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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第11回

世界一周“仰天肉グルメ” by 白石あづさ/2014年10月22日

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第11回
恋する女子大生も大好き!
ヒツジ脳みそサンドイッチ

 サンドイッチ屋さんにハムやチキンと並んで脳みその具。「絶対、おいしいから」と自信満々で注文したのはイランの恋する女子大生。ガールズトークしながら食べたヒツジの脳みそサンドイッチ。それは日本のおでん屋さんが懐かしくなる味であった。

もしや、人さらい?

 トルクメニスタンからてくてく歩いて国境を渡りイランへ。国境のイミグレーションオフィスのおじさんがパスポートに、ポーン!と押してくれたスタンプの西暦があれれ? 600年くらい間違ってない? 

「おじさん、日付が違うよ」
「いいの。イランの暦では今1400年代だから」
へえ、カレンダーって世界共通じゃないのね。

国境にいる女性たちは、チャドルと呼ばれる黒いマントのようなものを着こみ、目だけ出してモゴモゴと動いている。なんだかSF映画の世界に入り込んでしまった気分だ。

 長距離バスに乗り込んで一路、古都イスファンへ。途中、ドライブインに止まると同じバスのおじさんが、「あんたにも」とジュースをご馳走してくれた。飲んでみると、コカコーラに味がそっくりで、イランでは「ザムザム」というらしい。白ヒゲの威厳に満ちたおじいさんもチャドルのおばさんもみんなザムザム。ストローでチューッとすすっている。

朝の4時くらいだろうか、まだ薄暗い時間に到着すると、今度は隣の席に座っていた60歳くらいのおばちゃんが、ペルシャ語で一生懸命、話しかけてくる。さっぱり分からず、首を振っていたら、私の手をギュッと握り、そのまま引っ張ってどこかに連れて行こうとするのだ! ん? ホテル街はこっちよ、おばちゃん。どこ行くの?

どうやら「とりあえずうちに来なさい」と言ってるようなのだが、まだ日の出前で空には月が白く光り、遠くから犬の遠吠えも聞こえてくる。見知らぬ街の暗闇を黙ってヒタヒタ歩いていると、魔界の入り口に向かっているかのよう。
 
もしや、このおばちゃん、人さらい? 連れて行かれた先でギャングが出てきたらどうしよう? 不安になって反対側に行こうとしたら、おばちゃん、夜空を指さして「まだ、暗いから待ちなさい」と離さない。ややや、私、これからどうなる?

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あなた……誰?

 真っ暗な住宅街の一角に、一軒だけ明かりがついている家が見えてきた。どうやらそこがおばちゃんの家らしい。建てつけの悪いドアをドカンと開けると、「ママ、おかえり!」とばかりに、20、30代くらいの娘2人と息子が飛び出してきた。

が、おばちゃんの後ろにいるボーッと立っている私を見てギョギョッ! そりゃ、真夜中に、のっぺり顔で目の細い日本人が家の前にいたら驚くだろう。ファラという大学生の次女が、カタコトの英語で恐る恐る話しかけてきた。

「あ、あの……あなた、誰?」
「私、日本人の旅人。あなたのお母さんはよくガイジン連れてくるの?」
「ううん、はじめて。ま、入って、入って」

ファラの説明によると、「イスラム教徒は旅人には親切にせよ、という戒律があって、お母さんは心配してあなたを連れて帰ってきた」とのことらしい。あー、よかった、ギャングと関係なくて。

 居間のペルシャ絨毯の上にテーブル代わりの布をハラリと敷いて、チーズに菜っ葉の煮込み、チャパティのような柔らかいパンを並べてくれた。あぐらをかいてみんなで丸くなってご飯タイム。食器と布を片付けたら、布団を並べてゴロゴロと雑魚寝。まるで違う国だと思っていたけれど、昔ながらの日本のライフスタイルと似ていてほっとしたのだ。

お茶を飲んでばかりのイラン人

 お昼ごろ、目が覚めると、なぜか家には人が増えていた。日本人を見にやってきた近所の人らしい。「ああ、ようやく日本人が起きた」ということでお茶タイム。ファラは「うちのお母さんが連れてきたのよ!」と自慢するんだけど、私、日本人という以外、なんの取り得もない。せいぜい折鶴を折るくらい。日本舞踊とか茶道とか手巻き寿司とかできたらよかったな。拾ってきた日本人が、イケてなくて申し訳ない気持ちに。

 ところで、イランの家庭では「え? また?」というくらいお茶を飲む。お客さんが来たらお茶、帰ってもお茶、食器洗ったらお茶、洗濯干したらお茶。寝ているよりもお茶を飲んでいる時間のほうが長い気がする。

独特なのは飲み方だ。紅茶に砂糖を入れて溶かすのではなく、舌に角砂糖を乗せ、少しずつ溶かしながら飲む。私は耐え切れずにボリボリかじるから、家族も近所の人も大爆笑。これ、すごく難しいのよ。日本で箸が使えない外国人の気持ちがわかる気がする。

そして、お茶を飲むために、一日中、台所のガスコンロで大量のお湯を沸かしている。私が「もう沸いているよー」とガスを切ると、「だめだめ、ガスはつけっ放しでいいの」と、またつけてしまう。

ファラの家はお父さんがいなくて、中流家庭よりもちょっと貧しいくらいなのだそうだが、いつでも蛇口からお湯は出るし、家のなかはトイレや廊下まで、どこもポカポカあたたかい。光熱費の高い日本の実家なんて、ぶるぶる震えながらも暖房費を節約しているのに、ガスも石油もありあまる資源国って贅沢だなあ!

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恋をしたことがありますか?

 夕方、「お客さんも帰ったことだし、イスファンの街を案内するね」と、おばちゃん一家が散歩に連れていってくれた。ファラと並んで先頭を歩いていたら、小声で「あづさ……ちょっと聞いていい?」とモジモジ。お? 親には言えぬ秘密の話? 

「あのさー…」
「ファラ、どうかした?」
「えーとさ、あづさは、その……」
「ん?」
「恋、ってしたことある? きゃーーー!!!」
「えっ!?」

ひとりで顔を真っ赤にして、橋の向こうまで、全速力で走っていってしまったファラの背中を呆然と見つめながら、ひとり取り残された私は、なんだか女子高の先生になった気分であった。か、かわいい。

驚愕のコッペパン

 ファラは照れ隠しなのか、「橋のそばのサンドイッチ屋がおいしいから早くおいでよ」と手を振っている。恋の話はもういいのか? イランのサンドイッチって何だろう? 入ってみると、ガラスのケースに、ハムやチキン、ひよこ豆をつぶしてボール状に揚げたファラフェルなどの具が並んでいる。レタスやトマトも入れてコッペパンに挟んでひとつ50円から100円くらい。

「ファラ、おすすめはどれ?」
「これ! サンドビーチェマーグズ!!」

と、指をさした一番、はじっこの黄色いウネウネした塊……え!?

「な、なにこれ?」
「日本じゃ食べないの? ヒツジのここよ!」

ファラは笑って自分の頭をつんつん、と指さしている。
え? の、の、の、脳みそ!?

「ヒツジは足とか背中よりも、こっちのほうが、おいしいからね~」と、家族と私の分をさっさと注文してしまった。ああ、脳みそって、コッペパンに挟んで食べるものなのね。

見た目は白子。白子は精巣だが、精巣と脳みそって形は似てる。黄色いのはターメリックで味付けしているからだろうか? 

 人の親切はありがたく受けることにしている私だけど、まさかの脳みそにはうろたえる。サンドイッチ屋のお兄さんが、「日本人? ならサービスしちゃうぜ!」とウインクしながら、私のコッペパンだけ脳みそをモリモリ詰めはじめた。わわわ、やめて、やめて!! お兄さん、わかってないわね、私の心の動揺にちっとも気がついてない。

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ええ、食べますとも

 脳みそバーガーが人数分、出来上がり、「ザムザム」とともに運ばれてくるころ、遅れて歩いていたおばちゃんたちも店に到着。ああ、一個だけコッペパンから脳みそがウネウネはみだしているけど、これが私のね(泣)。

もしかして、毛虫みたいに(食べたことないけど)、ネットリしてすんごい気持ち悪い味がするのかな?
「ねえ、ママ! あづさ、ヒツジの脳みそ食べるのはじめてなんだって!」とファラの言葉に、家族だけではなく店員さんもお客さんも振り返る。ザワザワと店中大注目のなか、「脳みそはいやです」ってわけにはいきません。

「い、いただきます」。意を決して脳みそのはじっこを食べてみると……あ、これは……カレー味の白子だ!! ふわふわっとして、食感は豆腐といってもいい。なんだ、うまいではないか! 「あ、日本人が食った!」と店中で拍手喝采。これ、ハムやチキンの具よりも安いのだけど、白子と思えば高級食材だ。なぜ日本では食べないのかしら? おでん屋さんで白子のかわりに出されても分からないかもしれない。

 ファラたちも、チュルチュル脳みそをすすりながら食べはじめた。イランの女子大生は初々しくてかわいいけれど、こうしてみるとワイルドだ。

「さっきの続きだけど……」
「恋の話?」
「うん、うん」
「誰か好きな人いるの?」
「うん、うん」

 脳みそを食べながら、ガールズトークは恋の話。何を話したのか、よく覚えていない。でも、恋の話をするファラはドキドキしていて、私は脳みそサンドイッチにドキドキしていた。私は、日本のおでん屋で白子を食べるたび、頬を赤く染めた恋するイランガールを思い出すのだ。

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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