ー”の旅」。第43回の今回は、岐阜県岐阜市内へ。チャーラーを検索したところ出合ったある1枚の写真に一目惚れ。「ジャケ食い」してきました。
画像ギャラリーチャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介する「ニッポン“チャーラー”の旅」。第43回の今回は、岐阜県岐阜市内へ。チャーラーを検索したところ出合ったある1枚の写真に一目惚れ。「ジャケ食い」してきました。
減少中のチャーラー提供店、その理由とは
昔と比べて、ランチでチャーラーを出す店は少なくなっていると思う。ラーメンはともかく、チャーハンは手間がかかるのだ。それよりも餃子や唐揚げとライスのセットの方がよほど楽なのである。餃子は焼台に、唐揚げはフライヤーにセットしたらでき上がりまで放置できるが、チャーハンはそうはいかない。
コンロの前で付きっきりで調理せねばならないので、忙しいときに連続して注文が入ると他の作業ができなくなるのだ。チャーハンは原価率が低いので、売り上げに貢献するとわかっていても、かかる手間を考えるとやめたくなる気持ちもわからなくはない。
お店の方にとっては耳の痛くなる話だが、調理のオペレーションがうまくいかなかったのか、ラーメンを半分以上食べてからチャーハンが運ばれてくることも少なくはない。そうなるとチャーラーの意味をなさなくなる。
写真をひと目見て食べたくなるのが「ジャケ食い」
さて、この日は昼すぎから岐阜市内で取材・撮影。その前に腹ごしらえしようと思い、グルメ情報サイトでチャーラーを検索していた。すると、ある店のチャーラーの写真に目が釘付けになり、ここへ食べに行こうと思い、カーナビに住所を入れて出発した。「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ食い」である(笑)。
その店は、JR東海道線西岐阜駅から車で約10分、岐阜市菅生6丁目にある『新海楼 菅生店』だ。黄色の看板と赤い日除けテントはまさに昔ながらの町中華。メニュー写真のみならず、この店の佇まいもかなりソソられる。
店内も町中華らしく、カウンター席と小上がりのテーブルも赤を基調としている。小上がりでは近所に住む常連客と思われるグループ2組がビール片手に盛り上がっていた。町中華においては最高のシチュエーションである。この地元感がチャーラーの旅の醍醐味なのだ。
カウンター席へ座り、注文したのはもちろん、チャーハン+ラーメン、つまりチャーラーを示す「チャーハンセット」(840円)。ほかにもマーボー飯や天津飯、中華飯のセットもあった。
厨房に目をやると、店主はラーメンの麺を茹でて、すぐさま中華鍋を熱していた。動きにまったく無駄がない。飲食店は日々のルーティンの積み重ねといわれるが、この一連の動きは身体に染み付いているのだろう。
あっという間にラーメンもチャーハンも完成。目の前に運ばれたのがこれだ。見ての通り、チャーハンとラーメンがひとつの丼に入っている! これ、これっ! 「ジャケ食い」したくなったのは、このビジュアルを目にしたからだったのだ。
かなり以前になるが、名古屋でこの丼を見たことがある。丼もの専門店で、味噌かつ丼と鉄火丼など異なる2種類の丼を同時に楽しめるのがウリだった。この丼の形状から、誰が命名したのかはさだかではないが、「ブラジャー丼」、通称“ブラ丼”と呼ばれていた(笑)。これならチャーハンとラーメンが時間差で出てくることは絶対にない。
ビジュアル以外は町中華の王道チャーラー
では、ラーメンからいただきます!
スープが濃いように思えるのは、黒い丼だからだろう。実際に飲んでみると、鶏ガラのコクのあとに角がとれたまろやかな醤油の風味がふわっと広がる。これぞ町中華ならではの清湯スープである。
麺はやや縮れのある中太麺。これも町中華ではお馴染み。この丼ゆえに麺は1玉よりも少ない気がしたが、半玉ほどは少なくない。チャーシューはしっかりと煮込んであり、味も濃い目。うん、私好みである。ほかの具材はメンマとモヤシ、ネギと、シンプル。
驚いたのはチャーハン。まず、その量とビジュアルだ。しっかりと1人前あり、真ん中にグリーンピースがのり、端には紅ショウガが添えられている。黒い丼に映えまくっているのだ。
レンゲを入れてパクリとひと口。うおーっ! 旨いっ! 見た目からパラパラ系かと思いきや、食感はしっとり。いや、その中間くらいか。とにかく絶妙なのだ。サービスメニューのチャーハンなのに、チャーシューもゴロゴロと入っていて、ご飯全体にその旨みが染み込んでいる。もちろん、ラーメンとの相性は言うまでもない。
ただ、ひとつだけ難点を挙げるとしたら、ご飯粒を残さないように丼を持ち上げてチャーハンを食べると、ラーメンのスープをこぼしそうになるのだ(笑)。
でも、まぁ、それは大した問題ではない。それよりもブラ丼のチャーラーということに何よりも惹かれたし、味も抜群だった。もっとこの店はネット上で評価されてもよいのにとの思いが頭を過ったが、これからも地元の常連客のためにおいしい料理を作り続けてほしいと思い直した。
取材・撮影/永谷正樹
1969年愛知県生まれ。株式会社つむぐ代表。カメラマン兼ライターとして東海地方の食の情報を雑誌やwebメディアなどで発信。「チャーラー祭り」など食による地域活性化プロジェクトも手掛けている。
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