巨大満月が文化財建築に出現!昭和の竜宮城『ホテル雅叙園東京』で神秘的な月見体験をしてきた

平安時代から続く月見文化。9月の中秋の名月は見逃したという人も、今年は10月も魅力的な月見イベントが楽しめるので必見だ。日本画や美術工芸品に彩られたミュージアムホテル『ホテル雅叙園東京』では、2024年10月5日(土)から東京都指定有形文化財「百段階段」にて「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」を開催している。ここでは今と昔を行き来するような、幻想的な展示の見どころをレポートしていきたい。

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平安時代から続く月見文化。9月の中秋の名月は見逃したという人も、2024年はその後も魅力的な月見イベントが楽しめるので必見だ。日本画や美術工芸品に彩られたミュージアムホテル『ホテル雅叙園東京』(東京・下目黒)では、10月5日から東京都指定有形文化財「百段階段」で「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」を開催している。ここでは今と昔を行き来するような、幻想的な展示の見どころをレポートしていきたい。

“昭和の竜宮城”で楽しむ豪華絢爛な建築とアートのコラボレーション

月がモチーフの1200mmの和紙照明/高山 しげこ

本展示では「最後の浮世絵師」とも評された明治時代を代表する浮世絵師、月岡芳年(つきおか・よしとし、1839~92年)の月にちなんだモチーフを描いたシリーズ「月百姿(つきのひゃくし)」から20点を前後期に分けて展示する。加えて、現代アーティストによる今ならではの感性と技術を生かした月を題材にしたアートも次々と登場する。

明治を代表する浮世絵師、月岡芳年が描く多様な月の物語

その豪華絢爛な装飾から“昭和の竜宮城”とも呼ばれた『ホテル雅叙園東京』。展示の舞台となる文化財「百段階段」で入場することができる7つの部屋は、もともと宴が行われていた宴会場であり、天井や欄間には当時の著名な画家達による美の世界が描かれている。幽玄な月と芸術家が手掛けた優美な空間とのコラボレーションが楽しめるのは、このホテルの唯一無二の魅力だ。

約130年前の浮世絵に加え、作品を和紙に転写した形で展示されている「月百姿」

今回展示している「月百姿」シリーズは、政治家・浮世絵コレクターとして知られる斎藤文夫氏が蒐集した「斎藤文夫コレクション」の中から選び抜かれた20作品だ。月岡芳年の“晩年の集大成”ともいわれる全100枚からなるシリーズで、中国の逸話や歴史上の出来事、和歌などを題材に構成されている。大胆な構図と豊かな色彩が特徴的な芳年が47歳から54歳の間に描いた作品群である。

『月百姿 石山月』/月岡芳年

妖怪や幽霊、絶世の美女など、バラエティに富んだ作品はストーリー性が高く、いつまで見ていても飽きることがない。様々な時代の登場人物に加え、三日月に半月、満月、場合によっては月灯りだけなど、絵によって異なる月の表現を見比べることができる点も面白い。

浮世絵の風景が目の前に!“月とススキ”が登場

数ある作品の中でも特に注目は、四季の草花や雲に煙る松原の風景が描かれた「草丘の間」で鑑賞できるプロジェクションマッピング(実物に映像を投影する手法)だ。会場を埋め尽くす2000本以上のススキの上には、直径2mの満月が浮かび上がる。本作では「月百姿」で浮世絵に描かれた風景が、そのまま飛び出してきたような空間を再現している。

風にたなびく草原と空に浮かぶ月を堪能できる「草丘の間」

部屋に一歩足を踏み入れると虫の音が聞こえ、あたり一面に風が吹く。その風にススキがたなびき、巨大な月が徐々に表情を変えていく情景には思わず息を呑むはず。プロジェクションマッピングの終盤には、うさぎが月の中を駆けていくコミカルなシーンも・・・!ゲストは草原の中に入り、写真撮影することもできる。ここでしか撮影できない、幻想的な景色をカメラに収めよう。

まるで実際に草原で月見をしているような写真が撮影できる

山で美女と談笑した不思議な夜を、浮世絵と空間で表現

『月百姿 月明林下美人来』/月岡芳年
浮世絵の前には不思議な宴席が再現されている

「静水の間」では、主役の浮世絵である『月百姿 月明林下美人来』と空間の両方で作品の世界観を表現しているので、ぜひじっくり鑑賞してみてほしい。中国・隋に住む男・趙師雄が山で美しい女性と出会い、酒を飲みながら談笑するが、眠ってしまい目を覚ますと目の前には女性の代わりに梅の木があり、実は女性は梅の精だったという物語だ。背景となる「静水の間」の欄間には、日本画家の小山大月(こやま・たいげつ、1891~1946年)による金箔押地秋草(きんぱくおしじあきくさ)が描かれており、物語の情景とも非常にマッチしている。

現代の感性を生かした、若手の作家の作品も必見

『夜の礼拝ーWORSHIP OF THE NIGHTー』/伊藤 咲穂

日本画家の板倉星光(いたくら・せいこう、1895~1964年)による四季の草花が描かれた「星光の間」では、現代を生きるアーティストが手がけた、月をテーマにした作品と出合うことができる。特に目を引いたのは、錆和紙作家の伊藤咲穂(いとう・さくほ)の作品『夜の礼拝』だ。

子供の頃、真っ暗な道を歩きながら月と話をしていたという伊藤。本作では月のエネルギーが人間と呼吸し合い、融合している姿や月から生まれる水により、芽吹いた花などを独自の和紙手法で表現している。画面上に月の姿を見ることはできないが、そこから満ち溢れる神秘的なパワーを、作品を通じて感じ取ることができるだろう。

「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」の入口

因みに会場に着物で来館したゲストは入場料が200円割引になるほか、ホテル内の月のアートをモチーフにしたポストカードをプレゼントしているそうだ。(当日会場受付でチケット購入の場合のみ)週末は日本美を堪能できる『ホテル雅叙園東京』で、粋な月見を楽しんでみては。

「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」

[期間]2024年10月5日(土)~12月1日(日)※11月5日(火)は展示替のため休館
[営業時間]11時~18時(最終入館17時半)
[住所]東京都目黒区下目黒1-8-1 ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
[料金]一般1600円、大学生・高校生1000円、中学生・小学生800円※未就学児無料、学生は要学生証呈示
[チケット販売]ホテル雅叙園東京(一般入場券)、公式オンラインチケット(一般入場券、グッズ付)

文・写真/中村友美

フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験後、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り

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