ワインの海、小ネタの浜辺

ワインは「缶」が主流になる!? ガラス瓶よりも優れる意外なメリットとは【ワインの海、小ネタの浜辺】第9話

スペインからド派手な外見の缶ワインが入ってきた。その名は「カンヴァス(Kanvas)」(250ml、税別650円)。白・ロゼ・赤の3アイテムがあり、それぞれブルー、ピンク、オレンジの色鮮やかな背景に、インパクト満点の人物…

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スペインからド派手な外見の缶ワインが入ってきた。その名は「カンヴァス(Kanvas)」(250ml、税別650円)。白・ロゼ・赤の3アイテムがあり、それぞれブルー、ピンク、オレンジの色鮮やかな背景に、インパクト満点の人物画。商品名も内容説明もポップな手書き文字で表記されている。さらに目立つのは「オーガニック」「エコロジコ(エコロジー)」の文字。外見からイメージされるのは、屋外で行われる音楽フェスで飲まれるパンチの効いたカクテルといったところか。

温室効果ガスの減少に貢献

缶ワインがにわかに活気付いている。この動きの背後には何があるのだろう? 缶ワインが瓶入りワインを駆逐していくというような未来像はあるのだろうか?

「CじゃなくてKですからね、そこのところよろしく」

カンヴァスのコンセプトについて話を聞こうと、製造元である〈デ・ハーン・アルテス〉のラファエル・デ・ハーン氏にメールでアプローチしたところ、そう言って念を押された。カンヴァスのスペルの頭文字をCではなくKにしたことを言っているのだ。デ・ハーン氏によると、Kの方がクールで、印象的で、目立つだろうからとのこと。ふむ。それはさておき、この缶ワインについて、デ・ハーン氏はこのように説明した。

ラファエル・デ・ハーン氏

缶には、ガラス製ボトルに比べ、よりフレッシュで、若々しく、堅苦しくないイメージがあると思います。缶は100%リサイクル可能な素材だし、瓶に比べて軽量だから、輸送時に出る温室効果ガスの量も減らせます

我が国のアルミ缶のリサイクル率については、94%という数字がある(2020年度。アルミ缶リサイクル協会)。一方、ガラス瓶の方は70%前後であるという。

エコのことについて少し加えるなら、瓶はネック部分が細くなっていて積み込みの際に空隙(くうげき)ができてしまうのに対し、缶は比較的みっちりと積める。また瓶と比べ、缶は短時間で冷やすことができるので、その点でもエコと言える。コルクという廃棄物が出ないことも環境的にはメリットと言えるだろう。

「オーガニック」「エコ」が購買動機に結び付く

少々横道に逸れるが、デ・ハーン氏の経歴が面白いので紹介しておこう。イギリス生まれのデ・ハーン氏は、ワインバイヤーとして南米各国のワイナリーを訪ねるうちに、もっとブドウ畑に近い場所に自分の居場所があるのではないかと考えるようになり、2001 年にスペイン・バルセロナに移る。そこで世界に知られていないスペイン各地の優良なワインを探し歩くうち、カタルーニャ州のとある協同組合を訪問した際に、輸出マネジャーとして働いていた女性ヌリア・アルテスさんと出会う。ヌリアさんは代々続く地元のブドウ栽培農家で生まれ育った人だ。

ワインへの情熱で結びついたふたりは2006年に〈デ・ハーン・アルテス〉を立ち上げ、自分たちのワインを造り始める。環境保全にコミットする同ワイナリーでは、当初から畑では有機栽培を実践し、ヴィーガンの認証も取得。その後も軽量ボトルの使用やソーラーパネルによる自家発電などに取り組んできた2019年にはスペイン国内のコンクールで「ベスト・オーガニック・プロジェクト賞」を受賞。また、気候変動問題に対するアクションを促進する生産者の連盟で、準会員に選ばれるのさえ難しいとされるIWCAのシルバー会員になっている。

デ・ハーン氏のワイナリーではソーラーパネルによる自家発電で使用電力の80%を賄っている。数年のうちにはカーボンニュートラルを実現する見通し

この連盟は、スペイン・カタルーニャ州の〈トーレス〉とアメリカ・カリフォルニア州の〈ジャクソン・ファミリー・ワイン〉というふたつのメガ生産者が発起人となって2019年に立ち上げられたもので、気候変動緩和策を策定し、ワイン産業の脱炭素化を目指して行動することを理念としている。現在加盟しているワイナリーは世界各地にあり、その数は20社を超える。同連盟のウェブサイトに記された趣意を読むと、ワイン産業が気候変動の問題といかに密接な関係にあり、彼らが現状に危機感を抱いているかがよくわかる。一部を引用しておこう。

気候変動は、ワインの分野にとって存続を脅かす喫緊の問題である。地球規模の気温の変化は、どこで、いつ、どのようなワインを生産できるかを根本的に変え、何世代にもわたって操業してきた各地のワイナリーの未来を危険にさらしている。予測不可能な天候パターンはブドウの収穫量や化学的性質、品質に影響を与えている。干ばつ、洪水、山火事などの異常気象がますます頻発し、収穫とビジネス全体が危険にさらされている〉

“横道”の話が長くなったが、カンヴァスのコンセプトの一つに温室効果ガスの削減があったことは当然だと理解できるだろう。「オーガニック」や「エコ」はワインの購買動機と結びつくキーワードとして、日本でも日に日に重要性を高めている。ちなみにカンヴァスに使われているブドウは自社畑以外からの買いブドウも含まれるが、オーガニックでヴィーガンという条件は全てクリアしたものであるという。

アートと結びつけた「缶ワイン」で若者にアピール

私の目を引いたド派手なパッケージデザインについてもデ・ハーン氏の考えを聞いてみよう。

エコを起点に「缶ワイン」が新たなジャンルを確立することはできるか?

ボトル詰めのワインに貼られたラベルには、伝統や家族、テロワール(ブドウの育つ土地の気候・風土など環境全体を表す言葉、「地味」と訳されることもある)などが表されることが多いですが、カンヴァスでは缶という異なる場で、ワインとアートを結びつけ、従来のワイン愛好家ではない消費者、特に若者にアピールしたいと考えました

今回のイラストを描いたのはデ・ハーン氏の友人でもあるイギリス人デザイナー、マイケル・ハワード氏。モデルになっているのは、ハワード氏の友人で、オランダ人、イギリス人、日本人であるという。3つの缶を並べると、ポップでアーティスティックであるという印象に加え、「多様性尊重」というメッセージも立ち上がってくるように見える。「ラベルではないこと」は缶ワインの大きなアドバンテージなのかもしれない。

缶から直接飲んだ後はグラスで…

試飲してみると、白(品種はガルナッチャ・ブランカ)は梨のような香りと味わい、ロゼ(ガルナッチャ)はアセロラやハーブの香り、赤(ガルナッチャ)はイチゴやチェリーの香りがあってジューシーだった。3つに共通するのは飲みやすさ。アルコール度数13〜14%と低くはないが、それを感じさせない軽快さがある。

デ・ハーン氏に、缶ワイン用に何か調整した点はあるか、と訊ねてみたが、「中身はボトルに詰めるワインと何も違わない」との回答だった。缶から直接飲んだ後、グラスに注いで飲んでみたが、やはりグラスで飲んだ方が「ワインの味がする」と思えたのは、グラスがワインの香りを開かせたから? あるいは、ワインはグラスで飲むべきものというこちらの先入観が作用したのだろうか?

缶ワインは「屋外」や「昼間」が似合う

缶ワインについてはまだまだ興味深い話がある。が、続きは次回ということにしよう。

ワインの海は深く広い‥‥。

Photo by Yasuyuki Ukita
Special thanks to De Haan Altes、株式会社モトックス

浮田泰幸
うきた・やすゆき。ワイン・ジャーナリスト/ライター。広く国内外を取材し、雑誌・新聞・ウェブサイト等に寄稿。これまでに訪問したワイナリーは600軒以上に及ぶ。世界のワイン産地の魅力を多角的に紹介するトーク・イベント「wine&trip」を主催。著書に『憧れのボルドーへ』(AERA Mook)等がある。

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