ふわふわの食感と多彩な具材は望めません。
しっかり焼かれてこちっとした卵に、具はじゃがいものみ、のごくシンプルなもの。
大きなフライパンで作ったトルティージャを6分の1にカットし、それにぐっさりとフォークを突き刺して(お箸が刺さったごはんの姿が思い出され、始めはずいぶん面食らいました)、ごつんとテーブルに置くのが田舎のバルの流儀です。

充実した商店で卵が手に入れば、宿でゆで卵を作り朝ごはん、昼ごはんに。あるいは缶詰のツナやイワシを買い、バゲットに添える。
ラッキーな日は、そうやって小さな幸せを噛みしめることもありました。

ちなみに水道水は、安全と言われている地域のものを選んで飲んでいたので、お腹をこわすようなことはありませんでしたが、かわりにひどいカルキ臭が。

もちろん、いずれも口に合わず食べられない……といったものではありません。
が、とにかくパワーが必要な毎日なのに、肝心の朝ごはんや昼ごはんが甘いマフィンや乾いたバゲットだけなのは、かなりつらい。

「ノーモア、ボカディージョ!(もうボカディージョは勘弁!)」
一緒になった旅人たちと、そう言って笑いあったこともありました。

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辛かった道のりで出会った絶品ドリンク

何より困ったのが、バルや商店の気まぐれ営業。
食事にありつけないと死活問題になる我々は、きちんと前夜に確認します。
「朝は何時から営業していますか?」
するとバルの店主は、「明日の朝は6時からやってるよ!」と元気に答えます。
しかし、翌朝行ってみると、店内は真っ暗。普段は穏やかな夫が、
「うそつき~! 彼はうそつきだよ!!!」
とバルの扉をがたがたゆすって怒ったことは、1度や2度ではありません。

開いているバルに出会えなかった日は、朝は数枚のビスケットをかじり宿の水道水を飲み出発。昼は道端に座り、バックパックの中で腐りかけていたバナナと、ボトルにつめた水道水で空腹をしのぐ。といった、かつての巡礼者たちの道行きを彷彿とさせるような1日もありました。

ただ、忘れずに書いておくと、彼らの出すカフェ・コン・レチェとフレッシュオレンジジュースは絶品でした。
どんなバルにも立派なコーヒーマシーンがあり、必ず豆から挽き、しっかり泡立てられた熱々のミルクを手早くそそいでくれます。そして200円程度の安さ。

「カフェ・コン・レチェ、ドス(ふたつ)」
「シ!(はいよ!)」

テラスに座り、風に目を細めながら美味しいコーヒーを飲むのは、疲れが癒える最高のひと時でした。

そして、スペインの強い日差しをたっぷり浴びて育ったオレンジのジューシーさと甘さときたら! そのオレンジを5個も6個も使ってぎゅっと絞ったフレッシュジュースは、旅の中でいちばん美味しかったものかもしれません。こちらはやはり少し高く300円から400円くらい。

さて、またしてもバルに振られお腹が空いたまま歩き出した早朝。もちろん私の頭の中には、おにぎり……お味噌汁……アジの干物……と次から次へと日本の朝食が浮かんでは去っていきます。
ふらふらしながら、少し先を歩く夫の背中に尋ねました。
「ねえ、朝ごはんに何をいちばん食べたい?」
すると夫はこう答えました。
「そうだねえ……バターをたっぷり塗ったプレッツェルが恋しいなあ……」

「え! それってマフィンとあんまり変わらなくない!?」
と心の中で叫んだけれど、空腹のため、声に出ることはありませんでした。

(次回の中編は「夜ごはん」についてです。サンチャゴ巡礼道名物、「ピルグリムメニュー」とのファイト、お楽しみに!)


イラスト/なをこ

●文:溝口シュテルツ真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)/
1982年生まれ、石川県加賀市出身。編集者。週刊誌編集、グルメ誌編集を経て、現在はドイツ人の夫とともにミュンヘン在住。ドイツを中心に、ヨーロッパの暮らし、旅情報などを発信中。私生活ではドイツ語習得、新妻仕事に四苦八苦する日々を送っている。

2014年7月6日公開

『フードファイト』の他の回もチェック!
「ドイツ人夫と日本人妻の『フードファイト』」一覧
「パンとハムとチーズの無限ループ」
「デンジャラス!? 日本食に挑戦」
「きっかけはパスタ。声を荒らげて大喧嘩」
「チョコレートモンスター」
「想像以上に大変! 婚姻手続き」
「キッチンで見た夫の“奇行”」
「“旅人メニュー”に一喜一憂」
「5週間の旅で“最高の夜”」
「渡独できない!? 進撃のドイツ語学習」
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「個性爆発! 自由すぎるドイツ語学校の生徒たち」

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