SFで時代劇で医療ドラマでサスペンス 90年代、平成になると、武道家の青年・龍が日本と中国を股にかけて活躍する大河ロマン『龍-RON-』の連載が始まる。この作品は構想20年、村上さんの子供のころからの中国大陸に対する関心…
画像ギャラリー今年でデビュー50周年を迎える漫画家・村上もとかさん。その半世紀の足跡をたどる原画展が、東京都文京区にある弥生美術館で開催されている。
50年前、『ドカベン』『ベルばら』連載開始時にデビュー
村上さんが『燃えて走れ』(週刊少年ジャンプ)でデビューしたのは昭和47(1972)年。
この年に連載が開始された漫画は、手塚治虫『ブッダ』、池田理代子『ベルサイユのばら』、萩尾望都『ポーの一族』、水島新司『ドカベン』『野球狂の詩』、石ノ森章太郎『人造人キカイダー』、永井豪『デビルマン』、楳図かずお『漂流教室』、ちばあきお『キャプテン』、中島徳博『アストロ球団』、藤子不二雄A『魔太郎がくる!!』と、いまやニッポン漫画のレジェンドとなっている漫画たちの綺羅星のごとき作品が並ぶ。
あれから半世紀。村上さんは、いまだ現役漫画家としてメジャー漫画誌で連載を続けているが、すごいのは、その息の長さだけではなく、この間ずっとヒット作を、しかもバラエティに富んだヒット作を世に送り出し続けたことである。
アニメにもなった『六三四の剣』
デビューから5年目の1977年、週刊少年サンデーに日本に最初のF1ブームを巻き起こした『赤いペガサス』を連載開始。カーレースを題材にした漫画といえば、今でもランキングの上位に上がる作品だが、執筆当時、村上さんは運転免許を持っていなかったという、ウソのようなホントの話がある。
80年代に入ると、山岳漫画の名作『岳人(クライマー)列伝』、テレビアニメにもなった剣道漫画の傑作『六三四の剣』が続く。
『岳人列伝』は、村上さんによれば、どうしても描きたい1枚の絵のためにひとつの話を作りこんでいったというシリーズで、自分が漫画家を続けていけるという自信を得た作品だったという。
『六三四の剣』は、剣士夫婦のもとに生まれた少年が、ライバルたちと切磋琢磨し、様々な困難を乗り越えていくという少年漫画の「ザ・王道」を行った作品。当時、この作品に影響されて剣道を始めたという少年は多かった。
SFで時代劇で医療ドラマでサスペンス
90年代、平成になると、武道家の青年・龍が日本と中国を股にかけて活躍する大河ロマン『龍-RON-』の連載が始まる。この作品は構想20年、村上さんの子供のころからの中国大陸に対する関心と憧れから生まれた作品だ。なんと連載は16年に及び、村上さんの中では最長の作品となった。
そして、2000年代に入ると、村上さん最大のヒット作『JIN-仁―』がスタートする。現代の脳外科医・南方仁が幕末にタイムスリップし、激動の時代に翻弄されながら、目の前の患者を救うべく全力を尽くしていくという物語だが、SFであり、時代劇であり、医療ドラマであり、サスペンスでもあるという極上のエンターテインメント作品になっている。
この漫画を原作とするテレビドラマも大ヒットし、コロナ禍での再放送も高視聴率を記録して話題となった。
2010年代には、村上さんが子供の頃、熱心な読者だったという、満州育ちの少女漫画家・上田トシコの生涯を描いた伝記的漫画『フイチン再見!』で、『龍-RON-』とはまた違った、女性の視線からの戦中戦後史を描いた。
そして、現在は、幕末の大阪で、アイヌの血を引く医師が未知の感染症と戦う『侠医冬馬』を「グランドジャンプ」誌上で連載中だ。
ざっと駆け足で、村上もとかさんの50年の仕事の一部を追ってみたが、この漫画家が、いかにバラエティに富んだ題材に挑んできたのか、そして、ストーリーテラーとしていかに優れているかが、おわかりいただけたと思う。
日本漫画界には綺羅星のごとくのヒット漫画家たちがいるが、これほど太く長い漫画家人生を送ってきた方はめったにいない。もっともっと評価されていい漫画家だろう。
今回の展覧会の特徴は、展示された原画に、村上さんの当時の思いや作画の背景といった、村上さん自身による解説が加えられていることである。この解説によって、ヒット漫画が生み出されている背景を覗き見るような趣きがあり、展示を見ながらドキドキワクワクが止まらなくなる。そして、『六三四の剣』や『龍-RON-』といった若い頃に読んだ作品をもう一度読みたくなる。
昭和から漫画ファンだけでなく、『JIN-仁-』のドラマの再放送しか観ていない若い方々にもぜひおススメの展覧会です。
「デビュー50周年 村上もとか展 『JIN−仁—』、『龍—RON−』、僕は時代と人を描いてきた」
9月25日(日)まで。休館日/月曜日[ただし9月19日(月・祝)開館、9月20日(火)休館]
午前10時〜午後5時(最終入場午後4時30分まで)
弥生美術館 〒113-0032 東京都文京区弥生2−4−3 電話 03-3812-0012
https://www.yayoi-yumeji-museum.jp
「村上もとか展」にはどうしても行くことができないという方のためには、この展覧会のカタログとして出版された単行本「村上もとか 『JIN-仁-』、『龍-RON-』、僕は時代と人を描いてきた」(河出書房新社)がおすすめです。
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