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英語がわからないのをいいことに

立派な外観から暖炉のある大きなリビングを想像していたが、部屋が足りず改装したのか6畳ほどしかなくテーブルも椅子が6脚しかなく全員は座れない。「夕食の前に家族を紹介しよう」と、サブルがひとりずつ紹介を始めた。

「まず、長男の名前はアル」と、サブルが肩を組んだ人は、先ほど小窓から顔を出したおじさんである。

「彼は7人の子持ちだが離婚して実家に戻ってきてね、アル中で無職。食事を作っている女性は彼の愛人でラトミラさんだよ」

いきなりどういう紹介なんだ。そんな家庭の事情まで旅人に言わなくてもいいのにとうろたえたが、英語がわからないアルおじさんも愛人のラトミラさんも何を言われているのかわからず、ニコニコしている。

「で、こちらの若いお母さんはアルの娘で離婚して4歳の男の子と戻ってきたんだ」

「ええと出戻り父娘とその孫、そして父の愛人が同居しているってこと?

「イエス。次に次男のアスカル。彼も無職で離婚して戻ってきた。日中は、家から長い電話線を路上まで引っ張って、小遣い稼ぎをしている」

「……なるほど」

「三男はこの私、サブルだが大学で建築を教えている。あ、私も兄たちと同様、離婚して出戻ってきたのさ

「三兄弟のうち、おじさんが稼ぎ頭なんだね」

「そう。あとこちらが私のふたりの息子たちだが、これまた無職だよ。そして、未婚の彼女たちふたりは同名のグルナラ。ひとりは私たちのいとこで、もうひとりはその友人。さあ、食事にしよう!」

こんなに豪華な家だから道楽で民泊を始めたのかと最初は思ったが、無職だらけなので苦しい家計の足しにしたいのだろう。外から家庭の事情はわからないものである

それでも久しぶりの英語の会話に私はほっとした。この家にいる間、キルギスでは意思疎通に困ることはない。そう、安心していたのだが……この後、まさかの展開に。中編もお楽しみください。

文/白石あづさ

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