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ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

薄切りがない……日本人
妻が戸惑うドイツの肉事情

ドイツ人の男性と日本人女性が食生活の違いに戸惑う日々を、イラストとともに公開。今回は、スーパーの肉売り場からはじまる、ドイツの肉事情について。日本人妻があるものがないことに気づき衝撃を受けます。それは一体!?

多種多様な肉売り場に“あれ”がない

ビールジョッキ片手に巨大な肉をがつがつ……なんてステレオタイプなイメージに違わず、ドイツ人たちは本当によく飲み、そしてよく肉を食べます。たとえばレストランでは、日本人ならふたりがかりでもお腹いっぱいになりそうな肉料理を、上品な老夫婦がひとりひと皿ずつ注文してぺろりと平らげていたりして(さらにそのあと巨大なケーキをデザートに注文していたりして)、思わず目を丸くしてしまうことも。

日本でいうイトーヨーカドー級の大きなスーパーマーケットに行っても、やはり最大面積を誇るのは肉売り場。お得意のソーセージやハム類に始まり、何キロもある塊肉から小分けのひき肉まで、大げさではなく、向こうがかすんで見えないくらい、種々多様な肉が売られています。

ところが、なのです。いざ今晩のおかずを、とその広大な肉売り場に行っても……、
炒めものなどに使う薄切り豚肉、なし。
肉じゃがや牛丼用の薄切り牛肉、なし。
鶏のから揚げ用の鶏モモ肉、なし。
つくねやそぼろ用の鶏挽き肉、なし。
と、日本の家庭料理に便利な肉類が、ことごとく売られていないのです。
仕方なく、炒めものや肉じゃがなど代用できそうな料理はひき肉で、鶏のから揚げはムネ肉で妥協。
我が家はドイツ人が相手だからいいものの、「駐在中の日本人の奥さんたち、困ってるだろうな……」と、知らぬ家庭の苦労に思いを馳せていました。

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日本人妻、豚肉の新システムを導入させる

「その豚の塊肉を、できる限りうす~く切ってください」
そう言って、肉店のお兄さんにお願いしてみたこともあります。すると、包丁を手に申し訳なくなるくらい時間をかけて格闘してくれましたが、できたのは豚の生姜焼きにも少し厚いくらいの、微妙な仕上がり。
私のせいかどうかはわかりませんが、同肉店では以降、「前日に言っておいてくれればスライサーで切ったものを準備しておきますよ」というシステムが導入され、豚の薄切り肉は晴れて、予約購入できることになりました。

鶏モモ肉は、クリスマスのときに食べるような骨付きのものであればいつでも店頭に並んでいます。
それを指をくわえて眺めていたところ、ドイツで知り合った日本女性がかつて日本料理店で働いていて、鶏モモ肉の骨の楽な外し方を知っていると言うではないですか。これ幸いとほかの日本女性も誘って彼女の自宅でプチ講習会を開いてもらい(その後のから揚げパーティーの楽しかったこと!)、鶏モモ肉についてもクリア。

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努力を重ねる妻に牛丼屋の夢を語るドイツ夫

問題は牛肉です。ドイツ人はいわゆる“サシ”の入った牛肉を好まないようで、売っているのはステーキや煮込みに使う厚切りの赤身ばかり。うまい具合に脂の入った牛肉が近隣では見つかりません。つい先日、とある日本料理店で和牛を予約購入できるという耳寄り情報も仕入れましたが、もちろんかなり高価なもの。日常使いはとてもできません。

鶏ひき肉についても肉店に尋ねてみましたが、「なんで鶏のひき肉なんかほしいんだ?」と不審顔をされつつ、やっていないと断られました。最近購入したフードミキサーでうまくいくものか、目下試そうと思っているところです(しかし、骨を外すところからだと考えるとかなり面倒です)。

とまあ、東京の独身生活で外食三昧していた私にとって、こうやって少しずつ「生活の知恵」を蓄えて徐々に料理のレパートリーが増えていくのは、これまで知らなかった類の喜びではあります。

そんな地道な努力を夫は知らず、鶏モモ肉を苦労してさばいて作ったから揚げをムネ肉のときと変わらぬ勢いでパクパク食べます。

「から揚げって本当に美味しいよね!」
「そうだね。でも今日のはいつもとちょっと違うと思わない?」
「えっ、えっと~、ちょっとニンニク入れた?」
「いえ、ニンニクはいつも入れてます」
「えーとえーと、う~ん、衣が……」
「もういい」

と、なんとも張り合いなし。まあ、日本食を作るのはほとんど自分自身のため。美味しい美味しい、ありがとう、と残さず食べてくれれば、作った人間としてはそれだけでうれしいものです。

さらに、牛丼が大好物の夫は、こんなことも言います。
「ああ、久しぶりにすき家の牛丼が食べたいなぁ。ドイツであんな感じの牛丼屋やったら絶対流行るよね! 作っておいたものをパッとご飯にのせるだけで、提供するのも楽だし。どう思う?」
「ええ~、どう思うって、そんな簡単じゃないって」
「正直、イマイチなケバブ屋だってランチタイムには大混雑してるんだよ? 絶対うまくいくと思うけどなぁ、牛丼屋」

目をキラキラさせて語る夫は、私たちが住むアパートの階下にあるケバブ屋の前で立ち止まり「彼らがいなくなってくれればベストなんだけど」などとつぶやいていて、「牛丼屋開店の夢」があながち冗談にも聞こえず空恐ろしいのです。

真剣に相談されたときのために、
「安くて美味しくて、脂がいい具合に入った牛の薄切り肉をどうやって確保するの?」
のセリフを準備して反撃予定です。

イラスト/なをこ

2015年3月29日公開

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