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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「渡独できない!?
進撃のドイツ語学習」

ドイツ人の男性と結婚した日本人女性。
食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともにお届けします。
今回は5回に1回お届けする番外編。ドイツ移住に向けて準備を進めるふたりに衝撃の事実が発覚。急遽、日本人妻がドイツ語を猛烈に勉強をすることになりました(ふたりは主に英語で会話していますが、日本語に翻訳してお届けします)。

妻の前に突如現れた渡独への高い壁

ドイツ移住を約半年後に控えたある日、夫が言いました。
「あ、そうそう。A1の証明書、取っておいてね」
「ん? えーわんってなに?」
「なにって、ドイツ語検定のA1レベルだよ。長期滞在ビザを取るために必要でしょ?」
「えっ、なに言ってんの?」
「だから、ある程度ドイツ語が話せないと、ビザが下りないんだよ」
「なななんですってぇーーーーー!!!???」

まさかそんなことが、と焦ってドイツ大使館のホームページを見てみると、
「社会への適応促進の観点から、EU非加盟国の人がドイツ人の配偶者としてドイツに移り住む目的でビザを申請する場合、その申請時に基礎的なドイツ語能力があることを証明しなくてはなりません」
としっかり書いてある。
そして、その“ドイツ語能力があることを証明”する書類が、世界中に支所を持つドイツの文化交流機関「ゲーテ・インスティトゥート」が行う語学検定試験の合格証書だというのです。

「私は配偶者だからビザ取得は楽勝なはず。言葉はあっちに行けばいやでも覚えるでしょ」
なんてのんきに構えていた私に、突然の「ドイツ語学習」という壁が立ちはだかったのです。
しかも日程を見ると、試験は約3ヵ月後、それが日本で試験を受けられる最初で最後のチャンス。

「まずいじゃん! もっとはやく言ってよ!」
「いや~、僕も最近知ったんだよ。でも君なら大丈夫だよ! 英語も話せるんだし」
ねぇ、このつたない英語を話せるようになるまで、どれだけかかったと思ってるの……(私には留学や海外在住経験はありません)。

「A1」はC2まである6段階のうちのいちばん下のレベルですが、自己紹介ができ、身近な日常生活の場面である程度コミュニケーションがはかれるレベル、とされています。
ドイツ語といえば「グーテンターク」や「ダンケシェーン」、あとは「イッヒリーベディッヒ」くらいしか知らないところからでは、はるか遠い道のり。
大学で第二外国語にドイツ語を専攻しなかったことを後悔しながら(私の専攻は中国語、で、もちろんそれも忘却の彼方)、辞書や参考書を買いに走りました。

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妻にドイツ語の脅威が迫る

さて、まずはアルファベットから。しかし、
A(アー)、B(ベー)、C(ツェー)、D(デー)までは聞いたことがありましたが、
H(ハー)、I(イー)、J(ヨット)あたりからすでに怪しくなり、
Y(ユプシロン)、ß(エスツェット)に至っては、何がなんだかわからなくなり、
A、O、Uの上になぜか点々があるのを見て、気が遠くなる始末。

Sonntag(ゾンターク、日曜)、Montag(モーンターク、月曜)、Dienstag(ディーンスターク、火曜)ときておきながら、いきなりMittwoch(ミットヴォッホ、水曜)となる謎。
(あとで週Wocheの真ん中Mitteだから、ということがわかりましたが、それでも納得できません)

響きも可愛くありません。
せっかくの誕生日プレゼントもGeburtstagsgeschenk(ゲブルツタークスゲシェンク)ではなんだか嫌がらせみたいだし、美しいはずの蝶々もSchmetterling(シュメタリン)だとどちらかというと芋虫の怪物のよう。
数字の0はnull(ヌル)で、携帯電話の番号を言うときにも、ヌルノインヌル、ヌルヌル……などとたいへん気持ちが悪い。

それに単語もいちいち長い。
例えば、日本語では「つわり」とたった3音の単語が、用意はいいでしょうか、
Schwangerschaftsbeschwerden(読み方は放棄)
です。いかにもつらそうでしょう。

もちろん、男性名詞、女性名詞、中性名詞の存在と、悪名高き格変化。
複数形だって、8種類ものパターンがあります。
このあたりは現時点では「間違えたって仕方なし」とするしかありません。

それでもビザ取得のためとあってはあきらめるわけにはいきません。
NHKの語学講座を聴いたり、夫にトレーニングをしてもらったりしながら、嫌々学習を重ねていました。

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妻の苦悩を駆逐する“救世主”現る

しかし、そこへドイツ語の概念を変えてくれる救世主が現れたのです。
彼女はとある集まりで一緒になった、いわゆる“オタク女子”。
その子が、私がドイツ語を学んでいると知るや、興奮気味に、
「ドイツ語いいっすよね! だって、ただの『ボールペン』が『Kugelschreiber(クーゲルシュライバー)』ですよ。武器みたいでめっちゃカッコイイじゃないすか!」
と言ってくれたのです。

そうか……。
大ヒット作品『進撃の巨人』のアニメのオープニングテーマでも、「Seid ihr das Essen? Nein, wir sind der Jäger!(お前たちは食糧か? いや、我々は狩人だ!)」と、勇ましく歌われていたっけ。
ドイツ語はカッコイイ。目からポロリとうろこが落ちた気分でした。

そこからはなんだか勉強も楽しくなり、ただ呪文のように言っていたモーツァルト作曲『アイネクライネナハトムジーク』が、不定冠詞の単数女性形eine+「小さな」の意の形容詞の女性形kleine+「夜」のNacht+「音楽」のMusikだとわかって感激したりして、そうなればもうこっちのもの。

ヒアリングがぎりぎりだったものの試験もなんとか通過。
(私にとっては)燦然と輝くA1の合格証書を手にしたのでした。
このときはまだ、これから2年後、もしビザの延長を求めることになれば今度は2段階上の「B1」の証明書が必要だとはつゆ知らず……。でも、もうきっと大丈夫、ですよね?

イラスト/なをこ

●文:溝口シュテルツ真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)/
1982年生まれ、石川県加賀市出身。編集者。週刊誌編集、グルメ誌編集を経て、現在はドイツ人の夫とともにミュンヘン在住。ドイツを中心に、ヨーロッパの暮らし、旅情報などを発信中。私生活ではドイツ語習得、新妻仕事に四苦八苦する日々を送っている。

2014年8月17日公開

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