こどもの週末

動物写真家・岩合光昭、南米の大湿原「パンタナール」の生態を活写 ジャガー、カピバラ…生命の輝きがまぶしい

カピバラとウシタイランチョウ(C)MitsuakiIwago

「パンタナール」を知ったのは1985年 “ナショジオ”の編集者の一言がきっかけ 開催前日に行われた内覧会で、岩合さんは、パンタナールでの撮影の苦労や楽しさを振り返りました。岩合さんは、テレビ番組の反響もあって、「ネコの写…

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岩合光昭(いわごう・みつあき)さん(71)は、NHKBSプレミアムの人気番組『岩合光昭の世界ネコ歩き』の出演でも知られる世界的に著名な動物写真家です。半世紀にも及ぶネコの撮影で一般的にはおなじみですが、もともとは野生動物を追い続けてきました。東京都写真美術館で6月4日から始まった「岩合光昭写真展PANTANAL パンタナール清流がつむぐ動物たちの大湿原」は、世界最大級の熱帯湿地で暮らす野生動物の生態に迫った貴重な記録です。“生命の輝き”がまぶしい写真展です。

展示室の入り口に立つ岩合光昭さん(堀晃和撮影)

世界自然遺産、多種多様な野生動物が生息する世界最大級の“生命の宝庫”

南米大陸中央部の「パンタナール」。この広大な湿原に生息する野生動物が、今回の写真展の被写体です。ジャガーやカピバラ、パラグアイカイマンなど、多種多様な野生動物の“一瞬”を切り取った作品102点が並んでいます。

パンタナールは、ブラジルを中心に、一部はボリビアとパラグアイにも広がっています。その広さは約19万5000平方kmで、日本の本州(約22万8000平方km)に匹敵するほど。雨季と乾季で自然環境が大きく変化し、雨季は総面積の80%以上が水没。約300種の哺乳類、約1000種の鳥類、約480種の爬虫類、約400種の魚類などが生息し、12種類もの生態系があって「世界屈指の生命の宝庫」とも呼ばれているそうです。

「パンタナール」とは、ポルトガル語の「沼地」に由来します。ブラジル内にある「パンタナール保全地域」(18万7817ヘクタール)は、4つの自然保護区からなり、世界自然遺産に登録されています。

パンタナールの位置と概要

この大湿原を、岩合さんは2015年から3年半にわたって5回も訪問し、野生動物の生態に迫りました。東京都写真美術館での個展は、2013年の「岩合光昭写真展 ネコライオン」以来2度目となります。

「パンタナール」を知ったのは1985年 “ナショジオ”の編集者の一言がきっかけ

開催前日に行われた内覧会で、岩合さんは、パンタナールでの撮影の苦労や楽しさを振り返りました。岩合さんは、テレビ番組の反響もあって、「ネコの写真家」としての知名度が高いようですが、原点は野生動物の撮影。1982年には、アフリカ・タンザニアに一家で移住し、セレンゲティ国立公園の野生動物を1年半以上にわたって撮り続けました。その充実の日々は、1984年の写真集『セレンゲティ アフリカの動物王国』に結実、高い評価を得ました。

パンタナールをとらえた数々の写真も、同様に長い期間と労力を費やした渾身の作品です。岩合さんは、「今はもうすっかり“ネコの写真家”になってしまったんですけど(笑)。本来はそんなことないんです。82年から84年まで、アフリカ・タンザニアにあるセレンゲティ国立公園で1年9カ月を過ごして、本当に毎日、写真を撮っていたんです。それを発表した時に、(世界各国で刊行されているビジュアル雑誌の)『ナショナルジオグラフィック』で、表紙を含めて47ページの特集をしてもらったんですけど、それがすごい評判になって、表紙の写真をプリントしてくれという注文が、世界中から毎日エアメールで僕の事務所に200通ずつぐらい来たんですね。その時は、個人の方にプリントするということはなかったんで、今あれに応えていたら、きっと岩合ビルが建ってたんじゃないかなと思うんですけど」とユーモアを交えて振り返り、今回のパンタナールを撮るきっかけについても、明かしてくれました。

内覧会で挨拶し、自作について語った岩合光昭さん(堀晃和撮影)

「ジオグラフィックの編集者が僕の友達で、『次に世界のどこをやるんだ(撮るんだ)』と聞かれたんです。僕はオーストラリアを考えていたんですけど、彼は『パンタナールはどうか?』と。その時は、1985年だったんですけど、初めて『パンタナール』という言葉を聞いたんです」

岩合さんが続けます。「パンタナールは湿地帯で、1年の半分は洪水状態。だからこそ、人の手の及ばないところで、自然が保たれている。野生動物たちも、人の開発が加わっていないところで暮らしている。そういうところは、僕は、アフリカのセレンゲティが、一番だと思っていたんですけど、あ、ここにも、世界一に匹敵するところがあると、思ったんです」

寝転んだジャガーを撮って、心の中で小躍り

今回展示された写真は、どれも迫力のあるものばかり。そして、野生動物との距離の近さに、驚きます。

「住民が狩りをするアマゾンと違い、パンタナールは、お尻をたたけそうな距離まで動物に寄れるんです」。確かに、写真展のメインビジュアルに選ばれた「ジャガー」の写真は、川べりでゴロンと仰向けに寝転んだ構図で、人間への警戒心があまりない様子が伝わってきます。

岩合さんはこのジャガーについて「あれは、恐らく、世界で僕しか撮っていないと思うんです。5m足らずのボートの上からだったんで、やったあ!と叫ぶと川の中に落ちちゃうんで(笑)。でも、心の中では小躍りしたいぐらいの気持ちでしたね」と、撮影時のエピソードを説明してくれました。

野生動物の生態に迫った102点の写真が並ぶ。中央に見えるのが、寝転んだジャガー

やはり、ジャガーが被写体として、特に惹かれたようです。挨拶後の質疑では、「ジャガーを見ると、シャッターを押してたんですね。もう要らないよと思う時でも、気が付くとシャッターを押していた。ジャガーが動くたびにシャッターを切っていたみたいな(笑)。ジャガーに会えない日は、カピバラを撮っていたり、源流の透明な水のところで魚を撮っていたり」と、ジャガーへの愛情をたっぷりと話してくれました。

野生の厳しさを伝える瞬間をとらえたものもありますが、多くの写真からは、野生動物の日常を楽しむ様子が伝わってきます。撮影では、野生動物に対して自身が危険を感じる状況にはならなかったそうです。

「パンタナールは、人生が変わるぐらいの衝撃を受ける場所。それを少しでも、この写真展で、野生の大自然を感じてもらえると、写真家冥利に尽きます」。こう岩合さんは、来場を呼びかけています。

文/堀晃和

カピバラとウシタイランチョウ(C)MitsuakiIwago カピバラの鼻息で、ウシタイランチョウがとばされているのではなく、鼻の上におりようとした瞬間だという

【関連イベント】
「岩合光昭スペシャルトーク」
6月25日(土)11時と14時の2回。会場は、東京都写真美術館1階ホール。各回定員150人で当日先着順。無料。各回ともに、当日10時から1階総合受付で整理券を配布。整理券は各回どちらかを選択、1人2枚まで。※スペシャルトーク終了後に、会場で写真集を購入した人を対象に、サイン会を実施(1人3冊まで)。

「岩合光昭写真展PANTANAL パンタナール清流がつむぐ動物たちの大湿原」の情報

会期:2022年6月4日(土)~7月10日(火)の 32日間
会場:東京都写真美術館地下1階展示室  東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話:03-3280-0099
開館時間:10時~18時(木・金は20時まで)入館は閉館30分前まで
休館日:毎週月曜
観覧料:一般800円、学生640円、中高生・65歳以上400円
※小学生以下及び都内在住・在学の中学生、障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料
※オンラインによる日時指定予約を推奨。詳細はホームページ等をご参照ください
www.topmuseum.jp

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