自家製麺の先駆者『らーめん天神下 大喜』@仲御徒町
当然のことだがラーメンは麺料理である。今や細麺、太麺、縮れ、あるいは手揉みに手打ち……スタイルも手法も百花繚乱。理想の一杯を完成させるため、こだわりのスープと同じく職人が大切にする要素が麺だろう。
さらに言えば日本のラーメンブームは麺の発展もあって加速したといっても過言ではないかもしれない。とりわけ画期的だったのは、製麺所に頼らず、粉の選択や配合、食感や風味まで独自に作り上げる自家製麺の進化ではないか。
その魅力を広めた先駆けの1軒が1999年の創業時から自家製麺を提供している『大喜』。業界最高のアワードで数々の賞を総なめにし、今なおラーメン界を牽引している屈指の名店である。この店に影響された人気店の店主も少なくない。
実は店主の武川数勇さんは割烹で約20年腕を磨いた和食の料理人だった。その彼がなぜラーメン職人に転身したのか。聞けばラーメンの食べ歩きが好きで、ある店の味に感動したことがきっかけだったそうだ。
店主の経歴で趣味が高じて店を出したことを知り「それでこんなに旨い味が作れるなら俺にもできる」と一念発起。実際やってみると「甘くみてた」と苦笑するが、数々のエピソードを知ればその実力にひれ伏すはず。テレビ番組のランキングで全国1位に輝いた時は数百人が大行列。近隣のクレームで整理券制にしたが、その券を求めてまた大行列。新聞記事になるほど話題をさらったとか。
自家製麺の挑戦の裏には意外な理由もあった。
「ある製麺屋に細かく注文を付けたら『どこの馬の骨ともわからないやつに作れるか』と言われて頭に来て(笑)。ならば自分で作るかと」。
事実は小説より奇なり。物事は何が幸いするかわからない。だって何くそと挑んだ自家製麺が『大喜』の特徴ともなったのだから。
「最初は思うような麺ができず、やってる内に1~2年で何とか。一時期は味ごとに5種を使い分けたりもしたけど、今は細麺と太麺だけ。ここ数年ですね、理想の麺が作れるようになったのは」