ニッポン“チャーラー”の旅

チャーラーはひとつの料理であることに気が付かせてくれた専門店/ニッポン“チャーラー”の旅 第9回

チャーラーはひとつの料理であることに気が付かせてくれた専門店/ニッポン“チャーラー”の旅 第9回

チャーラーはひとつの料理であることに気が付かせてくれた専門店/ニッポン“チャーラー”の旅 第9回

チャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介。今回は永谷さんがチャーラーを食べ歩くきっかけとなった店に伺いました。

画像ギャラリー

私がチャーラーの旅の旅人になったのは、2019年2月。拙ブログ『永谷正樹、という仕事。』で食べ歩きのレポートをはじめたのがちょうど3年前である。当時、テーマとして掲げたのは、「子供の頃に食べた思い出の味」だった。

チャーラーにハマるきっかけを作った店

ところが、食べ歩きをしているうちに、計算し尽くされたチャーハンとラーメンの相性や交互に食べたときに生まれる味の掛け算などチャーラーの奥深さにすっかりとハマってしまった

そのきっかけとなったのが名古屋市中村区にある『太陽食堂』だ。ここは全国でも珍しいチャーラーの専門店。ここでチャーラーを初めて食べたときの衝撃は凄まじく、どうしても店主に話を聞いてみたくなった。

『太陽食堂』外観

「店を開く前は、父が経営する飲食店を手伝っていて、当時は見よう見まねで中華そばを作っていました。しかし、納得する味ができず、本格的に学ぼうと思い、名古屋市東区の『中華そば 白壁 あおい』で修業をさせてもらいました」と、話すのは店主の前田健さんだ。

ところが、父親が店を任せていた人が辞めることになり、急遽、前田さんが店を継ぐことになった。店をオープンさせるにあたって、前田さんがこだわったのはラーメン店のラーメンではなく、幼い頃に中華料理店や食堂で食べた懐かしい味わいの中華そばだった。

2010年のオープン当初は焼きめしと中華そばの他に味噌らーめんや塩そばも用意していた。とくに味噌らーめんは、メディアで採り上げられて人気を博した。

店主の前田健さん

「すごくうれしかったんですけど、何か違う。僕がやりたかったのはこれだったのか? と自問自答を繰り返しました。モヤモヤした気持ちが続いていたある日、味噌らーめんと焼きめし、塩そばと焼きめしを作って食べてみたんですよ。すると、互いの味を打ち消し合っていて美味しくなかったんです。で、すぐに味噌らーめんと塩そばを販売中止にしました。そこからですね、チャーラーにこだわったのは」

それぞれの味を引き立て合う至極の一杯

「中華そば」(並750円)。小は680円で大は900円

人気メニューの味噌らーめんや塩そばを捨ててまでこだわり抜いた「中華そば」(並750円)がこれだ。具材は豚バラ肉を使ったチャーシューとメンマ、ナルト、海苔、ネギ。これはラーメンじゃない。中華そばである。誰もがイメージする中華そば。

澄み切ったスープは、鶏ガラと豚骨、昆布がベース。しかも、化学調味料は一切使っていない。麺はやや太めで噛み応えがありそうだ。では、いただきますっ!

フーフーしながら麺をすすり込むと、麺に纏ったスープの旨みと麺を噛んだときの小麦の味と香りが口の中で一体になる。今どきのラーメンのような複雑な味ではなく、誰もが食べたことのある素朴でやさしい味わいに心が和む。

「焼きめし」(小300円※単品での注文は不可)。並は650円で大は950円(単品の価格。中華そばとセットで注文する場合、それぞれ100円引き)

一方、こちらは「焼きめし」(小300円※単品での注文は不可)。これもまた、チャーハンではなく、焼きめし。お米のひと粒一粒に具材の旨みがコーティングされているのがよくわかる。しかも、何とも香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、一刻も早くレンゲで掻き込みたくなる。

具材は、チャーシューとネギ、玉子といたってシンプル。ただ、業務用コンロの火力でラードで炒め、香り付けにネギ油を使うので、家庭のチャーハンとはまったく違う。では、いざ、実食!

おーっ! 口の中で香ばしい香りとほのかな甘みがふわっと広がる。これは仕上げに用いたチャーシューのタレだろう。さらに米粒を噛むごとに染み込んだチャーシューの旨みがじんわり。旨いなぁ……。

焼きめしはどんなに忙しくても、注文が入るごとに調理する

不思議なことに、焼きめしを食べるとラーメンが、ラーメンを食べると焼きめしが食べたくなる。交互に食べると、それぞれの美味しさを引き立て合い、単品で食べるのとはまったく違った味わいに変化するのだ。

もちろん、中華そばのみ、または焼きめしのみを注文することもできるが、絶対に中華そばと焼きめしをセットで注文するのをおすすめしたい。少食の方や女性でも楽しめるように、中華そばと焼きめしは、それぞれ小と並、大とサイズが選べるのでご安心を。

「実は中華そばも焼きめしも単品で食べた場合、あえて物足りなく感じるように作ってあるんです。チャーラーはチャーハンとラーメンのセットメニューではありますが、僕はひとつの完成された料理だと思っています」

そう、それ! ここ『太陽食堂』でチャーラーを食べてから、チャーラーをひとつの料理だと思ってレポートするようになったのだ。未だかつてそんな観点からチャーラーを論じたフードライターはいない。私にとっては革命的な出来事だったのだ。

これからもチャーハンとラーメン、それぞれの美味しさを引き立て合う絶品のチャーラーを紹介していくのでお楽しみに!

取材・撮影/永谷正樹

画像ギャラリー

関連キーワード

この記事のライター

関連記事

北海道で「店内に銭湯の入り口がある」ラーメン店を発見! 競走馬とグルメ旅

ラーメンインフルエンサーも魅了された!「一杯のラーメンに店主のヒストリーがある」【TRYラーメン大賞25周年】

「日本最高レベルでラーメンを食べているみんなで選んだ!」 審査員が激賞した“一杯”の魅力とは【TRYラーメン大賞25周年】 

東海地方では数少ない喜多方ラーメンのチェーン店『喜多方ラーメン 坂内』で「半チャーハンセット」を食らう!

おすすめ記事

“タワマン”の日本初の住人は織田信長だった? 安土城の「天守」ではなく「天主」で暮らした偉大な権力者の野望

芝浦市場直送の朝締めホルモンは鮮度抜群 高円寺『やきとん長良』は週末の予約は必須

不思議な車名の由来は「ブラックボックス」 ”ミレニアム”に鳴り物入りでデビューした革命児の初代bB 

大分県に移り住んだ先輩に聞く(2) 移住でウェルビーイング「移住とはコミュニティの中でその想いを受け継ぐこと」

収穫を感謝する「加薬うどん」 美智子さまと雅子さま夫妻で交わす大切な重箱

講談社ビーシー【編集スタッフ募集】書籍・ムック編集者

最新刊

「おとなの週末」2024年12月号は11月15日発売!大特集は「町中華」

全店実食調査でお届けするグルメ情報誌「おとなの週末」。11月15日発売の12月号は「町中華」を大特集…