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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

「シンプルすぎる
ドイツのラクレット」

ドイツ人の男性と日本人女性が食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともに公開。今回は、チーズ好きにはたまらない「ラクレット」についてご紹介します。

ドイツ家庭の多くが「専用グリル」を所有

ラクレット、という料理の名前を、近ごろ耳にした方もいるかもしれません。
スイスの木こりやヤギ飼いたちが、直火であぶってとろけたチーズをじゃがいもとともに食べていたのがはじまりで(そう、『アルプスの少女ハイジ』のまさにあの世界です)、現在ではスイスのほか、南ドイツ、オーストリア、フランスの一部などで愛されている郷土料理です。

日本のレストランでは、大きなチーズの塊をそのまま熱してとけたところをナイフで削り取り、食材にかけていただく正当なスタイルが主流の様子。
ですが、主に家庭内で楽しむこの地域では、いくつもの手のひらサイズのフライパンのような鉄板を上下から電熱で温めて食材に火を通す「ラクレット専用グリル」が多くの家庭に準備されています。
アッツアツのチーズがかかったボリュームのある料理ですから、やはりふさわしい季節は冬。日本のしゃぶしゃぶやすき焼きのように、親族や友人が集まったときや、年末など、少し特別な日に楽しむ料理なのです。

しかし、このラクレットには私もいろいろと驚かされてきました。
初めて挑戦したのは、4年前のクリスマス直後のこと。
お義母さんのうちでご馳走をふるまってくれるということで楽しみにしていたところ、例によって外がすっかり暗くなってもお義母さんがキッチンに立つ気配はなし。
「さてと」と腰を上げたときにはすでに6時過ぎ。ところが、準備はものの20分で終わり。そう、用意が簡単なのもラクレットの魅力のひとつなのです。
テーブルの上には、例の奇妙なホットプレートのようなもの、そしてその上部に大量にゆでられたじゃがいもが鍋ごとドカンとのり、そのほかにはスライスしたチーズ、生の豚肉が並んでいるだけです。

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具材は肉とじゃがいもオンリー!

「君はこの鉄板を3つ使っていいよ。まずは豚肉をのせて焼いて。そして別のではチーズを焼いておく」
夫が懇切丁寧に説明してくれます。しばらくすると、じゅうじゅうという音とともに、肉とチーズが焼けるなんともいい香りが漂ってきます。
「頃合いを見計らって、じゃがいもをお皿にとってひと口大に切って、焼いたお肉を並べて、ハイッ! その上にとろけたチーズをじゃじゃっとかける! これでできあがり」

なるほど、チーズフォンデュを鍋ではなく、鉄板で楽しむようなスタイルなわけです。
ドイツでは豚肉もじゃがいももチーズも大変美味ですから、この三位一体が美味しくないわけはありません。
「ハフハフ、あ、熱い、けど、うまーい!」
私が思わず目を丸くすると、「そうでしょう、そうでしょう」とお義母さんも満足気。

しかし、肉、芋、チーズ、肉、芋、チーズと3往復ばかりすれば、その感動も薄れます。
「ねえ、ほかに野菜とか、シーフードとか焼かないものなの?」
「そう! 肉とじゃがいもだけ! これが正しいラクレットだよ」
そうなのです。日本人であれば、チーズに合いそうな色とりどりの野菜や、シーフード、さらにデザートのフルーツなども準備してさまざまな食材を少しずつ楽しむところでしょうけれど、こちらのスタイルはごくごくシンプル、というかなんというか。

肉、芋、チーズ。肉、芋、チーズ。
ようやく5往復ばかりすると、すっかりお腹もいっぱい。ぽりぽりとピクルスをつまみながら、一心不乱に食べ続けるお義母さんと夫を、頬杖をついて眺めるばかりです。

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他の具材を置いてみたが……

自宅に友人たち5人を招いたラクレットパーティでも同様の光景が。
ブロッコリーやエビも準備してみたものの、やはりみなが飛びつくのは豚肉とじゃがいも。
日本人の私と、もう1人のアイルランド人の女性がほどなくしてぴたっとフォークが止まったのと対照的に、小柄な女性までもがガツガツと食べ続けるのには驚きました。
「う~ん、やっぱり故郷の味は強し……」
などとみなを観察しているうちに、2kg準備したチーズも、すっかりなくなってしまいました。

「本当にドイツ人は豚肉とじゃがいもが好きなんだねぇ」
と私が笑ったせいかどうか、今年のクリスマスに再びお義母さんのうちで行ったラクレットでは、驚きの新食材が並びました。

それは、鶏肉と牛肉!

豚と鶏と牛を同じ食卓にならべるなんて斬新な! とびっくりするやら、感心するやら。だからと言って、肉、芋、チーズの連鎖には変化はないわけで……。香りをかいでいるだけで、どんどんお腹が膨れていくいつもラクレットの風景なのでした。

イラスト/なをこ

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