音楽の達人“秘話”

「ジェームス(藤木)さんが何でも教えてくれました」クルマの中で得た大切な時間 音楽の達人“秘話”・横山剣(2)

1998年のファーストアルバム『PUNCH!PUNCH!PUNCH!』(左上)などクレイジーケンバンドの名盤の数々

「育て続けてくれた音楽に義理がある」 横山剣は“イーネッ!”な人間 1981年、クールスRCのヴォーカリストになり、自作曲「シンデレラ・リバティ」が、最初のシングルとして採用されるなどソングライターとしてのセンスも認めら…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。クレイジーケンバンドのリーダー、横山剣の第2回は、在籍したクールスRC時代のお話です。クールスRCのメンバー、ジェームス藤木に強い影響を受けたといいます。

バイク好きが集まったクールス

クールスは元々はバンドでなくバイク好きのメンバーが集まったチームの名だった。発起人は舘ひろし、岩城滉一などだった。1974年頃の話だ。東京・表参道にあった伝説の喫茶店、レオンにたむろしていた。そのクールスはひょんなことから矢沢永吉が結成していたキャロルの解散コンサートで親衛隊を務めることになった。

1975年4月13日のことだ。クールスの名は音楽業界に知れ渡り、キング・レコードからデビューの話が来た。チームから選抜された7人とバンド結成のために参加した大久保喜市の計8名は、クールスとして1975年9月、シングル「紫のハイウェイ」でデビューした。だがメンバー内でトラブルもあり、舘ひろしはクールスを脱退する。

舘の代わりにリーダーとなったドラムスの佐藤秀光リードギターでサウンドのもうひとりの要だったジェームス藤木と共にバンドの存続を模索した。トリオ・レコードへの移籍が決まったが、クールス(Cools)というバンド名の権利はキング・レコードが持っていたのでそれは使えなかったとされる。そしてクールス・ロカビリィ・クラブ~クールスRCと名乗ることになり、1977年6月、トリオ・レコードからシングル「ハイスクールクイーン/ロンリー・ベースマン」を発表した。

クールスRCはオートバイ、リーゼント、黒のレザーにまとめたファッションなどから、不良っぽいイメージが先行する。が、音楽的に素晴らしいバンドでBUCK-TICK、藤井フミヤ、山下達郎などから愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンと呼べるバンドだ。ぼくもメンバーに、特にジェームス藤木とは何回も逢っているが、その音楽知識は相当なものだ。

17歳で、クールスRCへ

そんなクールスに魅せられていたのが、物心付いてから横浜を転々として育った少年、横山剣だった。音楽的感性が豊かだった横山剣はキャロルに惚れ、当然のようにクールスRCにも引き込まれた。堀越高校に通っていたが2年で中退。定時制高校に通いながらガソリン・スタンドで働き、デモテープをレコード会社へ持ち込んだりしていた。

走り屋のようなこともした。たまたま原宿に出かけ、クールスRCの佐藤秀光が経営していたロカビリー・ファンなどに向けたブティーク「チョッパー」に寄った。友人の先輩が「チョッパー」のスタッフだったこともあり、クールスRCのメンバーと知り合う。そして17歳の時、1978年にクールスRCのローディー(スタッフ)となった。同時に「チョッパー」の店員にもなった。音楽的には10代の少年としてはかなりの知識を持っていたが、メンバー、特にジェームス藤木に強い影響を受けた。

ほとんど毎日、仕事が終わったジェームスさんを東京の中心から多摩方面の自宅まで車で送っているんです。真夜中、明け方。ジェームスさんはその車内でずっと古いR&B、ロックンロールを鳴らしっ放しでした。そして自分が分からないことがあると何でも教えてくれました。あの時間はとても大切なものでした”と横山剣はぼくに教えてくれた。

「育て続けてくれた音楽に義理がある」 横山剣は“イーネッ!”な人間

1981年、クールスRCのヴォーカリストになり、自作曲「シンデレラ・リバティ」が、最初のシングルとして採用されるなどソングライターとしてのセンスも認められた。横山剣、21歳の年だ。1984年、クールスRCを脱退しバンドを組んだが所属事務所から解雇された。そして昼はサラリーマン、夜は曲を作りながらバンド活動も続けた。

1995年、現在も代表を務めるダブル・ジョイ・レコードを設立1997年にクレイジーケンバンドを結成1998年、アルバム『PUNCH!PUNCH!PUNCH!』でデビューし、すぐに人気を得た。

ぼくはクールスRCを辞めてからサラリーマンと音楽活動で辛い時代を過ごしていたと思っていた。クレイジーケンバンドまで約13年もかかったのだ。

辛いなんてことはまったく無かったですね。好きな音楽ができてましたから。クールスRCもそうだったけど何かに媚びてまで音楽は作りたくない。そう思って音楽をやり続けていたら、たまたま、皆さんが認めてくれた。もし認められなくても、音楽はずっと続けてたと断言できます。自分を救い、育て続けてくれた音楽に義理があるんです。義理はとても大切なものと思いますね

音楽に対してだけの義理では無い。今でもクールスRCを愛し続け、昔から彼を知っている人間には義理を欠かさない。たまたま、彼のクールスRC時代、無名時代を知っているぼくにも彼は先輩として立ててくれる。彼は得意のセリフのように“イーネッ!”な人間なのだ

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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