東京路線バスグルメ

武蔵野が生んだヒーロー「新選組」ゆかりの地を歩く 東京路線バスグルメ・武蔵野編(5)=前編

「近藤勇生誕の地 上石原」と書かれた幟 北口のロータリーを出たバスは、「旧甲州街道」をしばらく西方向に走る。この道、前回の「市区境」に行った時も通りましたよね。やっぱり武蔵野とテーマを決めて動くと、同じ道を辿ることも多く…

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武蔵野の生んだ最大のヒーロー、と言えば新選組ではないでしょうか? 今でもその人気は衰えず、変わらず映画やドラマの題材になり続けている。まさにこの連載の掉尾(ちょうび)を飾るに相応しいテーマと言えるでしょう。

新選組局長、近藤勇の生家跡とお墓へ

ただし書こうとしたら中身が多過ぎて、分量的に1回だけではとても収まりそうにない。なので今回に限って、「前・後編」に分けたいと思います。ただ、昼食として摂ったのは1回だけ。おかげで「路線バスグルメ」というタイトルにもかかわらず、今回の「前編」では食事の話は一切、出て来ません。悪しからず、ご了承くださいませ……。

実は私の雑誌記者稼業の師匠であり、「講談社最後のトップ屋」と呼ばれた中里憲保(なかさとのりやす。通称「ケンポ」)大将は新選組副長、土方歳三の血を引く末裔。大将は北海道札幌の出身だけど、歳三が没したのは箱館五稜郭の闘いの最中でしたからね。

なのにその土方家のお墓が東京都日野市にあるというのに、これまで行ったことがなかった(汗)。師匠不孝もいいとこです。今回の企画のおかげでやっと、長年の本懐を遂げられることになりました。

てなわけで、やって来ました、京王線の調布駅。こたびの連載、第2回ではこの町自体を目的に回りましたが、今回は単なる出発地。北口の乗り場から、京王バスの「武91」系統に乗り込みます。これで新選組局長、近藤勇の生家跡(調布市)とお墓(三鷹市)に行くことができる。

調布駅北口から「武91」系統に乗り込む

実は当初、遠い方の土方歳三ゆかりの場所から先に回って、徐々に近場に戻って来るコースも考えてた。ところがその生家跡でもある「土方歳三資料館」は通常、第1、第3日曜と月に2回の開館であることに加え、開いているのも12時から16時まで、と極めて短いことが分かった。12時から回り始めたりなんかしたら、昼食を摂れる時刻はいつになってしまうの!? そんなわけで近場の、近藤勇の方を先に回ることにしたわけだ。

「近藤勇生誕の地 上石原」と書かれた幟

北口のロータリーを出たバスは、「旧甲州街道」をしばらく西方向に走る。この道、前回の「市区境」に行った時も通りましたよね。やっぱり武蔵野とテーマを決めて動くと、同じ道を辿ることも多くなる。

途中、右から来た都道と合流するんだけど、ここで信号待ちをしてて注目すべきものを発見。道端に、「近藤勇生誕の地 上石原」と書かれた幟(のぼり)が立っていたのだ。やっぱり地元の誇りなんだなぁ、と思わず胸が熱くなる。

慌てて車窓から写真に撮ろうとしたんだけど、風が吹いてて字面がなかなかこっちを向いてくれない。信号待ちの時間は限られてるのに、ね。何とか字が読めはするように撮れましたが、これが精一杯でした(汗)

バスから幟を撮影

ところが結局、道中でこの幟は何度も目にすることになった。だったらあんなに焦ることもなかったわけですね。ただやはり、最初に見つけたものを撮っておく、というのはそれなりに意味はあったとは思います。

バスは「西調布駅入口」の交差点で右折。甲州街道(国道20号)を渡ると同時に、中央高速の高架もくぐる。「国立天文台」の横を通るこの道沿いにしばらく走った後、「東八(とうはち)道路」に出て、左折。これらの通りの名も全て前回、出て来ましたね(笑)

野川(のがわ)を渡ってすぐ、「野川公園一之橋」バス停で下車しました。停留所名にもなっているように、ここは広大な都立野川公園の中を、「東八道路」が突っ切る箇所。近藤勇の墓や生家跡は、この公園の南側にあります。

どうしようかな、とちょっと迷う。公園の中を歩いて突っ切り、正門から出ると近藤勇の生家はもう目の前にある。実はずっと以前、ここには来たことがあったのだ。子供の幼稚園の遠足で野川公園に来て、正門の辺りを歩いてたら見つけたのだった。

ただその時、すぐ近くにお墓もあることは知らなかった。だからせっかくだから、まずは未踏の地に先に行ってみようと腹を決める。

生家近くにある龍源寺のお墓

野川のほとりに降り、川沿いを歩いて向かうことにする。

まぁ綺麗なせせらぎですよねぇ。この連載で何度も繰り返してますが、本当にここが東京都内なんて信じられない思いにとらわれる。武蔵野を動き回れば自然、同じ感懐に何度も包まれることになります。

やがて川は「人見(ひとみ)街道」に出た。この道を西にちょっと歩けば、右手に龍源寺(三鷹市大沢)。目的のお墓はここにあります。入口の左手には近藤勇の胸像や、史跡であることを示す石碑などが建ってました。

まずは境内に足を踏み入れて、立派な本堂に手を合わす。墓地はその裏手にあり、目指すお墓も入ってすぐのところにあって、簡単に見つけることができました。辞世の句が彫られた石碑も建ってました。

近藤勇の胸像

近藤勇は武蔵国多摩郡上石原(かみいしわら)村の宮川家に三男として生まれ、当時の剣術の一つ、天然理心流、近藤周助の門人となる。程なくしてその養子にもなり、いくつか名を変えた後、近藤勇を名乗るようになる。

文久3(1863)年2月、上洛する将軍、徳川家茂(いえもち)警護のために編成された浪士組に門人仲間と参加して、京都へ。役目を終えた浪士組は江戸に戻ることになったが、京都残留の嘆願書を提出し、会津藩預かりとなって京都市中の見回りに当たることになった。当時、京都では倒幕派の薩長藩士らが跋扈(ばっこ)し、不穏の空気に包まれていた。それを取り締まるべく新選組が結成され、近藤は局長として采配を振るったのはご存知の通りだ。

結局、倒幕派は勢いを増し、江戸に向けて進軍。敗れた近藤らは改めて下総国(しもうさのくに)流山(現在の千葉県流山市)で陣を敷いたが、官軍に包囲され万事窮すと出頭した。慶応4年4月25日、板橋の地(現在の東京都板橋区板橋と北区滝野川)において刑死。勇の甥は、かつて負った肩の鉄砲傷を目印に刑場から首のない遺体を掘り返し、生家近くの龍源寺まで運んで葬った、という。

波瀾万丈の生涯の果てに、こんな静かな野川の近くに今は安らかに眠っているわけですね。そう思うとまたひとしお、感慨深いものがあります。

そう言えばこの連載第1回、武蔵国分寺跡に行く時も野川の源流近くを通りましたね。多摩川だって第2回と3回で訪れましたし(実はこの後も近くに行くことになる)。武蔵野って川でつながった豊かな地なんだなぁ、と改めて実感する。

「忠臣蔵」に勝るとも劣らぬ武士道物語

寺を出て「人見街道」をもうちょっと西へ行くと、野川公園の正門。目の前に近藤勇の生家跡が保存されてます。かなり大きな屋敷だったみたいだけど、現存するのは産湯を使った、という井戸だけ。生家である宮川家もかなりの豪農だったんでしょうなぁ。

近藤勇生家跡

実は武蔵野武士は、甲斐武田家と深いつながりがある。武田家本体は織田信長に滅ぼされたが、徳川家康はその遺臣団を潰すことはなかった。中でも徳川幕府に重用されたのが大久保長安(ながやす)で、全国の鉱山管理を任され、八王子を所領地として与えられた。長安は武田遺臣団を中心に同心組を組織し、彼らは甲斐国境の警備や江戸防衛の任に当たった。

その子孫が武蔵野の地で、普段は屯田兵として土地を耕しつつ、徳川幕府に何か一朝(いっちょう)事あった時のために、と武道の鍛錬も怠ることはなかった。幕末、倒幕運動が巻き起こると今こそ徳川家に恩を返す時、と彼らが立ち上がったのには、そうした歴史があったわけだ。

そう考えてみれば、あの「忠臣蔵」に勝るとも劣らぬ武士道物語、と私は思いますよ。地元の人達が今も誇りに思っているのは当然なんですね。

さぁ近藤勇ゆかりの地を回り終えて、次は土方歳三と参りましょう。

野川公園の中を北へ突っ切り、「東八道路」に戻ります。「野川公園一之橋」バス停から再び「武91」系統に乗り込み、先へ。今度は終点JR中央線の「武蔵小金井駅」まで乗ります。

途中、多摩霊園と府中の運転免許試験場の間を走り抜けました。

あぁそうだ、と思い出す。今は都庁で手続きができるようになったけど、以前はここまで免許の更新に来てたんだ。と、いうことはこの「武91」系統。あの頃さんざん乗ってた路線、ってことじゃないか。もちろん更新だけじゃなく、免許そのものを取る時の筆記試験でも来てるわけですし、ね。

てなわけで今更ながらの回顧と共に、武蔵小金井駅前に到着。ここからはさすがにバスで直行することはできず、JR中央線で日野駅まで向かいます。

全く食事のなかった「バスグルメ」、次はちゃんと昼食を摂る後編へ―――。

西村健

にしむら・けん。1965年、福岡県福岡市生まれ。6歳から同県大牟田市で育つ。東京大学工学部卒。労働省(現・厚生労働省)に勤務後、フリーライターに。96年に『ビンゴ』で作家デビュー。2021年で作家生活25周年を迎えた。05年『劫火』、10年『残火』で日本冒険小説協会大賞。11年、地元の炭鉱の町・大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で日本冒険小説協会大賞を受賞し、12年には同作で吉川英治文学新人賞。14年には『ヤマの疾風』で大藪春彦賞に輝いた。他の著書に『光陰の刃』『バスを待つ男』『バスへ誘う男』『目撃』、雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編『激震』(講談社)など。

新刊情報
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