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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第18回

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第18回
開拓者が食べる味?
密林のバッファロー

 インドでバッファローカレーを食べて以来、バッファローとは無縁の旅生活を送っていたある日、アマゾンの中洲に辿り着いた私を待っていたのは、ホカホカのバッファローステーキ! 果たしてバッファローの肉力とは?

悪魔の使いに乗ってみる

 インドのヒンズゥー教で“悪魔の使い”とされるバッファロー。その肉を煮込んだ“悪魔カレー”を食べてから数年後、流れ流れてブラジルのアマゾン川にやってきた。噂に聞いていたが、川が恐ろしく巨大! 向こう岸が全く見えない。波もザブザブ打ち寄せて、まるで海のような光景にただ、驚くばかり。

その河口付近に、隅田川でいうと月島のような中州があるのだけど、それがアマゾンになるとスケールがでかいのなんの、なんと九州くらいあるのだ。

フェリーで3時間かけてマラジョー島になる中州に上陸すると、ファームステイ先のおばちゃんが出迎えてくれた。

「ようこそ、マラジョー島へ!」
「ありがとう! それで車は?」
「うちまではボートで行くのよ」

 マングローブが生い茂る小川を進んでいくと、赤い鳥が一斉に羽ばたいたり、サルが木の影から飛び出してきたり、アマゾン感たっぷりだ。30分も進んだだろうか、視界がパッと開けておばちゃんの牧場が現れた。風で揺れる草原のなかに建つ白い洋風の二階建て。丘はないけれど、小さな小川もあり、昔、読んだ『赤毛のアン』の世界にやってきたようだ。

「うわー、素敵! 『赤毛のアン』の家みたい! アマゾンだけど」
「うちにバッファローがいるよ! 乗ってみる?」
「サタンの使いに!?」
「変なこと言うお客だね(笑)。日本ではそうなのかい?」
「ノー。言ってたのはインド人」
「うちのは、おとなしくて、かわいいよ!」

牧場の乗り物といえば馬のはずなんだけど、ここはアマゾン。まあ、文句は言うまい。“悪魔の使い”と呼ばれたバッファローも、近くで見るとつぶらな瞳がかわいい。よっこらっしょ、とバッファローの背によじ登る。「それいけ、サタン!」と、手綱を引くと、馬とは違ってもたもたと進むのだった。

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初めての牧場体験!

 乗馬ならぬ乗牛にワクワクしていたのは最初だけ。バッファローの背中は固くてゴツゴツして、乗り心地の悪いこと。庭を一周しただけで牛酔いしてお尻が痛くなってきた。

「おーい! 湿原も行きたいかい?」
「ううん、おばちゃん、もういい」
「なんだ、飽きちゃったの? じゃあ絞る?」

 次は乳搾り。小さいころ、千葉の『マザー牧場』でホルスタインのお乳を搾ったことがあるけれど、本格的な牧場体験はこれが初めてだ。体の大きさは普通の牛とあまり変わらないけど、私が下手だからか、バッファローが嫌がってジタバタ動くもんだから、乳があっちにピュー! こっちにピュー! ちっともバケツに入らない。

「ちょっと、バッファロー、動かないでよ!」
「ちゃんとバケツに溜めてね」
「これ飲むの?」
「ミルクとしても使うけど、どちらかというとモッツェレラチーズかなあ」
「旨そう! インドでは、モッツァレラチーズなんて見なかった」
「今夜はね、バッファローのステーキを食べさせてあげるから」
「ステーキ!?」

ちゃぷちゃぷと少し入ったミルクのバケツを運ぶと、アルプスの少女ハイジにでもなった気分。ここはスイスではなくアマゾンで、乳を絞ったのはヤギではなくバッファローだったとしても、だ。

インドでは煮込まれすぎて、カレーの味しかしなかったバッファローの肉。ステーキなら本来の味が楽しめるはずだ。牛よりもうまいのか? いよいよ、バッファローのホントの肉力が分かるときが来た!

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牧場にワニとピラニア?

 暮れなずむ夕焼けを見ながら、外のテーブルで夕ご飯が始まる。野菜スープのあと、念願のステーキが運ばれてきたのだが、目の前には生きたバッファロー。マザー牧場だって、羊を見ながらジンギスカンするわけだから、と思いつつも、さっきまで一緒に遊んだバッファローにじっと見つめられると、申し訳ない気持ちに。

しかし、そんなセンチメンタルな気分も、おばちゃんの一言でぶっとんだ。
「そこにマラリア蚊、飛んでる!」
「ええっ!? いやあああ!」
おばちゃん、おもむろに手でパチン! 
「お尻を上げてる蚊がきたら、ごはんよりも先に叩いてね。肉の匂いでやってくるから」
「わ、わかった……。蚊はバッファロー好きなのかな?」
「ああ、本当はね、ワニも出るから捕まえたら、こっちもステーキにして出してあげようと思ったんだけど」
「ワ、ワニ!? ど、どこで!?」
「目の前の小川に。時々、上陸して涼んでるの。ああ、ピラニアもいるよ」

牧場にワニやピラニアやマラリア蚊だなんて……やっぱりアンの家と同じなのは見かけだけなのね。ここはアマゾン。小川で遊ばないでよかった! 

「おばちゃん、噛まれたことないの?」
「噛まれるの、気にしてたら生活できないよ。明日、一緒に泳ぐ?」

いいえ、泳ぎません! 開拓者はワイルド過ぎる。バッファローが見てるから食欲湧かないの……なんて乙女なことを言っていては、こんなところで生きていけないのだ。いや、生きていかないけど。

 ではバッファローさん、遠慮なく、いただきます! もぐもぐ……ん? もぐもぐ……もぐもぐ……固っ!!
ぜんぜん、噛み切れないんだけど? そして、なんか臭い!! 独特の臭み……大味な猪と言えばいいのだろうか? 臭くて固いバッファローはまだこっちをじっと見てる。

「ごめんね、おまえ、ちょっと美味しくないよ」と念を送ってみたが届いてはいるまい。無言で長い間、もぐもぐしているうちに、これこそ、開拓者が食べる頑固な肉……これはこれでアマゾンの牧場らしい味なのだと力が沸いてくるのだった。

2015年1月28日公開

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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