ぐるっと石川 南加賀をめぐる旅「南加賀を感じる・体験する」

日本列島の北陸を代表する地、石川県。金沢や能登はよく知られるところですが、これからの注目は、加賀温泉や小松市近隣一帯の”南加賀“エリア。北陸新幹線石川県内全線開通を数年後に控え、より足を運びやすくなる南加賀に静かに足を運びました。ここでは感じる・体験するをテーマにお届けします。

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南加賀を代表するのは小松市、加賀市、白山市、能美市、野々市市、川北町の5市1町。行き来しやすいこのエリアで、さまざまな歴史・文化・伝統を肌で感じてみたい。

しっとりとした温泉地の風情 息づく伝統文化とおもてなし

2024年春に石川県内全線開業予定の北陸新幹線。県内では新たに「小松」「加賀温泉」の2駅が開設する。
これまでの「金沢」までのアクセスに加え、もう一歩先の“南加賀”エリアへ訪れるのが便利になるわけだ。

小松市、加賀市、白山市、能美市、野々市市、川北町のこれら5市1町一帯は、いわゆる“金沢”や“能登”とはまた違った趣がある。その魅力を改めて味わいたいと思い旅に出た。

最初に向かったのは、加賀温泉郷である。山中温泉、山代温泉、片山津温泉、粟津温泉さらには白山温泉郷。このエリアには、じつに多くの温泉地が集積している。しかもいずれも歴史が古く、その地に根差した表情が感じられるのだ。

まず訪れた山中温泉。奈良時代の高僧・行基が発見し、江戸時代には松尾芭蕉にも称賛された、大聖寺川上流の渓谷沿いの温泉地。その渓谷鶴仙渓を歩くと、ならではの風情が染みてくるようである。

鶴仙渓には、黒谷橋、あやりとりはし、こおろぎ橋と特徴的な3つの橋が架かり、その間約1.4kmが遊歩道になっている。曲がりくねりつつ流れる水は碧く、両側から鬱蒼と枝を広げる木立、水流に変化を与える岩の形や苔が織り成す景観が印象深い。思わず深呼吸をひとつ。

鶴仙渓・あやとりはし

奥深く静かな自然の植物園ともいえる谷合。絶えない水音、小さな森を作る苔、空の形や岩、秋は紅葉もいい。石造りのレトロな黒谷橋、総ひのき造りのこおろぎ橋。華道家・勅使河原宏氏デザインのあやとりはし(写真右)はS字のモダンな曲線が印象的だ

この地の風情を成すのは、自然だけではない。受け継がれてきた文化も息づいている。

例をひとつ挙げるなら山中漆器。「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」とともに称される「木地の山中」。轆轤(ろくろ)挽きによる木地の完成度と美しさは追随を許さない。

ゆげ街道で見つけた『GATO MIKIO / 1(ガトミキオ1)』では、そうした伝統を踏まえながら、その技術をモダンなデザインの器に昇華。その可能性にとてもワクワクした。

GATO MIKIO / 1

たとえば無数に筋を施す「加飾挽き」など、精緻を極める山中ならではの技術がモダンな中にも生きている


[住所]石川県加賀市山中温泉こおろぎ町ニ3-7
[電話]0761-75-7244
[営業時間]9時~17時
[休日]木

温泉地としての成り立ちが興味深いのは、次に向かった山代温泉も同様だ。

石川では共同浴場を「総湯」といい、江戸時代には総湯を囲むように宿が立ち並び、街が造られた。その街並みを「湯の曲輪」というのだが、情緒あるその景観が今も残る。

中心にある「古総湯(こそうゆ)」は、明治時代の共同浴場の建築と入浴法を再現。滔々と湧く源泉掛け流しの湯は、心地よく肌にまとわり、心の芯までホカホカと温まるようだった。おすすめなり。

古総湯・足湯

山代温泉の中心地にある古総湯の浴室は、ステンドグラスや塗りの板塀、手描きの九谷焼タイルも復元され、趣きのある空間に。洗い場はなく、入浴方法も当時の雰囲気のまま味わえる


近くには源泉・薬壺の湯という足湯スポットもあり。少し熱めだが気持ちいい

そしてもちろん、宿の魅力についても語らなければなるまい。

訪れたのは『あらや滔々庵(ととあん)』。大聖寺藩初代藩主・前田利治より湯番頭の命を受けるとともに、荒屋源右衛門の名を拝して以来、現当主で18代を数える老舗宿だ。

1日約10万lを誇る豊富な湯量と歴史を感じさせる湯船や露天風呂の設え。山庭に面した閑静な客室の数々。季節ごとの地の素材が九谷焼や山中塗などの器とともに供される料理。いずれも深く訴えかけてくるのだが、一番心に染みるのは、そこに通奏低音のごとく感じられるやわらかな心遣いかもしれない。

「山代は昔から外からの方を受け入れる気質。ゆっくり楽しんでいただければ」とは現ご当主。気負いのない美意識が貫かれている。

あらや滔々庵

かけ流しの源泉を吉野檜の浴槽に引いた露天風呂付きの客室「九谷・兼六」


前田藩主や北大路魯山人も使った「御陣の間」


「御陣の間」内の半露天風呂


ヒバの壁板にひのきの湯淵が心地いい「瑠璃光」など趣の違う大浴場も3つあり、良質な湯を湧かし続けている


若き日の魯山人と山代温泉の旦那衆は親しく交わり、館内には玄関の衝立をはじめ魯山人ゆかりの作品も多く残る



美しい器をさりげなく使い、恵まれた食材を生かした料理も見事

[住所]石川県加賀市山代温泉18-119
[電話]0761-77-0010(代)

電動ろくろで”飯碗“に挑戦! 身をもって体感するのが楽し

南加賀をめぐる旅でさらにおすすめなのが、“体験すること”である。先ほどの漆器しかり九谷焼しかり、この地には現代に至るまで続く趣深い伝統工芸がいくつもある。その背景には、茶道や華道、あるいは食文化などがあり、それが懐の深さを感じさせもする。そしてそればかりでなく、実際にそうした工芸を体験できるスポットが点在しているのだ。

まずは『九谷セラミック・ラボラトリー』に訪れてみた。

美しい絵付けとともに幾度も高温での焼成を行う九谷焼には、実は「花坂陶石」という小松市でとれる石が欠かせない。ここはその陶石から磁器土を造る製土工場でもあり、粉砕から完成までその工程を見ることができる。さらにはギャラリーや若手作家のレンタル工房、そして体験工房がある。今回はそこでろくろ体験コースに挑戦してみた。

電動ろくろの前に座り、手を水で濡らして土を両手で包み込む。泥遊びのような感触がうれしい。教えられた通りに真ん中に穴を開け、指で挟むようにして形を作っていく。ていねいに教えてくれるから大丈夫。それに「九谷の土は腰があるから初めてでもやりやすい」そうだ。

九谷セラミック・ラボラトリー

2019年5月に、石の文化の魅力発信と進化を続ける九谷焼を体感する場としてオープン


隈研吾氏による建築設計も印象的だ。九谷焼の製造工程を学ぶ常設展示や新進作家による作品展示ギャラリーも


体験メニューには、ろくろ以外に手びねり成形や絵付けコースもある

[住所]石川県小松市若杉町ア91
[電話]0761-48-4235
[営業時間]10時~17時(最終入館は16時半)
[休日]水・年末年始
[入館料]一般300円、学生(高校生以下)150円
※器作り体験は要予約。詳細はHPを参照ください
https://cerabo-kutani.com

続いて川北町の『加藤和紙』へ。

ここでは雁皮(がんぴ)和紙の手漉きハガキ体験ができる。雁皮の木は栽培ができず、野生しているもののみが使われる。その和紙は緻密で強靭、なめらかで光沢があり、虫害にも強いことから「紙の王様」とも言われるという。上等な金箔を打つときに欠かせない地紙としても用いられてきた。

「昔は農閑期になると、冬場、女性が総出で漉いていました。煮込んだ繊維を砕く機械を回す水車の音がトントンとして……」。白山から流れくる美しい水を思い浮かべながら木枠を動かし、野花の押し花を散らす。地に根差した工芸を実感するのはやはり楽しい。

加藤和紙

煮込んだ雁皮の繊維を水車の力で砕いた昔の機械が今も残っている


手漉きハガキ体験では、雁皮の溶け込んだ水槽を木枠で2回ほど漉き、その上に用意された野花の押し花や金箔を自分で選んでデザイン


最後は水分を取り、さらにひと晩ほど乾燥させれば完成だ


さまざまにデザインされた和紙の完成品も展示・販売されている

[住所]石川県川北町中島ヲ152-1
[電話]076-277-5800
[営業時間]9時~16時
[休日]年末年始
[料金等]手漉き和紙体験は1名1650円、所要時間約30分
訪問の5日前までに要予約

圧倒的な景観や歴史の名残に この地ならではの佇まいを実感

クルマを走らせてみると、南加賀はわりとコンパクトで、どこを訪れるにもアクセスがいい

そして、旅することの楽しみは、その土地の空気感に身を浸すことともいえるが、移動し、さまざまな景観や歴史と出合うほどに、この地の伸びやかな情感を感じることになる。

先に九谷焼に欠かせない石の話をしたが、小松は古くから石の産地であり、石の文化が息づくことにも気づかされる。

圧巻のひとつは、1300年前に石山に創建された古刹『那谷寺(なたでら)』だ。そそり立つ岩の中に仏像が点在する「奇岩遊仙境」と岸壁に寄り添う本殿。那谷寺は、白山を崇拝し、「自然智」の教えを今に伝える白山信仰の寺というが、そのあり様からはまさに自然への敬意と祈りが伝わってくる。

木々が並び苔むした参道から、池があり、灯籠が配され、段差が生かされた造営は侘び寂びを感じさせる味わい。心洗われる散策となるはずだ。

那谷寺

長い年月の風と波に洗われて形成された奇岩遊仙境は、観音浄土浮陀落山を思わせると言う



美しい山門や鐘楼、枯れることのない霊水など見どころは他にも尽きない

[住所]石川県小松市那谷町ユ122
[電話]0761-65-2111
[営業時間]9時15分~16時
[休日]無休
[拝観料]大人(中学生以上)600円、小学生300円

かと思えば、隠れた癒しスポットともいえるのが能美市にある『いしかわ動物園』だ。

自然の地形を生かした植栽や岩、池などが配された緑豊かな環境。本来の生息地を再現するなど、動物たちにとっての快適さが配慮されている。

たとえば、棚田風の湿地や里山の樹木を模した環境の中に公開されている特別天然記念物のトキ。ここは国のトキ復活事業にも協力しており、これまで幾羽ものトキがここで育ち、佐渡で野生放鳥されている。

ほかにもホワイトタイガーやオランウータンなどさまざまな動物が、愛らしい姿をのびのびと見せ、見飽きることがない。

いしかわ動物園

本州最後の生息地は能登だったというトキの暮らしぶりが感じられるトキ里山館


ホワイトタイガーやヒョウが行き来するネコたちの谷


グレビーシマウマがサバンナのように駆けるアフリカの草原、等々。動物たちはみんなのびのび

[住所]石川県能美市徳山町600
[電話]0761-51-8500
[営業時間]4/1~10/31:9時~17時、11/1~3/31:9時~16時半
(最終入園は閉園時間の30分前)
[休日]火(祝日の場合は翌平日休)、年末年始
[入園料]一般840円、3歳以上中学生以下410円

北国街道で金沢から京へ向かう最初の宿場町だったのが野々市宿で、今にその面影を残す見どころをめぐるのもいい。

『喜多家住宅』は当時の町家の典型的な建築であり、石川県に現存する町家では最も古いものとなる国の重要文化財だ。

客人をもてなすために囲炉裏の灰に描かれた美しい文様・灰形や、客間から見渡せる優美な庭。玄関に入ると目に飛び込む、高い吹き抜けと縦横に走る梁組みの意匠も見事。

たとえば金沢城下で感じる色気とはまた別の、なんとも味わいのある佇まいと時の重みを感じるのだ。

喜多家住宅

喜多家は元は福井藩の武士で、1686年野々市に移り住んで油の製造販売を、幕末からは酒造りを営んだという




現存する家屋は、明治24年の大火のあと、金沢材木町の醤油屋の建物を移築したもの。典型的な加賀の町家建築

[住所]石川県野々市市本町3-8-11
[電話]076-248-1160
[営業時間]9時~17時
[休日]月(祝日の場合は翌火休)、年末年始
[観覧料]大人400円、小人200円

旅の間中、いつも遠くに見守るように見えたのが霊峰白山。

最後はその白山を御神体とする『白山比咩(しらやまひめ)神社』に詣でた。全国白山神社の総本宮であるパワースポット。凛として荘厳な雰囲気とともに、すっきりと透き通った気配は、南加賀全体に感じられるもののように思われた。

白山比咩神社

創建は遠く崇神天皇の御代と言われ、「白き神々の座」として白山を仰ぐ白山信仰の中心。
樹齢1000年ものケヤキや、杉の木がそびえる表参道も美しい。
地元では「しらやまさん」と呼ばれ、縁結びの神様としても親しまれている

[住所]石川県白山市三宮町ニ105-1
[電話]076-272-0680

※掲載されている営業時間等の情報は、状況に応じて変更になる場合があります。電話などでお問い合わせください。

撮影/貝塚 隆 取材/池田一郎

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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