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塩、味噌、豚骨……さまざまなおいしさがあるが、DNAに刻まれた、食べ慣れた味だからだろうか。気がつけば醤油味をすする自分がいる。今の醤油ラーメンの原風景とでも言うべき老舗の、それも今なお楽しむことができる美味を紹介します。

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東京ラーメンの原風景『栄屋ミルクホール』@神田

2022年2月、あの東京ラーメンの老舗『栄屋ミルクホール』が神田で再開したとニュースで知った時、心から安堵した。それは昭和のエアポケットのような稀有な店が立ち退きで閉店してからわずか4か月後のことだった。

「実は神田で移転先が見つからなければ店を辞めようと思っていたんです。戦後からずっとこの街でやってきたからね。たまたま物件を紹介されて本当にラッキーでした」

『栄屋ミルクホール』の店内

店主の高橋栄治さんがホッとした表情で当時を振り返る。48歳の時に脱サラで家業を継いで27年。年齢のこともあるし、その選択肢も当然だろう。けれどこうも思う。長く愛される店というのは、危機の度に何か見えない力が動くのではないか。80年の歴史が宿る味が同じ神田で繋がれた小さな奇跡……醤油ラーメンの原風景のような一杯を前に、にわかに姿勢を正す。

それは“ザ”を連呼したくなる王道の姿だ。琥珀色の澄んだスープにチャーシュー、メンマ、長ねぎ、彩りの青菜。往年の映画女優のような控え目な美しさに胸の奥がきゅんと疼く。

ラーメン800円

『栄屋ミルクホール』ラーメン 800円 昔は海苔とナルトも乗っていたが、手に入らなくなり今のスタイルに。麺は「浅草開化楼」の中細ストレート

鶏ガラベースのスープは生ショウガの風味が効いた味で、麺は中細。特別な食材を使うわけじゃない。だからこそ郷愁という薬味も加わって体にスッと染み入る。

「懐かしいおいしさですね」。そう伝えると、高橋さんはくしゃっと笑った。

「今は豪華なトッピングも多いし、逆にあっさりした味がいいんだろうね。お客さんも言うんです。『これこれ、こういう味が食べたかったんだよ』って」

ミルクホールの名は牛乳やかき氷、丼物などを出していた創業時の店名の名残だ。戦前は日本蕎麦屋で、空襲で焼け出され、蕎麦の材料が手に入らなかったため1945年に甘味と軽食の食堂を始めた。ラーメンもその頃から。

「当時は専門店もないし、ラーメンを食べるならうちのような食堂か町中華か日本蕎麦屋。神田は小さな会社もたくさんあったから社員食堂のように使う人もいましたね」。

『栄屋ミルクホール』カレーライス 800円 ラーメンのスープを使うマイルドなカレーは豚肉と玉ねぎだけのシンプルな具。麺とセットで頼む人が多い
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昔から変わらない継承の味
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