チャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介。今回は永谷さんがチャーラーを食べ歩くきっかけとなった店に伺いました。
画像ギャラリー私がチャーラーの旅の旅人になったのは、2019年2月。拙ブログ『永谷正樹、という仕事。』で食べ歩きのレポートをはじめたのがちょうど3年前である。当時、テーマとして掲げたのは、「子供の頃に食べた思い出の味」だった。
チャーラーにハマるきっかけを作った店
ところが、食べ歩きをしているうちに、計算し尽くされたチャーハンとラーメンの相性や交互に食べたときに生まれる味の掛け算などチャーラーの奥深さにすっかりとハマってしまった。
そのきっかけとなったのが名古屋市中村区にある『太陽食堂』だ。ここは全国でも珍しいチャーラーの専門店。ここでチャーラーを初めて食べたときの衝撃は凄まじく、どうしても店主に話を聞いてみたくなった。
「店を開く前は、父が経営する飲食店を手伝っていて、当時は見よう見まねで中華そばを作っていました。しかし、納得する味ができず、本格的に学ぼうと思い、名古屋市東区の『中華そば 白壁 あおい』で修業をさせてもらいました」と、話すのは店主の前田健さんだ。
ところが、父親が店を任せていた人が辞めることになり、急遽、前田さんが店を継ぐことになった。店をオープンさせるにあたって、前田さんがこだわったのはラーメン店のラーメンではなく、幼い頃に中華料理店や食堂で食べた懐かしい味わいの中華そばだった。
2010年のオープン当初は焼きめしと中華そばの他に味噌らーめんや塩そばも用意していた。とくに味噌らーめんは、メディアで採り上げられて人気を博した。
「すごくうれしかったんですけど、何か違う。僕がやりたかったのはこれだったのか? と自問自答を繰り返しました。モヤモヤした気持ちが続いていたある日、味噌らーめんと焼きめし、塩そばと焼きめしを作って食べてみたんですよ。すると、互いの味を打ち消し合っていて美味しくなかったんです。で、すぐに味噌らーめんと塩そばを販売中止にしました。そこからですね、チャーラーにこだわったのは」
それぞれの味を引き立て合う至極の一杯
人気メニューの味噌らーめんや塩そばを捨ててまでこだわり抜いた「中華そば」(並750円)がこれだ。具材は豚バラ肉を使ったチャーシューとメンマ、ナルト、海苔、ネギ。これはラーメンじゃない。中華そばである。誰もがイメージする中華そば。
澄み切ったスープは、鶏ガラと豚骨、昆布がベース。しかも、化学調味料は一切使っていない。麺はやや太めで噛み応えがありそうだ。では、いただきますっ!
フーフーしながら麺をすすり込むと、麺に纏ったスープの旨みと麺を噛んだときの小麦の味と香りが口の中で一体になる。今どきのラーメンのような複雑な味ではなく、誰もが食べたことのある素朴でやさしい味わいに心が和む。
一方、こちらは「焼きめし」(小300円※単品での注文は不可)。これもまた、チャーハンではなく、焼きめし。お米のひと粒一粒に具材の旨みがコーティングされているのがよくわかる。しかも、何とも香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、一刻も早くレンゲで掻き込みたくなる。
具材は、チャーシューとネギ、玉子といたってシンプル。ただ、業務用コンロの火力でラードで炒め、香り付けにネギ油を使うので、家庭のチャーハンとはまったく違う。では、いざ、実食!
おーっ! 口の中で香ばしい香りとほのかな甘みがふわっと広がる。これは仕上げに用いたチャーシューのタレだろう。さらに米粒を噛むごとに染み込んだチャーシューの旨みがじんわり。旨いなぁ……。
不思議なことに、焼きめしを食べるとラーメンが、ラーメンを食べると焼きめしが食べたくなる。交互に食べると、それぞれの美味しさを引き立て合い、単品で食べるのとはまったく違った味わいに変化するのだ。
もちろん、中華そばのみ、または焼きめしのみを注文することもできるが、絶対に中華そばと焼きめしをセットで注文するのをおすすめしたい。少食の方や女性でも楽しめるように、中華そばと焼きめしは、それぞれ小と並、大とサイズが選べるのでご安心を。
「実は中華そばも焼きめしも単品で食べた場合、あえて物足りなく感じるように作ってあるんです。チャーラーはチャーハンとラーメンのセットメニューではありますが、僕はひとつの完成された料理だと思っています」
そう、それ! ここ『太陽食堂』でチャーラーを食べてから、チャーラーをひとつの料理だと思ってレポートするようになったのだ。未だかつてそんな観点からチャーラーを論じたフードライターはいない。私にとっては革命的な出来事だったのだ。
これからもチャーハンとラーメン、それぞれの美味しさを引き立て合う絶品のチャーラーを紹介していくのでお楽しみに!
取材・撮影/永谷正樹
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