短期連載「逆転合格!中学受験」の第3回は、「偏差値」に対する考察です。そもそも、どんな数値なのか。多くの受験生を個別指導してきた三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治氏の考えは、「合否の予測でそれほど重視していない」です。
麻布中学の独特な試験問題
東京の難関私立「麻布中学」は自由な校風で有名ですが、試験問題も独特です。たとえば国語は、例年物語文が1題のみ出題されます。そしてそのほとんどが字数制限なしの記述問題です。ほかの科目も、よく見られる一般的なものとは一味違った試験問題となっています。
数年前の受験生A君は、麻布中学への対策を徹底的に行いました。最後の模試では50%偏差値(2人に1人が受かるとされる偏差値)まで10ほど足りていませんでしたが、約1カ月の猛勉強で、見事逆転合格を果たしました。
一般に偏差値の合格ラインが高い学校ほど逆転合格は起こりにくいと考えられています。しかし、偏差値が高くても、試験問題が独特な場合は、偏差値通りにならないケースが増えてきます。
偏差値で何が分かるのか
偏差値とは、平均点からの散らばり具合(分布状況)を考慮して算出される数値です。その計算式を図示します。平均点の場合が偏差値50で、計算上は100以上になることも、0以下になることもあり得ます。
偏差値50±10以内(40~60)に、全体の約68%が含まれると考えられます。したがって、偏差値60以上/40以下は、それぞれ上位16%以内/下位16%以内となります。偏差値70以上だと上位2.5%以内となります。このように、偏差値は「全体の中での位置(順位)」を示す目安と考えることができます。したがって成績評価や合否判定に有効です。
“御三家”の偏差値も、模試で大きな開きがある
しかし、闇雲に偏差値を重視するのはいただけません。なぜなら、偏差値は母集団と試験内容によって大きく変わってくるからです。
たとえば首都圏では、中学受験のための公開模試は、大手塾(SAPIX、四谷大塚、日能研)が主催する模試と、首都圏模試の4つがメジャーです。男子御三家(開成・麻布・武蔵)と女子御三家(桜蔭・女子学院・雙葉)の80%偏差値(80%が合格すると予想される偏差値)を比較すると、同一校に対する偏差値が、模試によって10~17もの開きがあることが分かります。学校ごとに受ける実際の入試は、模試とは母集団が異なりますし、入試問題の内容やレベルも各校それぞれで模試とは異なります。これが模試の偏差値だけを鵜呑みに出来ない理由です。
志望校の個別情報が重要
もちろん、模試結果は学力レベルを示す一つの目安ですので、ある程度参考になることは事実です。入試問題が、標準的な問題が多く出される学校や、偏差値50±10ぐらいの生徒が多く受ける学校の場合は、模試結果が実際の合否結果を反映することが多くなります。模試の問題のレベルや母集団を考慮して、偏差値を参考にする必要があります。
私自身は、合否を予測する際に、偏差値にそれほど重きは置いていません。それよりも、志望校の問題傾向とそれに対する生徒の相性、生徒個人の得意・不得意、現時点の学習状況、性格、受験までの伸びしろなど、生徒と志望校の個別の情報の方が、判断材料としては重要です。大事なのは志望校の入試問題でどれだけ得点できるかです。
もっともすぐれた合否判定法は?
模試の中で信頼性が高いのは、大手塾が主催する学校別模試です。問題内容も母集団(受験者)も、より実際の入試に近いからです。ただし学校別模試が実施されるのは、20校ほどの有名校だけです。
それ以上に信頼性の高い合否判定法は、実際に実施された入試問題(過去問)を解くことです。過去問は実際の合否結果と照らし合わせることが出来るからです。本物の問題と本物のデータ(合格者最低点や合格者平均)を使って、合格できる力が付いているかどうかを判定することが出来ます。
過去問を解くことで、合格可能性だけでなく、さまざまな有益な情報が得られ、合格のための方針を立てることが出来ます。逆転合格を目指す上でもっとも大事なのは、過去問演習です。今回はその取り組み方について説明します。