銭湯の壁に能登半島の景勝地を描いて被災地支援 東京・押上「大黒湯」が入浴料の一部を寄付 ペンキ絵に込めた復興への思いとは

1月9日に刷新された大黒湯内湯のペンキ絵。富士山と共に石川県の名勝「見附島」と伝統工芸「加賀八幡起上り」が描かれている

入浴料から10円を石川県に寄付、1月分は見込額20万円を送金済み 大黒湯では3月31日まで、入浴料のうち10円を被災地に寄付します。 1月中旬には、1月分の寄付の見込額として約20万円を、義援金として石川県に送りました。…

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2024年元日に起きた能登半島地震から1カ月が過ぎました。全国各地から被災地を支援する動きが高まるなか、東京スカイツリーのお膝元にある東京都墨田区の銭湯「押上温泉 天然温泉 大黒湯(だいこくゆ)」の取り組みが注目されています。女性の銭湯ペンキ絵師によって浴室の壁画を刷新したほか、3月末まで入浴料の一部が石川県に寄付されます。湯けむりの向こうに描かれた被災地への思いとは―――。

大黒湯があるのは、東京スカイツリーのお膝元。下町情緒あふれる路地裏の銭湯とのコントラストが青空に映える

都内在住の絵師が描く石川県の景勝地「見附島」

能登半島地震の発生から間もない1月9日、大黒湯のシンボルともいえる浴場の壁画(幅10メートル、高さ3メートル)が描き変えられました。さわやかな青の色調を背景に、壮大な富士山とともに描かれたのは、地震で一部が崩壊した石川県珠洲(すず)市の景勝地「見附島(みつけじま)」と、金沢の伝統工芸「加賀八幡起上り(かがはちまんおきあがり)」です。男湯と女湯を跨って富士山の裾野が伸び、向かって右手前の海岸に「見附島」があります。

銭湯ペンキ絵師の田中みずきさん(41)が、大黒湯の三代目店主、新保卓也さん(44)に、「絵を見て、東京から被災地への関心が高まれば」と提案したことで、実現しました。

新保さんは「甚大な被害を受けた石川県の支援に銭湯として何かできないかと模索していたところ、田中さんからペンキ絵のご提案があり、早速描いてもらいました」と経緯を説明します。利用客からも、「石川県に思いを馳せることができる」と好評だそうです。

店主の新保卓也さんは、大黒湯の三代目。さまざまなアイディアで銭湯を盛り上げている

「軍艦島」ともいわれる高さ28メートルの奇岩

田中さんは、国内に3人(他の2人は、丸山清人さんと中島盛夫さん)しかいない銭湯ペンキ絵師の中で最年少。大学生の時の2004年に中島盛夫さんに弟子入りし、2013年に独立しました。2014年2月には、珠洲市の銭湯「宝湯」の別館で見附島を描く機会があり、実際に現地を訪れたそうです。

「見附島は島の形が軍艦に似ていることから、別名『軍艦島』とも呼ばれる高さ28メートルの奇岩」(珠洲市のHPより)。田中さんは被災地の様子を気にかけるなか、地元紙のHPで様変わりした見附島の写真を発見し、「絵筆で被災地を支援したい」と、敢えて今の見附島を描こうと決めました。

被災地の人々にショックを与えないか、直前まで迷いがあったと言いますが、「ただ、見続けていると、崩落しながらも、堂々とそびえ立つ雄姿が何とも美しい。見附島から『このさまを描いてくれ』と言わんばかりの迫力を感じて絵筆をとりました」。

「加賀八幡起上り」は松竹梅を描いた朱色の人形。郷土玩具として石川県で大切に扱われている縁起物です。田中さんは、「復興へ向けて力強く起き上がる」との願いを重ねると同時に、「見た目の愛おしさで、つらい時も癒される」として、見附島と共に描きました。「再び美しい景色を取り戻せるよう、被災地に思いを寄せ続けていきたい」と話します。

一部が崩壊した「見附島」。能登半島地震の衝撃の大きさが伝わる。左上に見えるのが「加賀八幡起上り」。柔和な表情に癒される

入浴料から10円を石川県に寄付、1月分は見込額20万円を送金済み

大黒湯では3月31日まで、入浴料のうち10円を被災地に寄付します。

1月中旬には、1月分の寄付の見込額として約20万円を、義援金として石川県に送りました。

「被災地への支援は、何より迅速さが求められます。お客さまからの善意をいち早く現地に届けることで、復興へ役立ててもらえれば」(新保さん)

銭湯に行きがてら寄付もできるという趣旨に賛同した新規の客も増えているとのことです。

脱衣所の天井は「格天井(ごうてんじょう)」と言われる造り。古き良き銭湯の風情が感じられる

創業75周年、都内初の“オールナイト営業”で深夜早朝利用もOK

銭湯が全国的に減っていくなか、新保さんはこれまでも、数々のユニークな取り組みを行ってきました。2017年からは、都内初の“オールナイト営業”を連日翌朝10時まで実施。錦糸町の繁華街が近いこともあり、深夜や早朝まで働く人たちに合わせた営業時間の変更でした。

露天風呂で四季折々の自然を感じれば、東京にいながら旅先にいるようにリラックスできる

昨年あたりからは、コロナ禍が明けて、インバウンド(訪日外国人)も増えてきました。銭湯を訪れる来日客も多く、新たな需要を取り込みながら、どのように“銭湯人口”全体の増加につなげるのかという対応にも知恵を絞ります。

大黒湯の創業は1949(昭和24)年。75年が経った今も変わらず、「地中の天然鉱物が溶け込んだ弱アルカリ性温泉」(大黒湯のHPより)が多くの人を温めています。新保さんは「長く続けられるのは、地元に愛されてこそ。日本の銭湯文化を大切に守るため、これからも地域の活性化と共にいろいろと取り組んでいきたい」と話しています。

露天風呂脇の階段を上がると、リラックスチェアやハンモックが置かれたウッドデッキスペースが出現。スカイツリーを眺めて心ゆくまでのんびり~

■「大黒湯」
【住所】東京都墨田区横川3-12-14
【営業時間】平日15時~翌10時/土曜14時~翌10時/日曜13時~翌10時
【料金】大人520円※サウナ料金平日プラス300円、土日祝プラス330円
【定休日】火曜日※祝日の場合は営業、翌日休み
【電話】03-3622-6698
【交通】地下鉄半蔵門線、東武伊勢崎線、都営地下鉄浅草線、京成押上線「押上駅」から徒歩6分、JR総武線「錦糸町駅」から徒歩12分

大黒湯

文・写真/中島幸恵

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