坂と小道が入り組んで歴史と先進、相まみえる。そんな迷宮・神楽坂は心ときめく発見潜む、さまよう誰もを虜にする街。
画像ギャラリー坂と小道が入り組んで歴史と先進、相まみえる。そんな迷宮・神楽坂は心ときめく発見潜む、さまよう誰もを虜にする街。
“さまよう快感”の街・神楽坂
街を歩く楽しみのひとつに“さまよう快感”というものがある。どこに行くという目的も持たず歩いているうちに、今自分はどこにいるのか?さてここからどう歩こうか?方向感覚もかすかになくなり、ええい、もう気の赴くまま歩くだけよ!と、世間のしがらみからも開放されたかのような心地で街を歩き、思いもかけない新しい発見に次々出会っていく快感。
もちろん、治安の保証された地域でなければ、きわめて危なっかしい快感ではあるけれど、神楽坂ほど、このさまよう快感をもたらしてくれる街、ちょっと他にはない。
目抜き通りの「神楽坂」の両翼に広がる神楽坂町には、否が応にも人を気持ちよくさまよわせてくれる小道が迷宮のようにひしめき合っているのだ。ちなみに「さまよう」は漢字で「さ迷う」とも「彷徨う」とも書く。なんとも憎い漢字使いであるが、それはまた別の話。
そんな神楽坂周辺の小道の多くには、それぞれ気の利いた、趣のある名前がついている。有名処の名を挙げれば、「本多横丁」「兵庫横丁」「見番横丁」「かくれんぼ横丁」ときて「神楽小路」「芸者新道」。
それだけじゃない。「軽子坂」「地蔵坂」「庚嶺坂(ゆれいざか)」に「熱海湯階段」といった、ちょっとした上下移動も伴う坂や階段も加わり、“立体迷宮”の趣。通りの名前に趣があれば、通りの風情には、それ以上の趣。
敷居の高そうな門構えの料亭があるかと思えば、そのすぐ横には若い層をターゲットにしたバーの喧騒が渦巻き、その隣には小さな神社の祠が路面に現れる。その先を見れば庶民的な中華料理店。
夜ともなれば、いくつも並んだ路地行灯が薄暗い路地を照らし、その光に艶やかに反射する粋な黒塀、そして犬矢来。
一歩歩くごとに、なにやら探偵が新しい物証でも見つけたかのようなドキドキ感が内から沸き上がる。神楽坂は探偵気分をも高揚させてくれるのだ。これこそが、街を彷徨う快感の真骨頂。
そんな神楽坂でも、特にオススメしたい彷徨う探偵気分の快感を満喫できる場所が「かくれんぼ横丁」だ。
石畳にいろんなマークが!
袋小路に鉤の手。彷徨わせるために道を引いたかのような石畳の横丁なのだが、この石畳の石の中に、「ハート型の石」「星型の刻まれた石」「ダイヤマークの刻まれた石」という3つの小さな石が隠れ潜んでいるのだった。
ハートを見つければ恋愛運。星型は出世運。ダイヤは金運が上昇するそうですが、いや~これがなかなか見つからない。全部見つけるには、最低でも1時間はかかるかもしれない。しかし、見つけた時は、それこそ快感。アドレナリンが一気に分泌されることを保証します。
運といえば。神楽坂には神社仏閣も多い。
目抜き通りの神楽坂に鎮座する毘沙門天で有名な「善国寺」。創建400年を越えるこの古刹の境内で目を引くのがその狛犬。よく見る狛犬とは明らかに動物の種類が違うのである。
普通の狛犬は犬といっても獅子がモデルですが、善国寺の狛犬は「石寅」と呼ばれ、なんと寅がモチーフ。毘沙門天は寅の年、寅の月、寅の日、寅の刻にこの世にお出ましになったことが由来。必見。
場所は神楽坂とは飯田橋駅を挟んだ反対側ですが、大正天皇が結婚式を挙げられ、一般的な神前結婚式を創始。恋愛成就のご利益があることで知られるのが「東京大神宮」。東京大神宮で、探偵的目線で見つけたいのが、社のそこらかしこに潜む「猪目」と呼ばれる文様。
猪の目を模した日本独自の意匠なのだが、これがハートマークと偶然にも完全一致した形状。恋愛成就の兆候は境内にあふれているのだ!かくれんぼ横丁のハートといい、東京大神宮の猪目といい、神楽坂は、恋の街でもあるかもしれない。
それも当然。神楽坂を走る小道は文字通り幅が狭い。袖すり合うも多少の縁な出会いが多発せざるをえないのだ。すでに知り合いだというふたりも、狭い小道を行くならば、必然的に距離を阻めなければ歩けないのである。
彷徨って、たどり着いた先に待つは恋の成就。ああ、その幸せを祝福する神楽の音色が聞こえてきそうだ。
撮影/浅沼ノア、文/カーツさとう
※2024年11月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。
…つづく「神楽坂で愛される珠玉の名店3選」