毎回、さまざまなサバグルメを紹介しているサバジェンヌ。ですが、今回はうどんジェンヌ!? 地元・宮崎県でジェンヌも知らなかったうどんと鯖寿司の素敵な関係を取材。うどんとの相性を考えて作られている鯖寿司にジェンヌのテンション爆上がり!
画像ギャラリー宮崎市近郊だけでうどん店が100軒以上!
お疲れさばです、ジェンヌです。
今回はジェンヌのふるさと・宮崎県のサバネタをご紹介したいと思う。
宮崎県はじつは隠れた「うどんの聖地」。専門店をはじめ、釜揚げうどんを食べられるうどん店は、なんと宮崎市近郊で100軒以上にも及ぶという「うどん王国」!!
って、「おたく、うどんジェンヌじゃないでしょ」とツッコミをいれたあなた。よーく聞いてくださいよ。
宮崎のうどん店では、サイドメニューに「鯖寿司」がある!
これ、じつは宮崎くらいでしかありえないことに、県民もあまり気づいていない。
「あ、そういえばそうですね」と語るのは宮崎市役所観光商工部観光戦略課の川野元規さん。
ジェンヌ「なんでですかね?」
川野さん「……」。
川野さんいわく、なぜなのかはまったく不明、らしい。うどん店が多いのは、宮崎は四国からの移住者が多い、という理由はぼんやりあるものの、本場・香川のうどん店で鯖寿司の姿を見たことはない。
そして、じつのところ、ジェンヌも宮崎のうどん店にたたずむ鯖寿司の姿について、サバ活動を始めるまでなんの疑問も持っていなかった。そのうえ、食べてもいなかった!!
サバジェンヌ@宮崎獲れとしてマズイだろう! しかもその謎を究明しないとならないだろう!!
おそらく誰も解明しなかった、つか、しようとも思わないであろう「宮崎うどんと鯖寿司のアツい関係」を探るべく、立ち上がったジェンヌ!
「うどんと鯖寿司」は「カレーとらっきょう」的な関係だった !?『麺処 どなん』
宮崎うどんと鯖寿司の秘密を探りに向かったのは、『麺処 どなん』。
宮崎市内から国富町方面へ向かう県道沿いに位置。宮崎駅から車で20分程度と、宮崎市中心部からはずれた、微妙な場所にあるが、遠方から足を運ぶ人も多い人気店だ。
「『鯖寿司』はオープン時から提供しています」と語るのは、店主の譜久嶺(ふくみね)清さん。お客さんの多くが、うどんとともにオーダーする人気商品らしい。
「うどん屋に鯖寿司があるのは宮崎だけなんですけど!!」と前のめりなジェンヌさん。
「なんでかご存じですか!?」と聞いても、「そうなんですか」と限りなく薄いリアクションの譜久嶺さん。「宮崎に来るまでうどん屋に入ったことがなかったからねえ」。
譜久嶺さんは沖縄出身。結婚して奥さんの実家である宮崎で初めて「うどん」を食べたらしい。宮崎のうどんは、最初は「いりこのクセが……ラーメンのほうが旨い」と思ったものの、食べているうちに「これは旨いもんだな」とドハマりしたそう。
その後、脱サラして『どなん』をオープン。ちなみに、店名は、与那国島の別名だそう。
鯖寿司は、「宮崎のうどん店に鯖寿司を置いている店がわりとあった」という理由で、メニューに取り入れた。
サイドメニューには、コロッケ、アジフライ、おはぎ(!?)もあるなかで、たんに鯖寿司を置いているわけではなかった。
鯖寿司はとことん、うどんとの相性を考えて設計されていたのだ。
宮崎県のうどんの特徴は!?
ここで、そもそも宮崎のうどんについて説明しておこう。
宮崎のうどんの特徴は「やわらかめ」。とはいえ、徹底的に柔らかいわけではなく「やさしい」。コシがあるにはあるけれど、そっち方向にふっているわけではなくて、「ふわふわやさしい」にふりきった感じ。
一般的にはイリコや干しシイタケが入った、コクうまな味わいであることが多い。宮崎ではたぬきうどん以外でも「揚げ玉」を入れて食べるのが基本だ。
どなんの場合、うどんは、季節に合わせて細かく塩分濃度を調整して打ち上げた自家製麺。ふわっとしつつも芯のコシはしっかり。
ツユは四国産の厳選したイリコをベースに、昆布でダシをとり、独自に開発した醤油を使用。小麦の旨みを感じられる麺が、イリコのコクがきいたダシと相まって風味豊か。そして後味スッキリなツユに絡んで、するする、するするするーっ、といただける。
そんな、どなんのうどんに合わせる鯖寿司(260円)は、「サバの味付けは甘酸っぱく。シャリは酸味を利かせています」と譜久嶺さん。サバとシャリは、別々に味付けを指定して、発注。店内で成形している。
食べてみる。てりっと仕上がったサバはやさしい甘酸っぱさ。酸味がきいたシャリとともに「ふわっとやわらかめ」に成形した鯖寿司はどこか「なつかしい」素朴な「おふくろテイスト」。
そして、ふつう鯖寿司といえばサバとシャリの間に、ガリが入っていることが多いが、こちらはワサビ! うんうん、ピリッと感がよいよい。食べているうち、どんどんクセになる味わいだ。
そしてうどんを食べる。ダシを飲む⇒鯖寿司⇒うどんを繰り返してみる。
あれー、なになになに!? この心地よいリフレイン。
鯖寿司は単品でも美味しいのだけど、うどんと組み合わせると、うどんが「より新鮮に」、そして鯖寿司が「より新鮮に」味わえる。
コレ、どこかで感じたことあるなあ……。そうだそうだ! うどんと鯖寿司が、「カレーとらっきょう」的な感じ!!
鯖寿司に仕込まれたワサビも、うどんとのバランスをとるのに効果的! ちょっと驚き!!! うどんと鯖寿司、合うぞ!
■『麺処 どなん』
[住所]宮崎県宮崎市大字大瀬町1667-1
[電話番号]0985-41-2223
[営業時間]6時〜18時
[休日]不定休
[交通]東九州自動車道「国富スマートインターチェンジ」から車で2分
※本郷店、日南店もあり
【重乃井】「至高のツユ」で味わう「うどんのおかず」的鯖寿司
続いて向かったのは、市内中心部に位置する『重乃井』。昭和41年創業、宮崎で初めて釜揚げうどんを提供した、「元祖釜揚げうどん店」だ。
メニューはきっぱり、釜揚げうどんのみ。有名人のファンも多く、キャンプ入りしたプロ野球選手たちや、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督やソフトバンク王貞治球団会長も訪れるといううどん店でも、鯖寿司が提供されている。
「な、なんで鯖寿司があるんですか!?」
またもうどんの話より前に、鯖寿司トークをはじめるジェンヌさん。
「鯖寿司は先代である母が、当初から作って提供していました」と、2代目である女将の伊豫(いよ)展子さん。
伊豫さんの母は、香川出身。子どものころから家で作っていたうどんをベースに作りあげた。
それを受け継いだ展子さんもまた、一杯のうどんに真摯に向かい合っている。揚げ玉ひとつとっても、「揚げ玉用」に調理。そのうえ油っこくならないように、なんと木綿袋に揚げ玉を入れて「洗濯機」(!!)で「徹底的に油抜き」するほどだ。
そんな重乃井のうどんは、初代のころからすべて変わらぬ製法で作られる。麺は最高級の小麦粉を使い、手打ち、手切り。そして、羽釜でていねいに茹で上げる。タイマーではなく、うどんの色や動きの変化で茹で上がりを見極めている。
そして、ツユは重乃井のいのちともいえる、「至高のつゆ」だ。
大阪・堺の昆布問屋に重乃井専用に仕入れてもらった北海道稚内産の折昆布と、長切り昆布をたっぷりと贅沢に使用。
そして長崎産の極上手削りサバ節・カツオ節、高千穂産のしいたけも加えたダシに、特別に作ってもらっているという醤油とみりんだけで味を決める。塩、砂糖は一切使わない。
「母が目指したのは『お吸い物』の味。たんなるうどんのツユではないんです」。レシピはなく、「舌で覚えた」一子相伝。
伊豫さんは「35年作っていても、毎日微妙に調整しないと同じ味にはならない。日々、勉強です」という渾身のツユの美味しさを味わってもらうべく、テーブルには七味などの調味料はなし!
徹底的にうどんに合うよう作られた鯖寿司
そんな繊細なツユの味わいを邪魔せず、なおかつベストマッチな味わいの鯖寿司は、国産のサバを使用。酸味は控えめに〆る。シャリも酢は控えめ、甘みのある味わいに仕上げてある。サバは薄く切って、自家製の型でシャリと合わせて押し上げて完成。こちらでも中にワサビが入っている。
鯖寿司がなぜ、提供されるようになったかは伊豫さんの知るところではなかったが、「鯖寿司は、徹底的にうどんに合うように作り上げたもの」らしい。
ちなみにこちらの鯖寿司は「魚寿司」。宮崎のうどん店ではかつて、アジ、イワシ、サバが「魚寿司」として提供されていたが、いまは、おおむねサバだそう。
さて、重乃井自慢の「釜揚げうどん」(並 700円)は、ツユに宮崎のうどんで一般的なイリコを使っていない。サバ節で旨みを、カツオ節で香りを出している。
茹で上がったうどんを、ツユにつけていただく。ほわっとやわ肌、口当たりのよいうどんが、良質な昆布、カツオ節、サバ節、しいたけの奏でる風味豊かでジワジワ旨みが広がるダシにからみ、心の底から「ああ、美味しい」と声が漏れる味わい深さ。
そして鯖寿司へ。さりげない〆加減で主張が控えめ、旨みだけがたったサバと、もちもち甘めのシャリの鯖寿司はどこか「おにぎり」を思わせるほっこり感。やさしい美味しさ!
さてと、うどんをもう一度。そして鯖寿司をもう一度。……なんですか、この違和感のなさ。なんですか、このすんなり感。
「うどんがごはんで、鯖寿司がおかず」、まるでそんな感じ!! 常連客はうどんが来るまでに鯖寿司を食べはじめても、必ずうどんと一緒に食べるためにひとつはとっておくというのも納得だ。
そして、最後は、ツユを茹で汁が入った丼に入れて味わう「うどん湯」で。まさに「上品なお吸い物」で、その美味しさったら筆舌に尽くしがたいものだけれど、これがまた鯖寿司と最高のマリアージュ。
ツユの中の「サバ節」が、鯖寿司の「何」かを目覚めさせたかのような、いきいきした味わいに。「鯖寿司が口の中で回遊する」ような、衝撃体験であった。
■『重乃井』
[住所]宮崎県宮崎市川原町8-19
[電話番号]0985-24-7367
[営業時間]11時~19時(18時半LO)
[休日]金(月1回連休あり。要確認)
[交通]JR宮崎駅から徒歩20分
【岩見】青島で味わう、まさかの「うどん系鯖寿司」!
宮崎市郊外にも、鯖寿司が絶品! というか「鯖寿司に気合いが入り過ぎている」うどんの名店がある。
宮崎を代表する観光地・青島に位置する『釜揚げうどん 岩見』。
JR日南本線青島駅から徒歩1分。少し歩けば、南国宮崎を彷彿とさせる青島海水浴場や、縁結びにご利益のある青島神社はすぐの場所にある。
昭和43年創業、こちらも巨人軍の歴代監督や、選手たちがキャンプ期間中足しげく通う名店だ。
そしてうどんに匹敵する大人気メニューが、鯖寿司。なにせ「鯖寿司目当てで訪れるお客さんも、多くいらっしゃいます」と語るのは、店主の堀芳郎さん。
堀さんのうどんへのこだわりもさることながら、鯖寿司への気合いの入り方もひとかたならぬものがある。なにせ、鯖寿司は「注文を受けてから作る」! 作り置きいっさいナシだ。うどん店なのに(涙)。
岩見は、もともとは民宿兼食堂だった。お店で大好評だったのが、当時の店主だった堀さんの祖母が作っていた「鯖寿司」。昭和47年に、堀さんの父がうどんと鯖寿司の店として『岩見』を開店。堀さんが祖母の味を受け継いで作り続けている。
「祖母はとにかく鯖寿司が大好きで(笑)。京都の寿司店の技などを取り入れ、自分なりに試行錯誤して完成させたようです」と堀さんが笑う。
おもに長崎の脂のりバツグンのサバを使用。秘伝の酢ダレで「限りなく生っぽく締めます」と堀さん。酢飯は甘酸っぱく、やわらかめに仕上げるのが岩見流。こちらもワサビ入りだ。
押し型にサバと酢飯入れて、ほどよい加減で押して完成。
ピカっとした鯖寿司。どうみても「サイドメニュー感」は、ありません……。
はっ。うどんの説明をしてなかった!!
一番人気の「釜揚げうどん」は、毎朝堀さんがツユへのからみに気を配りながら打つ、コシがあって細目の自家製麺。釜で15分ほど柔らかめに茹でる。イリコ、2種類のカツオ節、高千穂産の干ししいたけでダシをとり、醤油、酒、みりんで味付けしたツユにつけていただく。
麺は口当たりがふわっと柔らかいけれど、つるつるとすべりがよく、のど越しがいい。カツオ節やしいたけの旨みが利いたコクのある甘辛いダシに絶妙にからんで、軽快にいただける。
で、鯖寿司ね。ひと口食べるとサバは限りなくレア。ジュワーッとみずみずしい脂が口の中いっぱいに。けれど後味はスッキリ。そこに、やさしい甘酢っぱさのやわらか酢飯がほわーっと寄り添う。この酢飯の柔らかさ、ぶっちゃけ、一般的な鯖寿司からはありえない。でも、コレがとっても効果的!
とろけるサバに、箸を入れるとほろっとくずれるくらいのシャリ!
ホッとする。癒される―。
ん??? これ「うどんっぽくない?」。このやさしさ加減、なんだかうどんと似てる!!!
ひゃー! まさかの「うどん系鯖寿司」!
慌てて、うどんとともにいただくとあらあら味わいの路線が同じ! うどんの延長線上に「鯖寿司」がたたずむ。違和感ゼロ! やわらか酢飯がうどんとの、見事な接着剤に!!!
カリカリの揚げ玉でコクが出たツユにうどん、そして鯖寿司。たまりませんよ!
ちょっと衝撃。うどんの敷いたレールの上に鯖寿司がいるって!!!
鯖寿司とうどんのセットが織りなす、唯一無二の「癒し路線」。ひゃー。
じつは「乗り鉄」でもあるジェンヌ的にはぜひとも、1時間に1本の「日南線」で宮崎駅から青島駅へ向かって味わっていただきたい。のんびりしすぎなローカル線の延長線上に、魅惑のうどんと鯖寿司が待ってますから!
■『釜揚げうどん 岩見』
[住所]宮崎県宮崎市青島2-9-5
[電話番号]0985-65-1218
[営業時間]11時~17時(16時半LO)
[休日]不定休
[交通]JR九州日南線青島駅から徒歩1分
※住吉店もあり
日南線は宮崎県宮崎市・南宮崎駅~鹿児島県志布志市・志布志駅を結ぶ。おおむねキラキラ光る南国の海沿いを走るローカル線は、ジェンヌさんのお気に入り。
最後に、まとめ。
なぜ宮崎のうどん屋に鯖寿司があるのかは突き止められなかったけれど、わかったことがある。
宮崎のうどん店の鯖寿司は、うどんとともに味わうととんでもない「ミラクル」が起きる!!
宮崎でしか味わえない「うどんと鯖寿司のマリアージュ」、ぜひ試してみて!!
取材・撮影/池田陽子
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