半チャンラーメンの老舗『中華そば 伊峡』@神保町
つくづく家族経営のラーメン屋さんは大変な商売だと思う。『伊峡』の場合。まだ暗い早朝からスープを作り、営業を終えれば毎日ピカピカに厨房を掃除、さらに翌日の仕込みや準備……などなど。これらの作業を母と息子の基本ふたりで。真面目にやればやるほど仕事は尽きない。なのに。物価高騰の波が切実に押し寄せる昨今においてもラーメン一杯500円(取材時)。
安さに驚く私に「頑張れるだけこの値段でやりたいけど、ごめんね、年明けにそろそろ上げようかと考えてるの」。女将の沢木佳代子さんが申し訳なさそうに手を合わせる。
いやいや、このご時世で値上げは当然、上げてください。地元になくてはならない店を、長く続けてもらうためにも。
「ラーメンは小銭で食べられるもの」。佳代子さんの夫で昨年亡くなった2代目の昭司さんがいつも口にしていた言葉だ。だから「安くて旨い味を」と初代から受け継いだ店を家族で踏ん張って守っている。
「ここは学生街だし、毎日の食事のことだから1杯900円や1000円なんて取れないの(笑)」。
たまに食の細い年配客が安い半チャーハンだけ注文することもあるそうだが、嫌な顔ひとつしない。むしろ太陽のように明るい笑顔で迎えてくれる。何て気持ちのいい女将さんなんだろう。
一方、3代目の大輔さんは超が付くほど真面目で仕事熱心。父の味を忠実に守り、すべての料理をひとりで作っている。大らかな接客の母、寡黙な職人の息子、家族の連携プレーが今の『伊峡』の魅力だ。