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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第22回

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第22回
世にも不思議なカレー 前編
魚の胃袋を胃袋に!?

食の豊かなマレーシアに、世にも不思議なカレーがあるという。その名は魚の胃袋をぐつぐつ煮込んだ「プルットイカン」。果たしてそのお味は?

人生を変えるすごいモヤシとは?

イスラム教、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教といくつもの宗教が仲良く暮らすマレーシア。宗教がたくさんあるということは、さまざまな食べ物があるということだ。イスラムのスパイシーなハラル料理に仏教徒や道教の中華料理、ヒンドゥ教はインド料理と、食べ物に困るということはまずない。

……まずないのだが、食べ物がありすぎると、何を食べていいのか迷ってしまう。今回の旅にはマレーシアに何度も訪れているという友人も一緒なので、彼女におすすめを聞いてみると意外な答えが返ってきた。

「ふむ、それなら、モヤシだね」
「モ、モヤシ? モヤシってただのモヤシだよね?」
「ただの…!? ムッ。人生が変わるくらい、マレーシアにはすごいモヤシがあるのよ!」

「モヤシっ子」という比喩もあるくらい弱々しいモヤシについて今まで深く考えたことはないが、すごいモヤシがあるのは、イポーという古い街らしい水がきれいな周辺の村ではモヤシ栽培が盛んで、街の市場には広大なモヤシゾーンがあるという。

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モヤシチキンの店に辿り着く

首都クアラルンプールから車で3時間、古い街であるイポーに辿り着いた。大きな通りをぶらぶらしていると、ひときわ賑わっている中華系の店を発見。

「あづさちゃん、あの店だ! モヤシ、モヤシ!」
「あの店か、モヤシ!」

実はモヤシ料理専門店ではなく、有名なのは茹でた鶏なのだが、ここではボウル一杯のモヤシと共に食べるのが定番なのだそう。隣の席のおじさんが、座るなり「タウゲアヤム!」と叫んでいたが、直訳すると「モヤシチキン!」。他にもメニューはあるのだが、どこのテーブルからも呪文のように「タウゲ……」「タウゲ……」と声がする。

鶏が旨いのはモヤシがあるから?

まずは中華風のタレがかかった鶏にガブリ。身はホカホカで柔らかく、混んでいるだけあって、ジューシーでおいしい! と、そこへ大量のモヤシも運ばれてきた。見た目は日本のモヤシより、ちょっと大きいか? でも色も一緒だし匂いもしない。

あまり期待せず、サッと茹でられたモヤシを口に放り込むと……これが驚きの歯ごたえ! 別の野菜なのでは?と疑うほどの甘みとシャキシャキ感。噛み締めると、モヤシエキスがジュワーと口の中に広がる。

さらに鶏の脂を口のなかでモヤシが吸収してくれるから、肉はいくらでも食べられる。こんな力強く体育会系なモヤシは人生ではじめてだ。鶏が美味しいのは、モヤシのおかげ……と絶賛していると、野菜の連載になってしまうので、話を肉に戻そう。

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ニョニャ料理の店へ

モヤシひとつでこの感動である。「茹でたモヤシ、茹でた鶏」という、素材で勝負のシンプルな料理だが、美食の国、マレーシア独特の料理はほかにないのだろうか。ハラル料理ならイスラムの国々で、カレーなら本場インド、中華ならどこでも食べられる。

「それなら、ニョニャ料理がおすすめだよ」
「ニャニャ? ネコ料理?!」
「違う! ニョ・ニャ! 何百年も昔、貿易でやって来た中国人男性と結婚したマレー人女性の子孫をプラナカンっていうの。昔は、すごい豪華な家を建てて住んでたみたいだよ。それで、そのプラナカンの女性をニョニャって呼ぶんだけど、中華の食材とマレーのスパイスを融合させた美味しい伝統料理なのよ」
「へー、それはぜひとも行ってみたい」

イポーから南下しプラナカンの本場であるペナン島に渡った私たちは、さっそく地元でも評判のニョニャ料理の店を訪れた。古い洋館のようなレストランには、現地の家族が大きな丸テーブルの台座をクルクル回し、もりもりと食べている。

胃袋を煮込んだカレー?

メニューを広げると、スパイシーな野菜炒め「ジューフーチャ」や、魚のすり身にスパイスを練りこんでバナナの葉を包んで蒸したニョニャ版「オタオタ」など、どれも美味しそう。大好きなカレーもたくさんの種類がある……と指で英語のメニューを追っていると「プルットイカン」というカレーが目に止まった。鶏でも豚でもエビでもなく、なんと「魚の胃袋」の酢漬けを煮込んだカレーらしい。

魚の胃袋……? それって食べ物なのか!?

牛の胃袋ならトマトで煮込んだトリッパが有名だが、魚の胃袋料理は聞いたことがない。小さな魚の胃袋では集めるのが大変だ。となると牛くらい大きな魚ではあるまいか?

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胃袋はどこに?

胃袋を胃袋に……なんだか悪いことをしている気分になるけれど、いったい何の胃袋なのか、ウエイトレスのおばちゃんに聞いてみたが、「知らない」とあっさり首を振られた。おばちゃんにとっては、そんなことどうでもいいのだろう。運ばれてきたカレーは濃いブラウンで、中に青菜が入っている。どこに胃袋が……とスプーンでかき混ぜるも分からない。

「おばちゃん、胃袋入ってないよ」
「えー!? あら、ほんと」

カレーの入った皿を厨房に持っていったおばちゃんが、しばらくして戻ってきた。

「二つ、胃袋入れといたから」
「どれ?」
「ほら、これ!」

おばちゃんがお椀をぐりぐりかき混ぜて底から引き揚げたのは、鶏の脂身のような2センチ四方の小さなかけら。どうやら小さな魚らしい。食べ物を入れる胃袋だから、なかなか噛み切れないのかしら? とフォークでつついて食べてみると、塩漬けされていた割には塩辛くもなく、上質な神戸牛の脂のようにスッと舌の上で溶けるのだった。

胃袋の正体を知りたい

もしかしたら、これだけ柔らかいのだもの、胃袋のほとんどは煮込んだら溶けちゃったのかもしれない。カレーにはドロッとした青菜と小エビだけ入っているが、酸っぱくて甘くてハーブの香りがする、なんともエキゾチックな味にご飯が進む。この絶品カレー、いったいどうやって作っているのか?

作り方も謎だけれど、溶ける胃袋の正体も気になる。どんな顔をした魚なのだろう? 翌日、その謎を解き明かすべく、ペナンの料理人と一緒に街の魚市場に向かった。後編に続く。


2015年3月25日公開

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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