花粉症の思わぬメリット 毎回、仕事終わりには反省ノートに仕事の反省を書くのだけれど、こういう日は反省もしようがない。 この日の反省ノートには、花粉が酷くて特になし、としか書けなかった。 踏んだり蹴ったりだ。 この内容では…
画像ギャラリーお笑いコンビ「ティモンディ」前田裕太さんの、「目指せ、理想の大人」をメインテーマに掲げた連載コラム。30代に突入した前田さんが「大人」を目指して過ごす日々を、食・趣味・仕事など様々な視点で綴ってくださいます。連載は、第1・3木曜日に更新です。「(理想の)大人ってなんだろう?」を一緒に考えながら、前田さんの成長を見守りましょう!
新年度を迎える人も多い4月ですが、前田さんにとっては、花粉症との戦いの季節。毎年この時期を、注射やら薬やらでなんとか生き抜いてきた前田さんは、ついに「春に花粉症に苦しむメリット」を見つけたようです。
静まれ、スギの木の怒り
4月に入り、新年度を迎えた。
新年度と聞くと心機一転、胸躍らせるピカピカの季節だと思いがちだ。
私からしたら、まだまだ花粉が跳梁跋扈する季節、花粉症の人間は厳しい戦いを強いられる時期なのだ。
特に、20年以上スギ花粉と長年闘ってきた筋金入りの花粉バトラーである私は、ありとあらゆる対策を講じて毎回この季節をギリギリで乗り切ることになる。
飲み薬、点眼薬に点鼻薬と身体にありとあらゆる抗炎症作用の薬剤を投与し、この季節が過ぎ去るのをじっと耐えるのだ。
ただ、飲み薬はしんどい。
なんだか頭はぼーっとするし(副作用だと勝手に思っているだけで、普段から頭の回転が遅いだけなのかもしれないけれど)喉もすぐ乾く。
最近ではブロック注射といって、交感神経に作用して刺激の電導をブロックする花粉症治療もある。
花粉症の酷い友人から「一発打てば楽になる」だなんて危険薬物のような口コミを耳にして、そんなに効くならやってみようか、と私もブロック注射を打ってきた。
確かに症状は緩和されるのだけれど、残念ながらムズムズがゼロにはならない。
今年も酷い有様だ。
実際には、昔大量に植林されたスギが伐採されずに残り、それに地球温暖化などの要素が絡んだことがこの花粉の原因だと言われているのだが、私には、人類が木々を伐採しすぎた結果、切られた木々達が人間への復讐として猛威を振っているとしか思えない。
スギの恨みを買った人類は、毎年この季節に沢山の涙を流すことになっている。
それに対して声高らかに「花粉が酷いからスギの木を伐採しろ!」と叫ぶ自分を鑑みると、きっと世の中から戦争がなくならないのはこういう理屈なんだろうなあと思う。
なんとかして人類はスギの木と手を取り合えないものだろうか。
世界平和まではまだ遠い。
他の花粉ソルジャー達よ、春を生きて乗り越えたらまた会おう。
ロケ地はまさかの「敵陣ど真ん中」
仕事で言うと、我々ティモンディは今年の新年度から幼少期に見ていたNHK Eテレの教育番組、天才てれびくんのメインMCをやらせてもらうことになった。
毎年色々な仕事をいただいているのだけれど、歴史ある番組のバトンが我々に回ってきて光栄な大役を任せていただいたと思う。
身の丈に合わないと思ってしまうほど歴代のメインMCたちは豪華な方々で、挙げ出したら枚挙にいとまが無い。
その流れの中に自分達の名前が入ってくると思うと、必要以上に考えてしまう。
果たして私に務まるのだろうか。
足りない能力を分かっているからこそ悩む時間も増えるのだけれど、そこら辺は慣れと努力でどうにかしていくしかない。
春の夜に、あれこれ考えながら公園を歩き回り、悩みながら頭を整理させていく。
けれど、そんな仕事に対して向き合っている時間に水を差すように、いかなる時も苛烈極まる花粉攻撃はやってくる。
考えがまとまる前に、眼球を一回取り外して綺麗に洗ってから入れ直したいくらい痒くなるし、鼻はグズグズ、くしゃみも止まらなくなっていった。
とんでもないストレスだ。
天才てれびくんでは、スタジオで収録することが多いのだけれど、たまに外でロケをすることもある。
実際、もう放送は終わったのだけれど、外で身体を動かすロケもあった。
その外ロケの時は、身体を動かして、天才てれびくんに出ているメンバー全員と仲良くなろうという趣旨だったのだけれど、そのロケ地が、オンエアを見てもらった人には分かるかもしれないけれど、まさかのスギの木が鬱蒼と生い茂る森の中だった。
なんでわざわざこんな所で……。
深夜の都内で練り歩く時に感じる痒みなんて比にならないくらい、花粉の本拠地である森の中での症状は辛かった。
カメラが止まっている時は、極力マスクをして目を瞑り、体内に花粉が流入するのを防いだ。
それでも、目は掻きむしりたくなるほど痒く、鼻は粘膜がやられて通らなくなっている。
このままでは仕事にもならない、と、強めの飲み薬をこっそり飲む。
薬剤のおかげで一気に炎症は治って、目も鼻も楽になる。
けれど、次は副作用で頭がぼーっとしてくる。
思考が鈍くなり、語彙の引き出しが開かなくなってしまう。
なんとかロケを終えたのだけれど、その日は副作用の影響で、一日中頭の回転が鈍く、薄くモヤがかかった状態だった。
花粉症の思わぬメリット
毎回、仕事終わりには反省ノートに仕事の反省を書くのだけれど、こういう日は反省もしようがない。
この日の反省ノートには、花粉が酷くて特になし、としか書けなかった。
踏んだり蹴ったりだ。
この内容では、課題も見つからなければ、自身の技術の向上も見込めない。反省点がない仕事なんて、何も自分の糧にならないではないか!
その一方で、今までの自分は仕事に対しては特に、考えすぎてしまう傾向がある。
仕事終わりに、あまり反省しないのはいつぶりだろうか。
毎度毎度、失敗を書き上げて、同じような改善点ばかりが炙り出されるというのに、律儀に毎回反省する必要もあるのだろうか。
もはや日課となってしまっているので、今更反省ノートをつけることをやめることはないけれど、反省なし、と書く日があったって別にいいではないか、と思う自分もいる。
特に精神衛生が悪い時は、これくらい、開き直って、なし!と書けるようになった方が、自分で自分を追い込むことも少なくなる気がする。
これは、何か悩みそうになった時は、花粉症の薬を飲んで、頭をぼーっとさせる必要があるな。いやはや、よもや副作用の方に魅力を感じて薬を飲もうと思うことがあるとは。
新年度は新しい環境に身を置く人も多いだろう。
花粉症ではなくとも、新天地で過ごす最初の春は、これくらいぼーっと過ごして頭を空っぽに過ごすくらいが精神的にも丁度いいのではないだろうか。
私の場合は新天地に身を置いた訳ではないけれど、それでも心機一転、頑張るぞと気合いを入れ直すのには新年度には良い機会である。
私のような“精神過敏”である重症者まではいかなくとも、色々と考えすぎてしまうような諸兄姉には、新年度を迎える春をぼーっと能天気に過ごすことをお勧めする。
少なくとも、精神的に安定させる効用で花粉症の薬が出されている訳ではないから、アレルギー反応もないのに花粉症の薬を飲むつもりはないのだけれど、時折、これくらいぼーっとした方が健やかに過ごせるということはわかった。
新年度を迎えるたび、花粉症を抑えると共に、頭をぼーっとさせるために抗アレルギー薬を飲もうと思う。
用法、用量は守るつもりなので、ご心配なく。
前田裕太(まえだ ゆうた)
1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。愛媛県の名門、済美高校野球部の同期である高岸宏行とのお笑いコンビ「ティモンディ」のツッコミ担当。趣味はサッカー観戦、読書。テレビ番組で画力を披露したり、複数メディアでコラムを執筆するなど、マルチな活動で注目を浴びている。
ティモンディ
高岸宏行・前田裕太によるお笑いコンビ。コンビ結成は2015年、グレープカンパニー所属。高岸のポジティブなキャラクターや、二人の野球経験と身体能力などがバラエティ番組で引っ張りだこに。コンビの野球経験をいかしたYouTubeチャンネル『ティモンディチャンネル』の登録者数は約28万人。