短期連載「逆転合格!中学受験」の第2回は、志望校の選択について考えます。多くの受験生を個別指導してきた三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治氏が最も伝えたいポイントとは―――。
“やる気スイッチ”の入らない子ども
「やる気スイッチ」という言葉がありますが、晩秋ともなり、次第に入試が現実感を伴って迫って来ると、自然とスイッチが入る受験生が増えてきます。しかし、中にはなかなかスイッチの入らない子どもさん、あるいは親御さんからすればもっと奮起して欲しいと思わせる子どもさんもいらっしゃることでしょう。
このような時、以前ある受験生のお母さんが口にされた有名なイギリスのことわざを思い出します。
「馬を水辺に連れて行くことは出来ても、(無理に)水を飲ませることは出来ない」
(You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.)
これは、やる気スイッチの入らない子どもさんを持つ親御さんにとって、非常に示唆に富むことわざです。
なかなか水を飲まない馬に対し、もし飼い主が癇癪を起して、無理に馬の頭を押さえて水を飲ませようとしたらどうなるでしょうか。馬は必死に抵抗し、ますます水を飲ませることは困難になることでしょう。そうなると、もともと馬のためだったはずの行動が、思いとは裏腹の結末になりかねません。望ましいのは、馬が水を飲みたくなるような手立てをとるか、馬が自ら水を飲み出すのをじっと待つことです。
もちろん、子どもと馬とは違います。子どもとは話し合いが出来ます。子どもなりの分別もあります。しかし、子どもの意志より親御さんの気持ちが先行し過ぎてしまうと、結果的に悪い方向へ転ぶケースもあることを理解しておく必要があります。
プレッシャーを与える…「脳にブレーキ」
学力が足りないことなどを理由に、子どもにプレッシャーを与えることで勉強させるのは避けた方が良いと思います。そうしたくなる気持ちは分からないではありませんが、それは脳の活動を低下させ、逆にブレーキとなるのです。
この時期になってもなかなかスイッチが入らないとしたら、それは子どもさんの心が燃えていないからではないでしょうか。その場合は、無理に逆転合格を目指すのはお勧めできません。合格可能性の高い学校を探すか、受験を考え直すのも一つの選択肢です。それは決して敗北ではありません。まだ時期ではなかったというだけのことです。
ちなみに前述のことわざを口にされたお母さんは、子どもに対し過干渉することはありませんでした。結果的に、高校1年時にはまったく勉強の習慣のなかった息子さんが、現役で国立大学に合格しました。
第1志望は子どもの心が燃える学校を
考えは人それぞれでしょうが、何でも子ども自身の意志を尊重するのが良いとは私自身は考えていません。自分自身を顧みても、人間は楽な方に流れがちですし、まだ年端もいかない子どもに、先々を見据えた賢明な選択が出来るかと言うと、それはおぼつかないことが多いことでしょう。やりたいことばかりやっていればわがままにもなります。自分が嫌なことでも引き受けて、それを乗り越える強さを養うことも必要だと思います。
ただし、受験に向けて学力を上げるということにフォーカスした場合、もっとも大事なのは、「絶対合格したい!」という子どもの強い熱意、気迫です。そのためには、第1志望は「ここに行きたい」という子供の意志を尊重するのが一番だと私は考えます。仮に、「不合格確実」と思えるような超チャレンジ校であってもです。「誰かほかの人の意志」では、真の踏ん張りは出てきません。結果的に合格できなかったとしても、それが子供の心を奮い立たせ、驚異的な伸びの原動力となります。合格を主眼とするのは第2、第3志望でいいのです。