日本酒は好きですか? 私は大好き! でもただ「旨い」と呑み、楽しく酔うだけ。好きだからこそ理解して呑みたい。そこで日本酒の品揃えに定評のある、人気の居酒屋『青天上』(東京都杉並区)の店主であり、利酒師の齋藤正浩さんに日本酒について教わった。
画像ギャラリーまさに“ジャパン”! 日本酒の条件とは
日本酒。普通に使っているが、改めて考えてみると“日本の酒”。なんとストレートな名称ではないか。今回、この記事を執筆するために日本酒について調べてみると、「國酒」(こくしゅ)とある。なんだかすごいぞ。國酒とはなんぞや。齋藤さんに聞いてみた(以下敬称略)。
市村:日本酒について教えていただきたいのですが、日本酒は「國酒」なんですね。
齊藤:「國酒」とは、主に日本酒と本格焼酎を指し、日本固有のお酒のことです。日本酒はその中でも、メイドインジャパンの米、米麹、水を使って造られたものでなければ、“日本酒”と名乗ることはできません。
市村:焼酎は米だけでなく麦や芋など原料はさまざまですし、泡盛は外国産の米で仕込んでいることもあるのに比べると、日本酒はより日本らしいというか、「國酒」感が強い。国賓を迎えるときの晩餐会などで日本酒で乾杯している様子がニュースで見られますよね。
齊藤:そうですね。「國酒」という呼び方は、2012年5月に「ENJOY JAPANESE KOKUSHU(國酒を楽しもう)」という、輸出を促進する国家推進プロジェクトとして立ち上がった際のものです。
市村:2013年12月には和食が世界無形文化遺産に指定され、世界的に起こった和食ブームに伴って、日本酒の輸出量も非常に伸びているとか。
齋藤:日本酒の輸出金額は、2009年以降11年連続で最高記録を更新し続けています。
参考)https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/sake_yushutsu/0021001-122.pdf
市村:国税局の資料によると、2009年の約72億円からコロナ禍だった2020年でも約241億円と、なんと3.3倍以上の伸びとなっているんですね。世界的にさまざまなことが停滞していた印象なので、なんだかとてもうれしいです。
世界での日本酒の人気ぶりを実感
齊藤:新型コロナウイルス感染症の影響で、今は外国人のお客様はほとんどいませんが、阿佐ヶ谷のお店(市村注:『青天上』は、東京都杉並区の地下鉄丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅に2店、JR中央線西荻窪駅に1店舗構えている)はビジネスホテルが近いので、外国人観光客も多く見えていたんです。
市村:みなさん、日本酒を飲まれるんですか?
齊藤:そうですね。日本酒人気を実感しました。印象的だったのは、韓国の方がいらして、空瓶でいいからほしいとおっしゃるんです。なんでも韓国では、「十四代」(山形/高木酒造)の瓶など2~3万で売れるらしく、お店に飾っておくのがステイタスなんだとか。
市村:空瓶なのに
齊藤:これは聞いた話ですが、韓国の飲食店に入ると、いわゆるパック酒を仰々しく提供しているそうです。
市村:パック酒を否定するつもりはありませんが、それをうやうやしく出しているなら、日本国内でも希少価値が高いとされるお酒が、海外でよりブランド価値が認められているということですよね。興味深いです。
なお、先ほどの国税局の資料によると、2020年の輸出金額は前年比103.1%ですが、数量では前年比87.3%となっています。
齋藤:それは海外でも、量より質が求められてきたという証なのだと思います。
市村:日本酒は個性も味わいも多彩ですもんね。
齊藤:イギリス人の友人は、日本酒はそのままだと甘いと言って炭酸で割ってガブガブ飲んでいます。いろいろな国の人が自分なりの飲み方や楽しみ方を見つけられているのはうれしいですね。
市村:日本酒のソーダ割り! 「おと週」副編集長の武内さんと、これは流行りそうだと話していたんです。そしたらコロナになってね(涙)。お酒にまつわる職業のみなさんは特に、この約2年本当に大変ですよね。
でもそんななか、2021年6月に3店目をオープンしたという齋藤さんは、すごい!
齊藤:うちは従業員たちの生活も考えて、もう攻めるしかない! という気持ちでしたね。
日本酒はどんな肴も受け止める懐の深さがある
市村:先ほど、日本酒にはさまざまな味わいがあるとお話ししましたが、種類についての詳細は次回以降に譲るとして、私は旨い肴とお酒があれば満足して飲んじゃうんです。
なので、銘柄などは料理に合わせてお店にお任せすることが多いのですが、『青天上』では食べ物との組み合わせはどうお考えですか?
齋藤:『青天上』の看板商品である焼き鳥は「総州古白鶏」という鶏を使っています。比較的淡泊な味わいで食べ飽きない旨さがあります。かつ焼きダレは日本酒とのペアリングを考えて仕込んでいるので、アテとして日本酒を楽しんでいただきたいですね。
市村:私が『青天上』で、「やきとりおまかせ5本盛合せ」(650円)と一緒にいただいたのが、「選べる日本酒飲み比べ3種セット」(1000円)です。内容の説明をお願いできますか?
齋藤:「村祐(むらゆう)」(新潟/村祐酒造)は、“新潟の酒といえば淡麗辛口”とされていた市場に風穴を空けた蔵とされています。「村祐」をきっかけに日本酒を飲むようになった方も多く、僕もそのひとりかもしれません。というか、単なる「村祐」のファンです(笑)。
飲んだ人が純粋に美味しいかどうかを感じられるよう、先入観を無くすために表記されているのは最低限の情報(アルコール度数と特定名称)だけで、精米歩合、日本酒度、酒米の品種、酸度などその他のすべてが非公開になっている、なんともハードコアなカッコイイ思想にやられてしまいました。
よく世間では和三盆のような味わいと例えられていますね。
「田酒(でんしゅ)」(青森/西田酒造店)の特別純米も名酒で、初心者から玄人までクリアで飲み飽きしないと思います。「華吹雪」という酒米を使ったスッキリとコクがある、食中酒としてトップクラスの味わいですね。白米と合う料理ならなんでも来いといったイメージです。
「醸し人九平次(くへいじ)」(愛知/萬乗醸造)は、いつ飲んでも鮮やかでジューシーで“流石だな~”というひと言に尽きます。
海外のミシュラン星付き店のワインリストに入っていたりして、日本酒の存在を世界で知らしめた酒のひとつではないでしょうか。
斎藤:一般的にフルーティな日本酒は料理と合わせづらいと言われていて、酒単体で楽しむ食前酒や食後酒にまわりがちです。写真の「王禄(おうろく)」(島根/王祿酒造)は柑橘っぽさと旨みがあり上質な白ワインを彷彿とさせます。「直虎」(長野/遠藤酒造場)は「愛山米」を使っており、甘みとコクがあります。
香りの高さから魚介、特に赤身の刺身など生臭さが強いものほど相性は良くないと言われがちですが、そんなことは無いと思います。蔵の方には失礼かもしれませんが、白ワインのようなマリアージュと説明するとお客さんもイメージしやすいみたいですね。
市村:お客さんに日本酒の説明をするときに気をつけていることはありますか?
齋藤:私の仕事としては、直接消費者の方とセッションできる立場から、広く楽しんでもらえるように伝えられたらと思っています。
蔵元さんの日本酒に対する熱意であったり、ストーリーだったり、日本酒の枠を超えて同じ商売人として感銘を受けることが多々あります。ですから味を説明するというより、そのお酒の背景をお伝えするほうが多いような気がします。
こういった名だたるお酒と合わせて、お客様から美味しいと言っていただけるのは最高ですね。
市村:最後に、齋藤さんから見て、日本酒の魅力とは、どんなところだと感じますか?
齋藤:とても奥深いものなのに自由度が高くて、振り幅が広いところです。冷やしても温めても、ロックや先ほどのように炭酸などで割ってもいいと思うんです。
例えば「黒龍 純米吟醸垂れ口」(福井/黒龍酒造)というお酒は、時期限定なので季節感を楽しむにはもってこい。濃厚な味ながらキレもあり、かつフルーティ。香りは若々しくアルコール度が高い生原酒です。派手なのに食中酒にも合わせられる、素晴らしいバランスをもっています。
スーツをカッチリと着ているのに、ネクタイだけ豹柄でオシャレみたいな感じでしょうか(笑)。生酒を燗にするなんて邪道だと言う人もいますが、僕はぬる燗にしてガス感を抜き丸くして、楽しむのもありだと思います。
このようにいろいろな飲み方や自分なりにカスタマイズして楽しめる、無限の可能性があるのが日本酒なんだと感じています。
次回は、日本酒の歴史についてご紹介します。【第2回に続く】
■『焼き鶏 青天上(あおてんじょう)』
「お酒とは飲む人が楽しくなるツールであるべきで、そのバックボーンにあるのが居酒屋だと思っています」と話す齋藤さん。焼き鳥がメインの1号店は丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅から徒歩1分、その斜め向かいに2号店の『魚肴 青天上』がある。2021年6月には、3号店となる西荻窪店(上写真)をオープン。1号店と2号店のいいとこ取りだ。
[住所]東京都杉並区西荻南3-24-1
[電話番号]03-6913-7719
[営業時間]15時~24時(23時LO)
[休み]無休
https://www.instagram.com/aotenjo/?hl=ja
取材・撮影/市村幸妙
参考文献:『新訂 日本酒の基』(NPO法人FBO)、「日本酒輸出の推移」(「酒のしおり」国税局)https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2021/pdf/000.pdf、酒蔵プレス(https://www.sakagura-press.com/sake/export_sake_2020/)
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