「ソロバン+電卓」って…伝説の迷家電「合体家電」は未知の不安を和らげる道しるべ【シャープさんの「家電としあわせ」第11回】

■「合体」は「既知への道しるべ」  ソロカルは名前のとおり、ソロバンと電卓が横一列にひっついた、見たまんまの合体家電である。ごていねいにも、ソロバンの珠の下には鉛筆を置けるように、窪みも用意されている。あまりに一目瞭然な…

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 スーパーファミコン内蔵テレビ。ファミコン内蔵テレビ。あるいはツインファミコン。のっけからここを読もうとする人を振り落とすようで申し訳ないが、上記の文字列に幼い記憶を喚起された人は、私と同世代か、かなり近しい世代なはずだ。「金持ちの友だちの家にあってうらやましかったよな」とか「どっちかが壊れるとどっちも見れないんよね」とか「旅館の部屋にもコイン式で置いてなかったっけ」なんて言いながら、いっしょにビールでものんだらたのしいにちがいない。あれは、ゲーム機とテレビが、あるいはゲーム機とゲーム機が一体化した、当時の子どもの夢が具現化するような家電だった。

■「シャープ」=「合体が得意なメーカー」というイメージ

 テレビに合体したのはゲーム機だけではない。テレビとVHSデッキが一体化したテレビデオなんていうモノもあった。テレビデオなんて、ある世代にとっては、お茶の間や子ども部屋の原風景の一角を占める家電といってもいいと思う。ブラウン管の下に開いた長方形の口に、ビデオテープをつっこんだ時のガチャコンという音を、ビデオでなにを見たかという記憶とともに覚えている人も多いだろう。正確な数字はわからないけど、当時のテレビデオ普及率といえば、かなりなものだったと思う。

 ある世代に、シャープはなんでも合体させるメーカーだというイメージを強烈に持つ人がいることを知ったのは、私が大人になり、会社で働き出してからずいぶんと経ってからだった。そのイメージの大部分は、ゲーム機とゲーム機を合体させたり、ゲーム機とテレビを合体させたり、テレビとビデオデッキを合体させたりした、あの一体化家電たちによってもたらされていた。

 そのイメージの由来に気づいたのは、私が最新の家電ではなく、過去の家電を宣伝することで、お客さんの頭の中にある思い出とコミュニケーションする試みに夢中になっていた時だった。ぐうぜん1990年代初頭に発売したスーパーファミコン内蔵テレビをSNSで紹介したら、合体家電の象徴だったとでも言うかのように、驚くほどたくさんの人が拍手喝采と自分の思い出を吐露してくれたのである。それでゲームを遊んだ子どものころの記憶は私にもあったけど、それがどこのメーカーだったかなど、当時はまったく意識していなかったので、それを作った企業までを含めた膨大な思い出に、私はちょっと面食らってしまった。

 合体家電というイメージは、全面的にポジティブなものではない。一般にメーカーがブランドイメージとして獲得したい要素、たとえば先進的であるとか、技術力が高いとか、クールであるといった、自分たちがお客さんにそう思ってほしいと押し付ける、自己愛を含んだ印象とはいささか様相が異なる。そもそもみなさんが想像するとおり、合体という言葉にスマートさはみじんもない。

 どちらかというと合体は、アホっぽい。なんというか、それを口にする人の顔に半笑いが貼り付くような、嘲笑と愛嬌がない混ぜになった、なんともいえないイメージである。だってそうだろう。合体とは、二つを一つにすればスペースを省けるという合理性を飛び越えて、好きなものをいっしょにしたい、二つを同時に手に入れたい、最強に最強を建て増ししたいという、子どもじみた欲望によってこそ駆動されるからだ。

 だからこそ、あの頃子どもだった私たちは、合体家電に魅了されたのだろう。そしてその思い出が、大人になったあとも人懐っこく、ブランドイメージに作用し続けたのだ。同時にそれは、ブランドの成立の仕方として唯一無二なものだったのではないか。これひとつでなんでもできるスマホのような、いまでいう「オールインワン」の論理とはちがって、かつての合体には夢と純真があったのだ。

 遡れば、シャープの合体家電はまだまだある。80年代前後には、ひげ剃りとドライヤーを合体させたヒゲドラなる珍品や、冷蔵庫の腰あたりに電子レンジを組み込んだ銘品もあった。中でも一瞬の徒花のように存在した合体家電として、ソロカルがある。

■「合体」は「既知への道しるべ」

 ソロカルは名前のとおり、ソロバンと電卓が横一列にひっついた、見たまんまの合体家電である。ごていねいにも、ソロバンの珠の下には鉛筆を置けるように、窪みも用意されている。あまりに一目瞭然な製品のインパクトに、あるいは「計算する」という同じ機能をくっつけただけの謎の意図に、しばしば昭和の迷品として紹介され、よく笑われる。しかし私は知っている。ソロカルは迷走の末に作られたものではない。どちらかというと明確な意志のもとで作られた名品なのだ。

 ソロカルが世に出た1979年は、電卓の黎明期だ。当時はじめて電卓に触れた人は、機械が表示する計算結果を、生理的に信用できなかったそうである。そのため使い慣れたソロバンをいつも携帯し、電卓の検算をソロバンで行う人を見て、当時の技術者があえて電卓にソロバンを合体させることを思いついた、のがソロカルの合体エピソードだ。

 私はこのエピソードがたまらなく好きだ。いまとなっては不可解な合体も、未知と既知を合体させることで未知の不安を和らげようとしたと見直せば、迷品の印象もガラリと変わるだろう。それはテクノロジーの普及をそっと橋渡しする、過渡期のやさしい合体だったのだ。そしていまその合体が私たちの生活に見当たらない事実こそが、その橋渡しが成功したことを証明している。

 この世から消えることは商品やデザインの敗北かもしれないけれど、あらかじめ消えるために生まれる製品があることは、悪いことではない。クールでも合理的でもないけど、夢もワクワクもないけど、やさしくてはかない合体があること。それはChatGPTだの生成AIだの、未知に包囲されたいまの私たちにとって、既知へのほのかな道標になるんじゃないか。そういうやさしい合体がいまこそ求められていると、おそるおそるプロンプトと応答を行ったり来たりする私は思うのだ。

文・山本隆博(シャープ公式Twitter(X)運用者)
テレビCMなどのマス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートで、企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索している。2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021ACCブロンズ。2019年には『フォーブスジャパン』によるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。近著『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社ビーシー)

まんが・松井雪子
漫画家、小説家。『スピカにおまかせ』(角川書店)、『家庭科のじかん』(祥伝社)、『犬と遊ぼ!』(講談社)、『イエロー』(講談社)、『肉と衣のあいだに神は宿る』(文藝春秋)、『ベストカー』(講談社ビーシー)にて「松井くるまりこ」名義で4コママンガ連載中

■シャープさんの「家電としあわせ」シリーズ

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