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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第21回

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第21回
魅惑のワニ料理 後編
背中のゴツゴツを煮込んだ
ワニカレーの味は如何に?

 アマゾンで子ワニを生け捕りにしたものの、ついに食べることなく帰国した私を待っていたのは、ワニを300匹も飼う静岡のおじさんだった。日本で初となる食用ワニの飼育に情熱を注ぐおじさんの真の目的とは? そして、おじさん絶賛のワニの背中のゴツゴツを煮込んだワニカレーの味とは?

忘れたころにかかってきた一本の電話

 アマゾンにうじゃうじゃいるワニを見ただけで、結局、食い損ねた話は前回、書いた。

 食い損ねた肉は、いつか食わねばならない。しかし、帰国するや、日本のうまい鶏や豚や牛に満足して、遠いアマゾンの記憶など忘れ去っていたある日のこと、いつも風呂敷を抱えている一風変わった某誌の編集長から一本の電話がかかってきた。

「し、白石さん、静岡にワニを300匹くらい飼っているおじさんがいるんだけど……」
「えっ!? それってバナナワニ園ですかね?」
「いや違います。どうも牛やブタを飼うように家畜としてワニを飼っているみたい。ぜひ取材に行きましょう」
「……ワニに食べられたらいやだなあ」
「いえ、食用なのでこっちが食べるんです!」
「檻に入って格闘させられたりしないですよね?」
「そ、その時は私が入りますから」

その言葉を信じて、仕事を引き受けたのだが……すぐに後悔することになろうとは、この時は思いもよらなかったのだ。

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ネクタイをした白い犬

 取材当日、編集長は風呂敷を抱えて東京駅にやってきた。

「編集長、ワニおじさんってどんな人ですか?」
「わ、私も会ったことがありません。だけど日本ではじめてのワニ養殖ですからね、変わった人でしょう」
「うーん、シッポを持って振り回すような人じゃないとワニは飼育できないよね、きっとごついおじさんかもしれませんね」

ところが、新幹線を降りた私たちを改札で待っていたのは、ほっそりして優しそうなおじさんだった。「……なんだ、普通の人だね」
「よかった、安心した」

と、お迎えの車のなかでひそひそ話しているうちにワニ農園到着。番犬の白い犬がバウバウ吠えている。が……なんか変……ん? ん? なんと!!

「編集長、あの犬……」
「あっ! 犬がネクタイしてる!?」
「裸にネクタイって……」
「や、やっぱり、あのおじさん、ちょっと変わった人なんじゃ?」

優しそうなのは見かけだけ? 次第に無口になる編集長。行きは2人、帰りは1人なんてこと……ないよね?

やはり檻に入るのか?

 ヒタヒタとおじさんについていくと、なにやら檻が見えてきた。あれか! 池の回りでワニがのんびり日向ぼっこしているのが見える。

「ではさっそくワニを見てもらいましょう」と、おじさん、ニコニコしながら、いきなり檻の扉をバーン!と開け「さ、どうぞ」。ええええ!? ワニさん、うじゃうじゃいるんですけど!! 

「編集長!」と振り向くも「ぼ、僕はただの付き添いです。白石さん、どうぞ!」とさっそく裏切る“ふろしき男”。「いやです!」と首を振って後ずさりする私に、「これがあれば大丈夫です」と、おじさんは笑いながら“武器”を手渡すのだった。

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モーゼな気分に

 おじさんが取り出した武器……カマでもなく空気銃でもなく、そう、これがただのモップなのだった!! ガーッ!とワニが飛び掛かってきたら、モグラ叩きの要領で、ワニの頭をペコペコ叩けばいいのか?

するとおじさん、「床をトントンしてください」と私に指示。おそるおそるコンクリに床をトントン叩いてみると、なんと寝ていたワニたちが、ザザザと左右に移動して道が開けた。

なんと! モップ、最強! なんだかモーゼになった気分よ! 

ワニたちはすくすく育っていった

 ワニたちにじろじろ見られながら、おじさんにワニを飼ったいきさつを聞く。日本の農業は今や年寄りが支えているが、びっくりするほどお金にならず、これでは若い人が継いでくれない。そして廃棄される野菜や肉も多い。昔は卵を産まなくなった鶏も肉として食べていたが、今では硬いからと敬遠されてゴミになる。

 そこでおじさんは考えた。作業時間が少なく廃棄される鶏も活用できる仕事はないか、と。いろいろ調べた結果、ほとんど動かないワニはエサも少なく飼育の手間もかからない。廃棄される鶏もエサとして活用できる。おまけにDHAが豊富で低カロリー。健康にも美容にも良しときた。

とはいえ、日本で始めての食用ワニ飼育。試行錯誤の連続だったが、タイから輸入した赤ちゃんワニたちは順調にすくすく大きくなった。静岡でもワニは育つのね。

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背中のゴツゴツを煮込んだカレーとは?

 ワニ檻から無事、生還を果たすと、急にお腹がぐう、と鳴る。おじさん、「今日は特別なメニューを用意しています」とニヤリ。もう何がきても驚かないぞ。まさかワニの姿焼き? それとも踊り食い?

「いえいえ、カレーです」
「なんだ、ただのカレーか(拍子抜け)」
「ただし、普通のカレーではありません。ワニの背中のゴツゴツがあるでしょう。あの部分だけを煮込んだ特別なカレーです」
「ワニのゴツゴツカレー!?」

ポピュラーなシッポやお腹も食べてないのに、いきなりゴツゴツとは!? そんな料理はアマゾンにもあるまい。運ばれてきたカレーに卓球のボールくらいの大きさのゴツゴツがごろごろと入っている。

いつか新橋でワニ串が……

 ひと口、ゴツゴツをかじると……コリコリとなんだか軟骨を食べているかのよう。味は……ややクセのあるアロエのようだ。しかし、噛み締めているうちに、じわじわとワニの苦みが出てきてスパイシーなルーと絶妙に合ってくる。もしかしたら、から揚げにしても美味しいかもしれない。

 ワニのゴツゴツカレーも、いつか日本の名物になる日がくるののだろうか?

「日本のあちこちにワニ園ができるのが私の夢です」とおじさん。いつか近所のスーパーにも、ワニ肉が並ぶ日がくるかもしれないし、新橋の焼き鳥屋でもワニ串を食べるビジネスマンの姿が見られるかもしれぬ。焼き鳥ならぬ焼きワニ屋で一杯なんて、なんだかワイルドな飲み方ではあるまいか。


2015年3月11日公開

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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