日々の食事に欠かせないご飯の供・納豆。それだけに、いつもより少しだけ踏み込んで探したり新たな味をトライしてみてはいかがでしょう?今回まずは、納豆の地とはちょっとかけ離れていそうな熊本ルポからお届けします。改めまして、美味です、納豆!
画像ギャラリー日々の食事に欠かせないご飯の供・納豆。それだけに、いつもより少しだけ踏み込んで探したり新たな味をトライしてみてはいかがでしょう?今回まずは、納豆の地とはちょっとかけ離れていそうな熊本ルポからお届けします。改めまして、美味です、納豆!
太陽の光あふれる緑に囲まれた山の納豆工房へ
『森ノリノ』。このちょっと不思議な響きをもつ納豆工房は、阿蘇山のふもとに広がる熊本県菊池市にあった。山の中の道をグングン登っていくと、やがてぽっかりと広がる大きな空の下に出る。
「天空の大豆畑という方もいるんですよ」と『森ノリノ』のお母さんこと、代表の史子さんが後でそっと教えてくれた。まさに別天地!
途中引き返そうかと不安になるほどの山道が、まさかこんなステキな場所に繋がっていようとは思いもよらなかった。
ここは内田克彦さん、史子さん夫妻、息子の知也さん、翼さんが家族で営む納豆工房。目の前の畑で大豆を育て、納豆を作っている。一旦は外に働きに出たもののここに帰って来た息子たちは「外に出て、この土地や仕事の本当のよさがわかった」と口を揃える。
甘い、ホクホク!家族で育てたおいしい大豆
工房に着いた途端、豆を蒸す甘い香りが外にまで漂ってきた。仕込みは1日2回で大豆26kg、およそ300パック分。大豆は圧力釜で3時間半蒸しあげる。濃厚な香りと共に取り出されると、艶々ふっくらな大豆は意外にもセピア色をしている。香りも少し香ばしい。
「最初は白い大豆が蒸すとセピア色になるんです」と克彦さん。蒸したてを口に入れると栗や芋のようにほくほくして甘い!
この豆が納豆になるのだから、おいしいわけである。大きな桶に大豆を入れ「クセがないのがいい」という納豆菌・成瀬菌をかける。そこで知也さんがおもむろに大きな桶をガッと持ち上げて振るった。菌をまんべんなく混ぜるためだが、これはかなりの重労働である。菌をまぶした大豆は丁寧に容器に詰め、発酵は18時間。ここまでのすべてが手作業だ。
「お嫁に来たときは義母が納豆を作っていました」
最後は明日仕込む大豆を洗う。水を入れてかき混ぜると泡立つが、「これは大豆のアクなんです」と翼さん。
泡がなくなるまで水を替えてきれいに洗い、ひと晩ほど浸けておく。浸水時間も気温の変化や大豆の質で細かく調整するという。蛇口から出るのは山の上から引いた天然水だ。山の澄んだ空気と水が大事。風土が育むここだけの味なのだ。
内田家は代々、あか牛を育てる繁殖農家だったという。山頂に開けた土地は放牧場だったのだ。それが野菜農家となり、30年前に一念発起して納豆工房をスタートさせた。この地域は昔から各家庭で納豆を作ってきた歴史がある。内田家でも時々作って出荷していた納豆が評判となり、もっと作って欲しいと求められたことがきっかけになった。
「昔は山に住む人たちの貴重なたんぱく源だったのでしょうね。私がお嫁に来たときは義母が納豆を作っていました」と史子さん。
大豆は夏の初めに種をまき、晩秋に収穫する。無化学肥料、無農薬で育てている。最初は苦労したが、今は病気にも虫にも強くなったという。畑に案内してもらうと、太陽に照らされてのびのびと育った大豆が風に揺れていた。
在来種の「八天狗」は中粒だが、去年は出来がよすぎて大粒の「フクユタカ」に迫るサイズに育ってしまったとか。
ちなみに工房の名前の由来を聞くと「リノはハワイ語で光です。山と海を意識して、海(島)の言葉を入れてみたくて」と史子さんはチャーミングに笑う。
納豆のネーミングもフクユタカの「海想う」、八天狗の「山笑う」と、山の上から南国熊本の海へと思いを馳せるイメージが伝わってくる。
「ここより少し上の方に行くとね、海がキラキラして見えるんですよ」と克彦さんもうれしそうに付け足した。
実は「よかったら」とお誘いを受け、我々取材チームは図々しくもお昼ご飯をご馳走になった。いただいたのは、お手製のざるうどん。上にのせた納豆は味も香りもやさしく、噛みしめると愛情と豆の風味をたっぷり感じられた。
そして我らは遅く来た夏休みのようなひと時を内田家の居間で過ごし、「また来てくださいね」と史子さんに見送られ、山道のドライブへと再び挑んだのであった。
納豆のできるまで、工程一覧
【Step1】洗って浸けて
【Step2】蒸して
【Step3】納豆菌を投入
【Step4】混ぜて
【Step5】量って詰めて
【完成】
『森ノリノ』
通販は「森ノリノ」で検索。都内では『GAIA代々木上原店』で販売する。納豆工房から少し上の公民館前まで細い道を登ると、遥か遠くに有明海のきらめきと長崎県の雲仙普賢岳が見晴らせる。
[住所]熊本県菊池市原4490
[電話]0968-27-1212
撮影/松永直子、取材/岡本ジュン
※2024年11月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
…つづく『【厳選】和食の朝ごはん名店4選 「究極の朝食」「日本を愉しむ朝ごはん」「18品の朝ごはん」とは』では、覆面調査隊が、慌ただしい日々をリセットし、新たな気持ちで1日を迎えられるよう、厳選素材にこだわる和食店の和朝食を実食レポートしています。