気に入って買った愛車もやがて乗り換え時期を迎えるが、その際に同名の新型を調べると、思ったよりも大きくなっていることが多い。自動車検査登録情報協会が2024年10月17日に発表したデータによると、乗用車の平均車齢(保有年数)は8.29年とある。つまり、買い替えるころには2世代後になる可能性もあり、5ナンバーだった車が3ナンバーになってたなんてことも……。どうしてクルマは大きくなるのだろうか?
画像ギャラリー気に入って買った愛車もやがて乗り換え時期を迎えるが、その際に同名の新型を調べると、思ったよりも大きくなっていることが多い。自動車検査登録情報協会が2024年10月17日に発表したデータによると、乗用車の平均車齢(保有年数)は8.29年とある。つまり、買い替えるころには2世代後になる可能性もあり、5ナンバーだった車が3ナンバーになってたなんてことも……。どうしてクルマは大きくなるのだろうか?
現行型ではかなり大きくなったホンダシビック
クルマは日本車、輸入車を問わず、フルモデルチェンジを行う度にボディを拡大することが多い。2000年頃までの日本車には5ナンバー車が多かったが、今は軽自動車、コンパクトカー、一部のSUVやミニバンを除くと大半が3ナンバー車だ。
例えばシビックは、1972年に発売された初代から、2000年に登場した7代目までは基本的に5ナンバー車だった。それが2005年に登場した8代目で3ナンバーサイズに拡大され、売れ筋になる1.8Sの全長は4540mm、全幅は1750mmになった。
ボディタイプはセダンだけで売れ行きも下がり、2010年にシビックは一度国内販売を終えている。この後、2017年に10代目で復活した時のサイズは、セダンの全長が4650mmで、全幅は1800mmに達していた。
輸入車ではフォルクスワーゲンゴルフも、1975年に輸入を開始した初代から3代目までは5ナンバー車だったが、1998年に輸入を開始した4代目は全幅が1700mmを超えて3ナンバー車になった。2013年に輸入を開始した7代目になると、全幅が1800mmに達していた。
衝突安全性能の向上だけでなく、ユーザーからのリクエストもある
このようにボディを拡大する理由を開発者に尋ねると、まず挙げられるのは「乗り替える度にお客様の希望が上級化すること」だ。ユーザーの年齢も高まり、所得も増えて、さらに豪華なクルマを求めるからフルモデルチェンジの度にボディを拡大するという。
2つ目の理由は「衝突安全性能の向上」だ。側面衝突に対応するには、ドアやピラー(柱)を強固に造り込む必要があり、室内幅が同じでも全幅は拡大する。また前面衝突への対応では、全長を伸ばす必要も生じる。
例えばステップワゴンの全長は、先代型は標準ボディが4690mm、スパーダは4760mmだった。それが現行型では、標準ボディに相当するエアーが4800mmで、スパーダは4830mmだ。
3つ目の理由は「走行安定性の向上」だ。直進安定性、カーブを曲がる時の安定性、さらに危険を避ける性能など、いずれも全幅がワイドになると有利。左右方向の踏ん張り感が増して、足まわりをセッティングする自由度も拡大するためだ。
特に最近は背の高いSUVが増えたから、重心も高まり、全幅をワイド化してトレッド(左右のホイールの間隔)を広げるニーズが従来以上に高まった。
今後も増え続けるSUVには大きくなる理由が2つある
そして今後もSUVの売れ行きは増え続ける。理由は2つあり、まずは外観の存在感と広い天井による車内の広さを両立させていることだ。SUVはカッコ良くて実用的だから人気のカテゴリーになり、これ以上の売れ筋カテゴリーは今後登場しないだろう。
2つ目の理由はEV(電気自動車)の増加だ。EVでは駆動用リチウムイオン電池を床下に搭載するから、背の高いSUVと親和性が高い。
こうなるとSUVのボディも大型化が続く。特にSUVスタイルのEVが駆動用リチウムイオン電池を床下に搭載するには、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も長い方が有利だ。1回の充電で走行できる距離を伸ばそうとすればボディも拡大する。
ただしこのようなサイズアップは、さまざまな犠牲を生み出す。運転がしにくくなり、移動に要するエネルギーも増えて価格も高まる。EVでは、前述の通り1回の充電で走行可能な距離を伸ばそうとすれば電池と併せてボディも拡大され、車両重量も増えて大きなモーターが必要になる。その結果、さらに大容量の電池を搭載してボディも一層の拡大を招いてしまう。
サイズの小さいホンダN-BOXや日産ルークスでも高い安全性を確保
その一方でボディサイズの限られた軽自動車を見ると、N-BOXやルークスが、J-NCAPのテストで最高ランクの5スターを獲得している。軽自動車のボディサイズは、1998年に現行規格が導入されてからは拡大されていない。ボディを拡大しなくても、安全性を向上できるのだ。
EVでは、1回の充電で走行可能な距離を伸ばすと、拡大の悪循環が生じて環境性能の向上率は悪化する。従って日常的な移動にはコンパクトなEVを使い、遠方への外出では、駅までEVで出かけてそこから先は公共交通機関を利用するパーク&ライドが好ましい。EVの世界観は、クルマを効率良く使うことだから、ユーザーに不便が生じることもある。もはやフルモデルチェンジの度にボディを大型化する時代ではなくなった。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/日産、ホンダ