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世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第23回

世界一周“仰天肉グルメ”の旅 第23回
世にも不思議なカレー 後編
魚の胃袋を探して

魚の胃袋をぐつぐつ煮込んだマレーシアの絶品カレー「プルット・イカン」。いったい何の魚なのか、胃袋の持ち主を探して翌朝、市場へ向かった私が見たものは……。

胃袋の持ち主の名前は?

薫り高いスパイシーなカレーに、おばちゃんが放り込んだ魚の胃袋のカケラ。舌の上でトロッととろける小さな胃袋カレーの衝撃は前編を読んでいただきたいのだが、いったい何の魚かわからず仕舞い。 

モツ煮のように醤油で甘辛く煮てもうまいこの胃袋、とろけるのに脂臭くもなく、ちょっと七味とうがらしを振って焼いても日本酒のアテになるかもしれない。明日、ペナンの伝統料理を習いに行くので、そこで聞いてみることにした。

翌朝、料理教室を訪ね、先生とパートナーのおじさんに聞いてみると、「プルット・イカン」に入っていた胃袋に心当たりはあるという。

「ふむ。それは、ガルンパとスナッパという魚かもしれない」
「ガルンパ&スナッパ! なんかデュオっぽい名前……スナック回りとかしてそうな」
「市場なら生でも売っているけど、塩漬けや酢漬けも買えると思うよ」
「サメくらい大きい魚なの?」
「ノー、10センチから50センチくらいじゃないかしら?」

でっかい胃袋を切り刻んだんじゃなくて、もともと小さいのね。ひとつひとつ胃袋を取り出すのにとても手間がかかりそうだ。

おじさんに連れられ、市場に向かって歩いていくと、果物や野菜、日用品など露店が所狭しと並ぶ賑やかな通りに出た。築地でいうと場外のようなところだろう。この広い市場のどこかにガルンパ&スナッパが横たわっているに違いない。

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まるで盗賊の親分のような……

マレーシアの市場は華やかだ。ドラゴンフルーツやマンゴーなどカラフルなフルーツに、春巻きの皮やピータンが山と詰まれ、どこからかいい匂いが漂ってくる。世界中、どこの国でも市場は必ず寄る私だが、市場ほどその国の特色が出る場所はないだろう。どんな立派な観光地よりも市場が一番、歩いていて楽しいのだ。

生肉エリアを抜け、いよいよ魚ゾーンに突入。ここに絶品カレーの胃袋の主が? と思うと胸が高鳴る。見たこともない赤や黄色の魚やサメがごろごろと横たわり、築地同様、長靴のおじさんたちがバッサバッサと魚をさばいている。見とれていたら、先に歩いていた料理教室のおじさんが、突然、「いたぞ!」と叫んだ。もしや!?

「見つけたぜ! スナッパ&ガルンパ!」
「おおっ!」

こいつが胃袋の正体か! レッドスナッパとホワイトスナッパの2種類が並んでいたが、どちらも目つきが悪く顔が怖い。スナッパは鯛の仲間というけれど、おめでたく愛らしい日本の鯛とは対極の顔つきだ。体長約50センチ、赤味を帯びた身体がズシリと重そう。

一方、ガルンパは唇が厚く、身体にフグのような水玉模様が浮き出ている。日本でいうメバルのような魚らしいが、その顔は盗賊の親分のように泥臭い凄みがある。スナッパもガルンパも柔らかくとろけるような胃袋の持ち主とは到底思えない。

なんだか呪われそう

おじさんは、市場の人に「ちょっと貸して」と魚の口をアーンと開けて、私によーく見せてくれるのだが、尖りまくった歯にギラギラの目。死んでいるはずなのに、今にも噛みつきそうだ。

「おじさん、もういい……」
「なんだ、もっと写真とっていいぞ」

おじさんは得意げだけど、なんだか呪われそうな気がするのだ。市場の人によると、どうやら、カレー以外の食べ方は聞いたことがないと言う。

そのまま食べたら臭いのだろうか? 日本ではメバルや鯛の胃袋はどうしているのだろう。棄ててしまうのはもったいない気がする。

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胃袋ミックスをついに発見!

胃袋の正体はわかった。次は胃袋を取り出し酢漬けにした「胃袋の漬け物」の瓶を探して、再び場外へと戻る。漢方食材を置いている古めかしい店に入っていったおじさんが「ちょっとおいで」とニヤニヤしながら手招き。なんだか怪しい取り引きのようだ。店の奥へと足を踏み入れると、そこには探し求めていた胃袋の瓶がズラリと並んでいたのであった。

コーラの瓶のような容器に胃袋、塩、胃袋、塩……とまるで地層のように詰められたグルッパ&スナッパ胃袋ミックス。お値段は200円くらい。かなりグロテスクだし、割れたら臭そうだ。

しかし、これで日本初となるであろう? 胃袋甘辛煮や胃袋味噌煮込みを作ってみたい。余ったら胃袋の天ぷらとか胃袋チャーハンとかも良さそうだ。みんなを集めて胃袋のしゃぶしゃぶなんていいかもしれない。

まさかの大惨事に泣く

一番、ギューッと栓が閉まっているものを選んで、一本、買ってみた。まさか、私のオレンジの手提げ袋に胃袋が入っているとは誰も思うまい。ウキウキしながら、ホテルに戻り、瓶を取り出そうとすると……まさかの大惨事!! 暑いところをずっと持ち歩いたせいなのか、ブッシューと中の液体が溢れ出し、だだ漏れしていたのであった!

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マレー人もびっくり!?

ホテルの洗面所で、ひとり、しょんぼりと胃袋臭くなった手提げ袋をゴシゴシ洗いながら考えた。もしも飛行機に預けたスーツケースのなかで、栓がはじけたら阿鼻叫喚の大騒ぎになるだろう。異臭騒ぎでマレーシア航空のブラックリストに載るのは避けられまい。泣く泣く、ホテルの人に引き取ってもらおうと、廊下を開けるとちょうど従業員のおばちゃんが歩いていた。

「ねえ、おばちゃん、これ買ったんだけど……」と胃袋が詰まった瓶を見せると、おばちゃん目を丸くして「うえー! ちょっとキモい……」という反応をされた挙句、「ねえ、みんな、来て~! 日本人が変なもの持ってるぅー!」と言ったかどうかはマレー語なのでよく分からないけれど、ぞろぞろと従業員が集まってきた。

幻となった胃袋味噌煮込み

現地では、ポピュラーな食材ではないのか!? カタコトの英語ができる従業員もやってきて、「やーん、ナニコレ?」と大笑い。

「お姉さん、これは何?」
「魚の胃袋」
「なぜ、そんなものを買う?」
「えっ、ニョニャ料理のプルット・イカンって料理で使うよね?」
「あー、なんか聞いたことある。カレーかしらね?」
「家庭では作らないの?」
「うちは作らないけど……まあ、栓が開いちゃったならもらっとこうかしらね」

悲しいかな、罰ゲームのように、ひとりのおばちゃんが苦笑しながら、もらってくれたんだけど、苦労して手に入れた胃袋なのに……。幻となった胃袋の味噌煮込み。いつか「胃袋漬け」が日本のスーパーに並ぶ日を心待ちにしよう。


2015年4月8日公開

●白石あづさ(しらいし あづさ)/
旅と山と酒を愛するフリーライター。地域紙の記者を経て、南極から北朝鮮まで約3年間の世界一周旅行へ。帰国後、フリーに。芸能人やスポーツ選手の取材の傍ら、旅行雑誌などで執筆。著書に世界旅行中に遭遇した28人のへんなおじさんたちを取り上げた「世界のへんなおじさん」(小学館)がある。市場好きが講じて、最近、築地に引っ越し。魚三昧の日々を送っている。


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