数ヵ月前、一度引退を宣言した寿司職人から電話があった。 「60歳になって、もう一度、寿司職人として仕事ができたらと思って……」。 また、あの人が握る寿司が食べられると思うと、わくわくした。 そして、今年7月1日。中区錦3丁目に『鮨 古川』はオープンした。 メニューは「おまかせ」(8000円)のみ……。
画像ギャラリー本格的な江戸前寿司がリーズナブルに味わえる穴場店。錦3丁目『鮨 古川』
今年4月、取材に向かう途中に携帯電話が鳴った。
ディスプレイを見ると、懐かしい名前が表示された。
2012年の秋に『おとなの週末』の寿司特集で取材した上前津の『鮨 古川』の大将、山口慶二さんからだった……。
山口さんは、東京生まれの東京育ち。
実家は寿司屋を営んでいて、若いころには銀座の高級寿司店で修業した経歴を持つ。
しかし、結果的に家業は継がず、縁あって名古屋で寿司職人としての才能を開花させたのだった。
『鮨 古川』は、ネタを熟成させたり、酢や塩で締めたりと、一つ一つにていねいな仕事を施した江戸前寿司。
名古屋にも食べさせてくれる店はあるが、庶民にとっては敷居が高い。
そんななか、上前津という場所柄なのか、『鮨 古川』はかなりリーズナブルだった。
取材後も私は足繁く通うようになった。
ところが、店が上前津から錦、丸の内へと移転したり、寿司から割烹へと業態が替わったりした。
そのたびに値段も高くなっていき、足が遠のいてしまった。
そして、昨年11月。
山口さんは寿司職人を引退すると宣言した。
もちろん、私は食べに行った。
もう山口さんが握る寿司が食べられないと思うと、残念でたまらなかった。
電話に出ると、
「60歳になって、もうひと花咲かせたいと思ってるんです。
もう一度寿司職人として仕事ができたらと思って、今、店の物件を探してるんです」と、山口さん。
また山口さんの寿司が食べられる!
そう思うと、ワクワクした。
そして、オープンを心待ちにしていた。
今年7月1日、中区錦3丁目に『鮨 古川』はオープンした。
メニューは「おまかせ」(8000円)のみ。
錦3丁目界隈にある寿司店は、だいたい8000円から。
しかし、ほとんどの客はその上の、12000円や15000円のコースを注文する。
だから、8000円という値段はかなりリーズナブルなのである。
オープンしてから何度か足を運んでいるが、「おまかせ」で出される付き出しから、寿司、味噌汁まですべてをご覧いただこう。
こちらが、付き出し。
これらをアテに生ビールで喉を潤す。
その間、大将は鮨の準備をしている。
否が応にも期待が膨らむ。
一貫目は、平目。
昆布締めにしてある。
あまりの旨さに悶絶した(笑)。
ノッケから腰の入ったストレートを食らった気分。
子イカ。
ムチャクチャやわらかい。
歯でスッと噛み切れる。
しかも、じんわりと甘い。
真鯛。
シャリとネタの間にあるのは塩昆布。
これが実にイイ仕事をしている。
鯛の旨み、香りを十二分に引き出しているのだ。
シマアジ。
ネットリとした食感がたまらない。
口の中でシャリがほどけてネタの旨みと一体化する。
これも、悶絶(笑)。
マグロ漬け。
見よ!
このエッジの立ったさまを!
これもまたネットリと舌にまとわりつくような食感。
マグロの味と香りが見事なまでに引き出されている。
トロ。
いうなれば、ひと夏の恋。
はじまったかと思うと一瞬で終わる。
でも、味の余韻という思い出が残る。
詩人だな、私は(笑)。
イワシ。
実は私、青魚が苦手だった。
しかし、ここのは別。
くさみも何もないから、むしろ、好きになった。
上にちょこんとのせたショウガが、イイ仕事してる。
のどぐろ。
中盤に入ったところで、アッパーカットを食らった気分。
のどくろといえば、焼き魚の最高峰。
ゆえに、軽く炙ってあるところがニクい。
同じものをあと20カンは食べられる(笑)。
マアジ。
のどぐろで完全にダウンしているところにフルボッコ。
もう、勘弁してくれ(笑)。
いくら。
ヨソで食べるいくらは味が濃すぎて、正直、苦手なんだけど、ここのは別格。
とても上品な味わい。
これも20カンはイケるな(笑)。
車海老。
しかも、直前まで生きていたものを使用。
ゆえに、甘みがしっかり。
穴子。
手前が塩で、奥はツメ。
いずれも口の中でとろけるような食感。
ギリギリ形を維持している穴子を握る大将は、やはりタダモノではない。
玉子焼き。
カステラのようなふんわり、しっとりとした食感。
甘いけど、シャリに合うのが不思議。
だし巻き。
だしがきいていて、ほんのりと甘い。
〆にはぴったり。
最後にアオサの味噌汁。
ほっとするね。
ご馳走様でした。
それにしても、また山口さんの寿司が食べられるとは思わなかっただけに、一貫味わうごとに感動すら覚えた。
山口さん、また食べに行きますね!
ありがとうございました!
鮨 古川
[住所]愛知県名古屋市中区錦3-18-3 栄グリーンビルB1
[TEL]052-385-0489
[営業時間]18時~22時
[定休日]土・日・祝※予約があれば営業
永谷正樹(ながや・まさき)
1969年生まれのアラフィフライター兼カメラマン。名古屋めしをこよなく愛し、『おとなの週末』をはじめとする全国誌に発信。名古屋めしの専門家としてテレビ出演や講演会もこなす。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
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