Web Original

ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

新婚1年目!
ドイツ夫と日本人妻の「フードファイト」

日本人が現地で感じた
奥深きドイツパンの世界

ドイツ人の男性と結婚し、ドイツへ嫁いだ日本人女性。種類が豊富なドイツパンから見る、日本とドイツのパンに対する考えの違いを、イラストとともに公開します。

南ドイツのソウルフード・プレッツェル

「ドイツのパンは美味しい」、近ごろ日本でもそんな意見が浸透してきているように思います。たしかにドイツパンは、素朴でそっけない見た目のものが多いですが、噛み締めた末に広がる奥深い風味がなんともクセになり、毎食食べても飽きることはありません。私にとってドイツの食生活がそれほどつらくないのは、このパンのおかげといってもいいくらいです。

「ドイツパン」とひと言に言っても、もちろん種類はさまざま。普段の食卓に並ぶことが多い、たいていは色が濃く酸味があり、ずっしりと大きなパンを総称したBauernbrot(バオアーンブロート、農民パンの意味)、ハートのような形をしたBrezel(いわゆるプレッツェル、正しくはブレーツェルと発音します)、シンプルな小型の白パンSemmel(ゼンメル、地域によって呼び名が変わります)、たっぷりと砂糖がけした渦巻き型のSchnecke(シュネッケ、カタツムリの意味)など、一説には1500種ものパンがあると言われています。

私が住む南部のミュンヘンでは、何を言ってもまずはプレッツェル。朝、パン屋で買ってきたばかりのものにバターをたっぷり塗って食べるのはもちろん、売店で買ったものを駅のホームでかじる人、ビアガーデンで直径30cmはあろうかという巨大なものを腕にひっかけている人、おや? そこのベビーカーのなかの赤ちゃんは、おしゃぶりがわりにプレッツェルをしゃぶっています。南部ドイツ人にとって、プレッツェルはまさにソウルフード。もしかしたら日本人にとってのおにぎり以上の存在かもしれません。

<次ページへ続く>

日本のパンは高すぎる

もちろん、生まれも育ちもミュンヘンのわが夫もその例にもれません。スペインでの長旅をしていた際には、パンといえばひたすらバゲット。同じパン食の国の人だからへっちゃらだろうと思っていたら、私以上にげんなりした顔で「プレッツェルが食べたい……」とうわごとのようにつぶやく始末です。

そんな夫に「ところで日本のパンをどう思う?」と尋ねてみました。
すると、「う~ん、まあまあじゃない? 日本で働いていたころは、ドイツ人の同僚たちとランチをパンで済ませることもあったよ」との意見。甘くてふわふわした日本のパンを苦手とするドイツ人が多い、と耳にしていた私がちょっと意外に思っていたら、「でも、値段がとにかく高いよね~」と続けます。
「え、でもスーパーで買えばひとつ100円だし、パン屋のでも200円程度じゃない?」
と不思議に思って聞くと、
「だって、おかずパン2~3個に、菓子パン2~3個であっというまに1000円じゃん」
と答えるのを聞いて仰天。
「えっ、6個も食べるの?」
「だって、ひとつが小さいし、スカスカしてお腹にたまらないし……」
そうなのです。主なドイツパンはぎっしりずっしり、しっかりと噛み締める必要があるため、例えば薄くスライスしたものをハムやチーズとともに2~3枚も食べればすっかりお腹がふくれますが、日本の優しいパンではそうはいかない。かくして、ドイツ軍がパン屋の棚をすっかりさらっていくようなランチとなるわけです。

<次ページへ続く>

ここまで違う!? 日本とドイツのトースト観

また、「厚切り食パン」の存在も不可解なものらしい。日本で暮らしていたころ、ヤマザキパンの「ダブルソフト」を手に取ろうとしたら、「それは苦手だから、こっちでいい?」とサンドイッチ用の薄切り食パンをカゴに入れられたことも。サクサクとおせんべいのような軽さで食べるのがドイツ人にとっての「正しいトースト」のようです。

そしていまひとつ納得がいかないのは、私の大好きなフレンチトーストが、「Arme Ritter(アルメリッター)」という名前で呼ばれていること。Armeは貧しい、Ritterは騎士の意味。困窮した騎士が仕方なく古いパンを牛乳にひたして食べたという謂れなのでしょうけれど、「貧しい騎士」なんて、あんな素敵な食べ物に失礼な名前です。

ところで、ドイツのパン屋は、店員さんにほしいものを伝えて取ってもらう対面式。ところが、まだ名前がわからないパンも多く「あの、その一番右上のやつを、いやいや、それじゃなくて……そうそう、それ!」なんてやり取りをして、購入するにもひと苦労。
そして、大きなパンを買ったときには、専用機でちゃんとスライスしてもらうことも忘れてはいけません。
一度スライスしてもらいそこねたときには、自宅のパン切り包丁で悪戦苦闘。がりがりがり、ごりごりごり……まるで日曜大工中のような音がキッチンに響きます。そして、すっかり痛くなってしまった右手をさすりながら、ようやく少しだけドイツパンの深淵をのぞき込んだような気持ちになったのでした。

イラスト/なをこ

2015年5月10日公開

『フードファイト』の他の回もチェック!
「ドイツ人夫と日本人妻の『フードファイト』」一覧
「パンとハムとチーズの無限ループ」
「デンジャラス!? 日本食に挑戦」
「きっかけはパスタ。声を荒らげて大喧嘩」
「チョコレートモンスター」
「想像以上に大変! 婚姻手続き」
「キッチンで見た夫の“奇行”」
「過酷すぎる新婚旅行」
「“旅人メニュー”に一喜一憂」
「5週間の旅で“最高の夜”」
「渡独できない!? 進撃のドイツ語学習」
「日独ゆで卵の作り方合戦」
「日本では考えられない! ドイツ流ジュースの飲み方」
「想像以上に根深い? ドイツ人へのお土産問題」
「本場オクトーバーフェストでの苦い思い出」
「日本人妻の母が見たドイツの七不思議」
「恐るべし……ドイツの結婚式(前編)」
「恐るべし……ドイツの結婚式(後編)」
「ドイツ人男性は甘いものがお・好・き」
「早い! 長い! ドイツのクリスマス」
「個性爆発! 自由すぎるドイツ語学校の生徒たち」
「食べても減らない! ドイツの“焼き菓子地獄”」
「シンプルすぎるドイツのラクレット」
「ふたりに温度差あり? 日独バレンタインデー」
「ドイツの謎の行事「ファッシング」に迫る」
「日本人妻が震える 寒さに強いドイツ人」
「薄切りがない…… 日本人妻が戸惑うドイツの肉事情」
「日本人妻、ドイツでお米に一喜一憂」
「冗談? 本気? ドイツ人のプレゼント」

<次ページへ続く>

1 2 3 4 5

関連書籍

  • 個室で大切な人と“おもてなし”レストラン
  • 最後の築地
  • ひと味違う 中華街&横浜
  • 大東京23区散歩
  • とっておきの銀座
  • 口福三昧
  • 最強の麺 219軒
  • お値打ちの三ツ星店
  • 移民の宴
  • 綾小路きみまろ公式ファンブック
おとなの週末 Select

人気の特集だけを、
電子版限定でセレクトしました

おとなの週末公式アカウントはこちら
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE