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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第14回

世界一周“仰天肉グルメ” by 白石あづさ/2014年12月3日

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第14回
働き者のビーバーを
プラムと煮込んだら?

 せっせと川にダムを作る愛らしいビーバーもリトアニアでは食材に。プラムと一緒にぐつぐつ煮込まれたビーバーは、いったいどんな味がするのだろう?

“湖まるごと温泉”でプカプカと浮いてみる

 世界にはいろいろな温泉があるけれど、ハンガリーには湖まるごと温泉という珍しい「ヘーヴィーズ湖」がある。首都ブダペストで知り合った旅人たちと一緒に、西行きの電車で2時間半。さらにそこからバスで森の奥へ奥へと入っていくと、木々に囲まれた温泉の入り口が見えてきた。

水着に着替えてさあ湖へ……と思ったら、簡単に一周できそうな小さな池! 湖とは言いすぎである。しかし、もうもうと湯気を立てる水面に、たくさんの人間がプカプカと浮いている様子は実に不思議な光景だ。

水深36m。泳ぎ続けなければ沈む温泉。せっせと泳いでいる人もいるが、温泉なのに労働はしたくない。レンタル浮き輪を借りて湖にドボン! 夏は水温33度、冬でも凍らず26度あるのは立派だが、日本の温泉とは違って、ぬるい温水プールといった感じだ。

温水が湧き出る湖は水流があり、フワーッと流されていく。脱力して空を見上げボーッとしていると、なんだか人間ではない水辺の生物の気分になってくる。

「プカプカしてラッコ気分だね」
「あづさちゃん、ラッコは海じゃない?」
「あれ? そうだっけ?」
「お腹で貝、割ってるし」
「ああそうか、川ならビーバーだね。ダム作るほう」
「湖はどっちかな?」
「淡水だからビーバーじゃなかろうか?」

実際のビーバーは、せっせとダムを作り続ける働き者だから、こんなにぼんやりと浮いてはないだろう。これから向かうバルト三国には野生のビーバーがたくさんいると聞く。もしかしたら、川でダムを作るビーバーが見られるかもしれない。

しかし、生きているビーバーよりも早く、お皿に盛られたビーバーに出会うことになるとは、このときはまだ、思いもよらなかったのだった。

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クマはいないが……

 ハンガリーから北上し、流れ流れてバルト三国のひとつ、リトアニアへ。首都ビリニュスの街をぶらぶらしていると、木彫りの変な動物が中腰でこっちを見ている。パンダのようなアライグマのような、これはいったい?

写真を撮ろうとしたその時、レストランからウエイターのお兄さんが出てきて、カタコトの英語で話しかけてきた。

「どこから来たの?」
「日本からだよ。ところで、これは何?」
「ベアー!」
「えっ!? クマには見えない!」
「みんな、そう言う」
「ということは、ここ、クマ料理の店なの?」
「ノー!」
「なんだあ」

日本の居酒屋の店先によく置いてあるタヌキの置物のようなものかもしれない。外国人からみたら、タヌキ料理の店に見えているのだろうか。「ありがと、じゃーね」と立ち去ろうとした私に、「ちょっと待て、日本人!」と呼び止めたお兄さんが放った衝撃の一言。

「クマはいないが、ビーバーはいる」
「えっ!?ビーバー!?」

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煮込まれたビーバー

 ビーバー料理……聞き間違えだろうか? 
お兄さんが、英語メニューを持ってきて、「ほれ、ここだ」と指差した英単語を読むと「b・e・a・v・e・r」! ほんとだ。

「ビーバー、どうするの?」
「うちはシチュー!」
「煮込みビーバー……旨いの?」
「イエス。プラムと煮込むから大丈夫」

 あのカワイイ川辺の働き者を食べていいのだろうか? 罪悪感がなくはなかったが、プラム煮込みとは気になる。丸々太ったビーバーの太ももを思い浮かべると、お兄さんの言うとおり、旨そうな気がする。

 テーブルに案内され、待つこと30分。ホカホカの煮込みビーバーが運ばれてきた。丼に肉がたっぷり。匂いをかぐと甘酸っぱい香りがするが、これはビーバーではなく、プラムソースのものであろう。

ヨーロッパでは、ジビエにフルーツの甘いソースをかけたり、煮込んだりすることが多い。ウサギのようにちょっとほろ苦い味がするのだろうか? それとも鴨のようなジューシーで濃厚な味なのか?

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ウサギの仲間ではなかった

 それではいただきます! 最初はプラムの酸っぱさが……次に……ん? こ、これはっ!?

く、臭い!!……どう臭いか!? ええと、澱んだ川で釣ってしまった鯉の味!!

……と言えばおわかりになるだろうか? 小さい頃、住宅街に流れる川で父が釣ってきた泥臭い川魚が脳をかすめた。ちょっと懐かしいが恐ろしく臭いぞ!

「旨いか?」
「お兄さん、このビーバー、臭いよ」
「そこがいいのだ。ソースをいっぱいつけなさい」
「うう」

残したら悪いと思って、ワインで流し込んでがんばって食べたけれど、正直つらい。ビーバー、いったい何の仲間なんだろう? ウサギはあんなに美味しいのに。

「お兄さん、ビーバーって何の仲間?」
「え? マウスだよ」

ええっ!? ネ、ネ、ネズミ!? うえー!

「ウ、ウサギとかラッコの仲間じゃないの!?」
「ほら、ネズミみたいに、歯が出てるじゃないか」
「そんな……ウサギだって、歯が出てるよ!」

お兄さんがおどけて「チュウチュウ」とネズミの物真似をするのを呆然と眺めながら、頭が真っ白に。聞いたのが食べた後で良かったのか悪かったのか。ネズミと聞いたら、絶対、食べなかったのになあ。

人生初ネズミは不味かった。でも臭いのは川育ちだからであろうか? 海の魚は臭くない。もしかしたら海育ちで貝ばかり食べているラッコなら、美味しいのかもしれない。

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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