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就労をサポートするパン屋さんで美味しいパンを見つけた!

就労をサポートするパン屋さんで美味しいパンを見つけた!第2回
全工程で障がい者が関わる
絶品パン屋さん

 知的および精神障がいを持つ人たちや、引きこもりなどで社会に溶け込めない人たちの就労支援を行っているパン屋さんがあります。こだわりの材料を使い、美味しいパンで人気を呼んでいるところを、実際に訪ねてみました。温かみにあふれた商品は、どれも優しい味わいに包まれていました。

千代田区役所内に店を構える

 千代田区役所内に店を構える『さくらベーカリー』。5階にある図書館とのコラボで、『5ひきのすてきなねずみ』(著・たしろちさと/ほるぷ出版)の登場キャラクターが、パンとして売られていた。20代後半と思しき2人のママ友が、微笑みながらトレーにそのパンを乗せていく。

 ねずみパンの隣に置かれているのは、「幸せのクリームパン」。開店当初からある品で、手作りのカスタードクリームがふんだんに入っている。創業9年目を迎えたさくらベーカリーのベスト商品だ。一日に50~60個売れる。
2番人気はカレーパンで、これも一日に、およそ50個売れる。

 『さくらベーカリー』のパンは、コシがあって力強い。パンチの効いた生地が、クリームパンの甘さもカレーパンの辛さも、しっかりと引きたてている。この店でパンの味と共に注目をされるのが、障がい者が気持ちよく働いている点だ。

 店長の浅倉洋介さんが説明する。
「『僕らの小麦』という国産の小麦を、すべてのパン生地に20%~30%くらい配合して作っています。灰分(アク)が多いので、小麦の香りを楽しめます。ただ、ちょっと難しい小麦を100%使っちゃうと、あんまりふっくらしないんですね。ですから20~30%くらいにして製品化しています。仕込み方にもよりますが、『僕らの小麦』は日持ちがいいです。次の日になってもそんなに味が落ちないというか……。
 種まきから粉になるまで、障がいを持っている方が関わっていて、それをこっちでパンにする。こちらにも知的障がいを持った方がいますから、全工程でハンディを持った方が関わっているというのが『さくらベーカリー』のコンセプトなんです」

 一日に、およそ70種類のパンを溶岩石窯でふっくらと焼き上げる。その焼き加減に、キャリアが出るのだ。『さくらベーカリー』は、お昼時に長蛇の列ができ、テラスも満席となる。

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一人前のパン職人になるには10年かかる

 浅倉さんは、『さくらベーカリー』に入る前の6年間、他店で修行を積んだ。
「まず最初に、パンの名前と特徴を覚えて並べることからやりました。
次に窯での温度設定や時間設定ですね。色を見たり、多くのパンを一番いい状態で焼くわけです。そして、生地の成型です。白くてまな板みたいに大きい、メン台っていうんですけど、メン台での作業です。最後が仕込みですね。大きいミキサーに粉を入れて水の量などを計量して入れる、というのが仕込みです。失敗しながら覚えていきました。
 釜だったら焦がしちゃうとか、作る仕事だったらアンコを入れてはみ出ちゃうとか、仕込みだったら砂糖を入れ忘れちゃったりとか。色々やらかしました。誰もがそうやって一人前になっていくんです。
捏(こ)ねるのは、何も知らない状態でやっちゃうと、手はベタつくし、『丸めろ』って言われても丸まらないし、パン生地は、粉から水とか塩とか砂糖とかイーストを入れて、できた生地を形作る仕事です。『この生地はドーナツ用で、揚げる専用だからカレーパンやって』とか『これは菓子パンで焼く専用の甘い生地だから、アンパン包んでとか』とか、奥が深いんですよ。一人前になるのに、10年はかかりますね」

 パン職人は、フランスパンをマスターして一人前と見なされるそうだ。
「フランスパンは粉と水と塩とちょっとのイーストだけなんで、それが一人で上手にできれば合格と言われます。シンプルだからこそ難しい。僕もまだまだだと日々感じます」

 ベーカリーは競争が激しく、オリジナリティを出せない店は消えていくという。
「新商品を毎月5~6種類出しています。実は、アイデアが沸き立ってくることは、あまりないんです。考えようと思っても浮かばないんで、いろんなパン屋を巡ってアレンジして出したり。研究は欠かせません。アンパンを10年作っていても、どうやったら美味しくできるだろう、上手に包めるだろうって考えながらやらないと成長はないですね。ですから自然といろんなパンを食べるようになります」

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店長が障がい者と働いて学んだこと

 「幸せのクリームパン」の右下の棚には、浅倉さんが独自に手掛けた珍メニューがあった。
「新婚旅行でカナダに行った時、ドーナツ生地にイチゴのチョコをつけてホイップクリームを絞って、イチゴを乗せたパンがあったんです。めちゃくちゃ甘かったんですけど、美味しくて真似しました。イチゴの季節に出すようにしています。味が強いので、1日に5~6個しかやらないんですけどね」

 その店内で、障がいを持った人といかにチームワークを作るのか? 
「すべての工程を任せる事はまだできていません。ピザのトッピングやパンの生地にソースを塗ってウインナーとかをのっけたり。また、パンの品出しとか、焼けたパンを綺麗に並べて出したり。あとは、クロワッサンを巻いたりとか。障がいの度合いによって決めています。できないからやらせない、できるまでやらせるじゃなく、できるようになる環境を整えてあげる、できなかったら、どうやったらできるようになるのか、どういう配置でやればこの人はできるのかを見て、指示を出す。働くことの喜びを感じられるようにすることが大事だと考えています」

 浅倉店長は、パン作り以上に彼らとの付き合いから学んだものがあると話す。
「僕は何も知らずに職人として『さくらベーカリー』に入ったんですが、彼らの感情は“生”なんですよ。自分が作ったパンが棚からなくなったら物凄い笑顔になるんです。そんな喜びようを見せられるんですよね。だからこちらも“働くことってこういうことだよな”って、教えてもらっています。パン屋って時間との戦いだし、職人の世界なんでピリピリしたりもするんですが、そんな状況でも全然違う話してきたりしますから、間を置けたり、我に返ったりできるんです。日々、発見がありますね。癒しの存在というか、すごくいい雰囲気で仕事ができるんですよ。だから、とても勉強になるし、僕自身も変わったように思います」

■さくらベーカリー
住所:東京都千代田区九段南1-2-1 千代田区役所内1F/電話:03-5211-2634

2015年5月23日公開

●林壮一(はやし そういち)/
アメリカ合衆国で20年にわたってボクシング、NBA、MLBの取材を重ねる。昨年、少年向けに日本代表の20年史「進め! サムライブルー」(講談社)を敢行。埼玉県図書館の推薦本にも選ばれ好評を博す(現在7刷)。10年の月日を費やした自信作『マイノリティーの拳』(新潮社)も、先日文庫化されている。

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