知能を支える3つの要素「論理力」「言語力」そして「熱意・やる気」 脳研究者の池谷裕二氏によれば、知能を支える3つの要素は、「論理力」「言語力」「熱意・やる気」だそうです。そしてその中で最も大事なのが「熱意・やる気」だと言…
画像ギャラリー短期連載「逆転合格!中学受験」の第2回は、志望校の選択について考えます。多くの受験生を個別指導してきた三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治氏が最も伝えたいポイントとは―――。
“やる気スイッチ”の入らない子ども
「やる気スイッチ」という言葉がありますが、晩秋ともなり、次第に入試が現実感を伴って迫って来ると、自然とスイッチが入る受験生が増えてきます。しかし、中にはなかなかスイッチの入らない子どもさん、あるいは親御さんからすればもっと奮起して欲しいと思わせる子どもさんもいらっしゃることでしょう。
このような時、以前ある受験生のお母さんが口にされた有名なイギリスのことわざを思い出します。
「馬を水辺に連れて行くことは出来ても、(無理に)水を飲ませることは出来ない」
(You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.)
これは、やる気スイッチの入らない子どもさんを持つ親御さんにとって、非常に示唆に富むことわざです。
なかなか水を飲まない馬に対し、もし飼い主が癇癪を起して、無理に馬の頭を押さえて水を飲ませようとしたらどうなるでしょうか。馬は必死に抵抗し、ますます水を飲ませることは困難になることでしょう。そうなると、もともと馬のためだったはずの行動が、思いとは裏腹の結末になりかねません。望ましいのは、馬が水を飲みたくなるような手立てをとるか、馬が自ら水を飲み出すのをじっと待つことです。
もちろん、子どもと馬とは違います。子どもとは話し合いが出来ます。子どもなりの分別もあります。しかし、子どもの意志より親御さんの気持ちが先行し過ぎてしまうと、結果的に悪い方向へ転ぶケースもあることを理解しておく必要があります。
プレッシャーを与える…「脳にブレーキ」
学力が足りないことなどを理由に、子どもにプレッシャーを与えることで勉強させるのは避けた方が良いと思います。そうしたくなる気持ちは分からないではありませんが、それは脳の活動を低下させ、逆にブレーキとなるのです。
この時期になってもなかなかスイッチが入らないとしたら、それは子どもさんの心が燃えていないからではないでしょうか。その場合は、無理に逆転合格を目指すのはお勧めできません。合格可能性の高い学校を探すか、受験を考え直すのも一つの選択肢です。それは決して敗北ではありません。まだ時期ではなかったというだけのことです。
ちなみに前述のことわざを口にされたお母さんは、子どもに対し過干渉することはありませんでした。結果的に、高校1年時にはまったく勉強の習慣のなかった息子さんが、現役で国立大学に合格しました。
第1志望は子どもの心が燃える学校を
考えは人それぞれでしょうが、何でも子ども自身の意志を尊重するのが良いとは私自身は考えていません。自分自身を顧みても、人間は楽な方に流れがちですし、まだ年端もいかない子どもに、先々を見据えた賢明な選択が出来るかと言うと、それはおぼつかないことが多いことでしょう。やりたいことばかりやっていればわがままにもなります。自分が嫌なことでも引き受けて、それを乗り越える強さを養うことも必要だと思います。
ただし、受験に向けて学力を上げるということにフォーカスした場合、もっとも大事なのは、「絶対合格したい!」という子どもの強い熱意、気迫です。そのためには、第1志望は「ここに行きたい」という子供の意志を尊重するのが一番だと私は考えます。仮に、「不合格確実」と思えるような超チャレンジ校であってもです。「誰かほかの人の意志」では、真の踏ん張りは出てきません。結果的に合格できなかったとしても、それが子供の心を奮い立たせ、驚異的な伸びの原動力となります。合格を主眼とするのは第2、第3志望でいいのです。
知能を支える3つの要素「論理力」「言語力」そして「熱意・やる気」
脳研究者の池谷裕二氏によれば、知能を支える3つの要素は、「論理力」「言語力」「熱意・やる気」だそうです。そしてその中で最も大事なのが「熱意・やる気」だと言います。熱意が脳を活性化させ、理解力・記憶力なども数割アップするそうです。実際、受験前2、3ヶ月間のやる気スイッチの入った受験生の驚異的な伸びには目を見張るものがあります。
「偏差値10差を逆転合格」(これを「大逆転」と呼ぶことにします)などというと、そんなことはあり得ないという声が必ず上がりますが、それはこの「熱意」という見えない(偏差値に表れない)学力に対する理解不足からであり、根拠のない批判です。偏差値60後半ぐらいの上位校でも、大逆転が実際に数%程度起こっていることは、模試のデータを見てみれば明らかです。数%というとかなり低いように思われるかもしれませんが、それはチャレンジする人がかなり少ないことも影響しています。
1校は合格を目指す学校を
「行きたい学校を第1志望とするのが一番」と述べましたが、それは「チャレンジしてでも行きたい学校がある場合には、恐れず挑戦した方が総合的には良い効果をもたらすことが多い」という意味であり、すべての子どもさんが同じである訳ではありません。どうしてもここという学校がある訳ではないが、先々のことを考えて、中高一貫校や大学の付属校を目指しているという生徒さんもいることでしょう。その場合は、合格の可能性が高い学校が第1候補となります。目指す方向によって、どのような学校を第1志望とするかはそれぞれです。
ただ、方向性がどうであれ、少なくとも1校は合格を勝ち取ることを目指した方が良いと思います。もし受験した学校すべてに不合格となってしまうと、そのときのショックや自信喪失は計り知れないからです。仮に進学しないとしても、成功体験があった方が、次のチャレンジ(高校受験や大学受験)での心のよりどころとなります。
また、現実問題として、周囲からの影響も考えなければなりません。学校の友達から心無い誹謗中傷を受けないとも限らないからです。最悪の場合は、子どもの心に傷を残すことにもなりかねません。
受験生は余裕がありませんので、親御さんの方で、塾の先生などに相談したり、情報収集をして、第2、第3志望、あるいはお試し受験(本命の前に練習として受ける入試)で1校でも合格できるようサポートすることが望まれます。
埼玉の栄東中学は出願者1万人超えの日本一
志望校を選択する上で、居住の都道府県だけでなく、近県や遠い地域での受験を考える方もいらっしゃることと思います。参考までに、全国の主要校の入試日程を掲載しておきます。
東京都では、私立中学の入試解禁日は2月1日となっており、主要な難関私立中学校の入試は2月1日午前に一斉に行われます。その他の多くの私立中学校の入試が、2月1日~5日にかけて集中的に行われます。また、東京都の国公立校の入試日は2月3日です。
千葉県や埼玉県の私立中学の入試解禁は1月となっているため、東京在住の受験生の併願も多く、埼玉県の栄東中学は、なんと出願数が1万人を超え、日本一の数を誇っています。
関西圏では、統一入試日(入試解禁日)は例年1月の第2土曜日となっており、2024年度は1月13日です。
志望校の決定が遅くなればなるほど、「逆転合格」は遠のく
志望校については、願書提出の直前まで悩まれるケースもありますが、少なくとも第1志望については、出来るだけ早めに決定することをおすすめします。理由は明白で、それだけ早く志望校対策を始めることが出来るからです。志望校が定まらないということは、ゴールが定まらないということです。定まったゴールに向かって走るのと、ゴールが不明確なまま周囲に流される形で走るのとでは、勉強に対する熱の入り方、勉強のやり方、ひいては結果がまるで違ってきます。
したがって、逆転合格を目指すなら、出来るだけ早く志望校を決定することです。志望校の決定が遅くなればなるほど、逆転合格の可能性も低くなってきます。第2志望、第3志望はぎりぎりまで検討しても構いませんが、逆転合格を目指すなら、第一志望については出来るだけ早めに絞り込むのが良いでしょう。
圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。