音楽の達人“秘話”

マドンナが明かした「まるで夢のような成功」の理由 音楽の達人“秘話”・マドンナ(1)

2019年の『マダムX』などマドンナの名盤の数々

「ふたりで世界情勢でも話しましょうか(笑)」 当時のマドンナは26歳。34歳だったぼくよりずっとしっかりしているのに驚かされた。アメリカは物質の国だからスピリットを追うことで物質は入って来るという発想を無名時代~恐らく2…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。今回から登場するのは、世界で最も成功した女性アーティストとして知られ、現在も音楽シーンの先端を行くマドンナです。1984年のセカンド・アルバム『ライク・ア・ヴァージン』の大ヒットでスターの座に一気に上り詰め、2008年には「ロックの殿堂」入りを果たした“クイーン・オブ・ポップ”。2022年は、レコードデビューから40周年にあたります。筆者が、この世界の歌姫に東京で逢ったのは『ライク・ア・ヴァージン』の世界的ヒットの直後のこと。マドンナが明かした「まるで夢のような成功の理由」とは―――。

1985年1月の東京、ホテルオークラのスウィート・ルーム

マドンナと初めて逢ったのは1985年1月のことだった。虎ノ門駅に程近いホテルオークラの駐車場に当時の愛車BMW325を滑り込ませて、インタビュー用のスウィート・ルームに赴いた。スウィート・ルームは10坪強の広さだったろうか。アンティークなソファー、テーブルが置かれていて約束の時間通りマドンナはそこに座っていた。テーブルにはぶどうなどフルーツが盛られた皿があった。

ぼくは部屋に入ると立ち上がってフレンドリーに迎えてくれた。初来日当時、セカンド・アルバムからのシングル「ライク・ア・ヴァージン」が全米シングル・チャートで彼女にとって初のNo.1となっていた。まずはそのことを祝福した。彼女は“素晴らしいことだ”と応じた。

多くの音楽ライターはミュージシャンをインタビューする時、音楽の話しかしない。ミュージシャン側もプロモーションになるからインタビューを受けるので、インタビューがニュー・アルバムの話で完結するなら、それにこしたことはない。ただ、ミュージシャンによっては新作のプロモーションとして何度も異なるインタビューワーから同じ質問をされて飽きている人も少なからず存在する。このミュージシャンが新作の話をしたいのか、それとも新作に関しては触れる程度で、他の話をしたいのか、瞬時に判断して、どんな話をするのかを決めるのもインタビューワーの力量である。

「スピリットを追い続けたから」「1日に2000mは必ず泳ぐ」

ぼくが初めて間近に見たマドンナは身長160cmもないような、思ったよりずっと小柄だった。そして何よりも、同じ話ばかりするのに倦んでいたように見えた。そこでぼくは、このインタビューは音楽の話は少なめにして、できるだけ世間話にしようと即座に決めた。そして、まずは何故に夢のような成功を得られたか訊ねた。

“多くのアメリカ人は物質を追っている。お金、大きな家、高級な車…。私はまだ無名な頃から、皆が物質を追うなら違うことをしようと決めた。その答えがスピリットだった。物質とは反対側にあるスピリットを追い続ければ、自然と物質は入って来ると気づいたの。どんなに苦しくとも、スピリットを追い続けた。そして今の私がいる”

では、スピリットを追い続けて今の貴女がある。何か恐れは無いかと訊ねた。それに対し、“怖いのは老いることね。肉体の老い、スピリットを追い続ける心の老い。それが怖いの。だから私は毎日、トレーニングして泳いでいるの。1日に2000mは必ず泳ぐ。どんなに前夜が遅くなっても必ず早起きして、トレーニングして泳ぐ。それを欠かす日は無い。日本に来るに当たって、当初はここじゃなくて他のホテルをオファーされた。でも私のスタッフが調べたら、このホテルのプールが一番プライバシーを守れると助言してくれた。それでここに泊まると決めたの。毎朝ランニングして、プールで泳いでいるわ”

「ふたりで世界情勢でも話しましょうか(笑)」

当時のマドンナは26歳。34歳だったぼくよりずっとしっかりしているのに驚かされた。アメリカは物質の国だからスピリットを追うことで物質は入って来るという発想を無名時代~恐らく20代初めには持っていたのだ。

そういった話をしているとマドンナがぼくに質問して来た。“日本に来て、毎日ニュー・アルバムの話をしている。同じ話ばかり(Fuckin’Talkと言った)。で、あなたはこんな話でいいの?”。それに対しぼくは”アルバム『ライク・ア・ヴァージン』は何度も聴きました。だから、このまま話を続けていいですか?”と答えた。

“もちろん、いいわ。同じ話ばかりで退屈していたから、ふたりで世界情勢でも話しましょうか(笑)”。そういってマドンナは微笑んだ。目の前にいるのはグリーン中心の肌も露わなファッションの美しいイタリア系の血をひく美女。そんな彼女とプライベート・トークはこうして始まったのだった。

2019年の『マダムX』などマドンナの名盤の数々

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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