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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「日独ゆで卵の作り方
 合戦」

ドイツ人の男性と日本人女性が食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともにお届けします。今回はゆで卵の作り方でヒートアップ! お互いが手の内を探りあいながら戦う姿は必見です(ふたりは主に英語で会話していますが、日本語に翻訳してお届けします)。

日本より安くて美味しいドイツの卵

「もし明日死ぬとしたら、今晩なにを食べたい?」

私は、いわゆるこの「最後の晩餐」の質問をするのが好きです。
日本人であればおしなべて、白いごはん、お味噌汁、それに魚の干物や明太子、納豆などそれぞれが愛するごはんのお供などが挙がってきます。

しかしこれが外国人となると、
目をキラキラさせて
「そりゃあもちろん、マンマの作ったラザーニャだよ!」(イタリア人)、
自嘲気味に
「ハンバーガーって答えてほしいんでしょ? あっ、ピザでもいいかな」(アメリカ人)、
それに「う~ん……」とうなったきりの韓国人(きっとあらゆる韓国料理が頭の中を駆け巡っているのでしょう)など、
さまざまな答えが返ってきて、大変面白いのです。

夫の望む最後の晩餐が「チキンソテー」なのにはもうなにも言うまい、という気分ですが、
私のそれを問われれば、返事はずっと昔から変わらず、「卵かけごはん」です。

ということで、前置きが長くなりましたが、今回のテーマは「卵」について。

ドイツの卵は、新鮮なものを選べば生でいただいても問題ありません。むしろ、ビオ(有機農産物)のものが安く売っているので、日本の通常の卵より美味しいくらい。
安くて美味で、栄養満点。卵は私たちにとっても、毎日の食卓に欠かせない食材となっています。
しかし、「卵かけごはん」が夫にとって「おえっ」という食べ物なのは仕方ないとしても、
私たちがなかなか和解することができなかったのが、「ゆで卵」でした。

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共通点は「卵を冷蔵庫から出す」のみ!

みなさんは、ゆで卵をどうやって作っているでしょう。そして、どういったタイプの仕上がりがお好きでしょう。

私のやり方はこう。
「冷蔵庫から出した卵を、頭が少し出るくらいの水にいれて火にかけ、沸騰してから約5分(サイズによって時間は調節)」
そしてできあがりは、「白身はプリンと歯ごたえよく、黄身の周囲には火が通り、中心はねっとりとした食感」になればベストです。

しかし、夫のやり方はこう。
「冷蔵庫から出した卵のとんがっていないほうに専用ツールで穴を開け、2センチほどの深さの水にいれて火にかけ、沸騰したら1~2分」
火にかける時間が短いわけですから、当然仕上がりは「白身は半熟、黄身はドロリと流れ出すくらいが最高!」ということになります。

つまり、お互い相容れるのは、「卵を冷蔵庫から出す」ところくらい。
私が夫の前で初めてゆで卵を作ったときには、脇から、
「ちょちょっと待って! 穴を開けないで入れちゃうの? ああっ、水入れすぎだよ!」
そしてコトコト鍋底を鳴らす卵をつっつきながら、「ちょっとゆで過ぎじゃない?」と、いちいち口出しをしてきました。

ここからがまたケンカの始まり。
「うるさいなあ! 第一、何のために穴を開けてるわけ?」
「ゆでている間に卵が割れないようにするためだよ」
「私、穴なんか開けなくても一度も割れたことないけど?」
ぐっと言葉に詰まる夫。これで1勝。夫は反撃します。
「でも、そんなにいっぱい水を使ってもったいないよ! ガスや電気もその分必要なわけだし」
「ええっ! ほんの少しの違いじゃん! 第一、水がもったいない電気がもったいないってしょっちゅう言うけど、あなたが礼賛してるお義母さんやお義姉さんの好きな庭仕事はどうなわけ? 水をたーっぷり使ってるでしょ」
「あれはね、ためてある雨水を使っているから大丈夫。庭仕事はむしろエコだよ」
言い返せない私。1勝1敗。さあ、どう返そう……あっ、これだ!
「でもさ、卵に穴を開けるとき、失敗して割っちゃうことってないの?」
すると夫はそこを突かれたか、となんとも言えない顔をして、
「……はい、あります」
「でしょ!」
これで2勝1敗。

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日本流採用も「卵のやわらかさ」問題発生

結果、ゆで卵は、まず「私流」で作られることになりました。
しかし、それを横目で見ながらいまもまだ何か言いたげな顔をしている夫ですから、リベンジの機会を虎視眈々と狙っているに違いありません。
私もちゃんと理論武装しておかなければ、と勝って兜の緒を締めているわけです。

もうひとつ残っている問題は、「卵のやわらかさ」。
どうやらドイツ人は、夫と同様かなりやわらかめのゆで卵を好む傾向があるようです。
ドイツ出張にきた外国人たちが「あれはちょっといただけない」と言っているのを耳にしたこともあります。
ゆで卵はカンカン! とテーブルに打ちつけつるんと皮をむき、そのまま手づかみで塩をつけてがぶり、とやるのが美味しいのに。
しかし、多くのドイツ人が好むドロッとしたゆで卵を食べるときには、そういうわけにはいきません。

エッグスタンドにのせた卵に、ナイフの背で上部の周囲にコツコツとヒビを入れ、そのヒビからナイフをぶすりと貫通させ、上部をフタのように切り取り、残りに塩をふりふり、スプーンでいただく。
不器用で大ざっぱな私は、殻の破片を口に入れてしまったり、黄身をあふれさせたりと四苦八苦。
「朝からこんな上流階級みたいな食べ方、できるか!」
と文字通りさじを投げたくなります。

しかしそんな様子を見て、にやにや笑っている夫を見ると悔しくて、「やってやろうじゃない」という気分になります。
かくして、私流でゆでられた卵は、夫好みのやわらかさでエッグスタンドにのり、食卓に鎮座するようになったのです。
そして、そんなとき私は、「ケンカして、妥協して、折り合って。結婚ってこういうことなのかなあ」なんてことを思うのです。


イラスト/なをこ

●文:溝口シュテルツ真帆(みぞぐち しゅてるつ まほ)/
1982年生まれ、石川県加賀市出身。編集者。週刊誌編集、グルメ誌編集を経て、現在はドイツ人の夫とともにミュンヘン在住。ドイツを中心に、ヨーロッパの暮らし、旅情報などを発信中。私生活ではドイツ語習得、新妻仕事に四苦八苦する日々を送っている。

2014年8月31日公開

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