話題の「生つくね」は法規制なし? 鶏肉の生食に潜む“危険”と知っておきたい食の知識

牛肉のステーキはなぜレアでもOK? 牛肉の腸内にもカンピロバクター菌がいるのに牛肉のステーキはレアでもOKなのかと疑問に思う人が多いと思います。これは牛肉の食肉部分の汚染率がきわめて低いと考えられているからです。 ただし…

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「生つくね」を提供していた老舗飲食店閉店のニュースが発端となり、鶏肉の生食について注目が集まっています。

結論から言うと、鶏肉の生食は”否”です。その理由はカンピロバクター食中毒のリスクが極めて高いため。

食中毒と言われると、生魚のアニサキスなどや腸管出血性大腸菌O157を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、厚生労働省の調査によると国内で発生している細菌性食中毒のなかで発生件数がもっとも多いのがカンピロバクター食中毒なのです。

牛肉のユッケやレバ刺しによる食中毒などはたびたびニュースに取り上げられていることから、近年では牛肉や豚肉の生食に関する危険性は周知され始めているものの、鶏肉に関してはその危険性は充分に周知されておらず、いまだ生を好んで食べる人や、生肉を提供する飲食店があることを否定できないのが実情です。

そこで今回は、鶏肉を中心に食肉の生食に潜む危険性に関して考えていきたいと思います。

文/田村順子(フードライター)、写真/写真AC

一過性の症状にとどまらない! 恐ろしい「カンピロバクター」とは?

カンピロバクターとは、牛、鶏、豚などの腸管に生息している菌で、感染すると下痢、腹痛、発熱、倦怠感などの腸炎症状を発症します。怖いのは、症状が一過性のものでは収まらず、腸炎症状が収まった後にギランバレー症候群という筋力低下、歩行困難などの症状をともなう疾患にかかるリスクがあることです。

カンピロバクター菌は処理過程で、食肉に付着することで汚染が広がります。とくに鶏は高確率でカンピロバクター菌に汚染されていることがわかっていて、生産農場や食鳥処理場による違いや検査方法による検出率の違いはあるものの、流通している鶏肉の60%以上がこの菌に汚染されていたとの報告もあります。

カンピロバクター菌のもうひとつの怖さは、ごく少量が体内に入っても食中毒を起こしてしまうところ。一般的な食中毒菌は体内に10万個から100万個くらいを取り込まないと発症しないのですが、カンピロバクター菌は、たった10個から100個程度で発症してしまうのです。これは、腸管出血性大腸菌O157も同様です。

内臓などの刺身を提供する飲食店も多いが、肉以上に危険。生食用鶏肉の衛生基準を独自に設けている自治体はあるものの、正式な法規制がないだけに消費者側は安全か否かの判断をすることができない。やはり安易な生食は避けるべき

なぜ「鶏肉」だけが大きな話題に?

牛肉や豚肉でもカンピロバクター菌による食中毒の危険はあります。しかし、牛や豚に関しては、生食を規制する法律が設けられているため、違反が認められれば、飲食店には営業停止処分などの厳しい処分が科されます。

いっぽう、鶏肉は生食に関する高い危険性が明らかになっているにもかかわらず、現状では注意喚起のみで、牛や豚のような生食を規制する法律が設けられていないのです。そのため、いまでも鶏肉を生で提供する飲食店は多く見られます。

また、「新鮮な鶏肉」を使っていることを謳い文句にして鶏刺しや、鶏たたきを提供している飲食店もあるようですが、カンピロバクター菌は新鮮さとはまったく関係ありません。さばきたての新鮮な鶏肉であっても汚染されているものを食べれば食中毒になってしまいます。

新鮮な鶏だから汚染されていないということはない。そこは知っておくべきポイント

要注意! 「生焼け」にも食中毒リスク

注意したいのは「生焼け」にも食中毒の危険がはらんでいるということです。たとえば、焼き鳥でも生焼けであれば生食していることと同じです。とくにササミで中がほぼレアな焼き鳥をよく見かけますが、これはお薦めできない調理法です。

鶏肉は唐揚げなどにしてしまうと牛や豚よりも火が通っていることを判別しづらいという難点が……。万全を期すなら、スーパーのお惣菜などを購入した場合は、一度電子レンジで加熱しましょう。

自宅で唐揚げなどを作る時は中までしっかり火を通すようにしよう。お惣菜の場合は一度電子レンジで加熱するなどすると安心だ

牛肉のステーキはなぜレアでもOK?

牛肉の腸内にもカンピロバクター菌がいるのに牛肉のステーキはレアでもOKなのかと疑問に思う人が多いと思います。これは牛肉の食肉部分の汚染率がきわめて低いと考えられているからです。

ただし、表面に関しては処理過程で汚染されている可能性があるため、ユッケのような完全な生食に関しては法規制が設けられています。いっぽうのステーキは表面がしっかり焼かれているので、レアでも食べることができるのです。

ユッケは認定生食用食肉取扱者等設置施設の認定を受けた飲食店でのみ提供可能。ただし、安全性が100%保証されているわけではないことは知っておこう

これは、2011年に腸管出血性大腸菌O157に汚染されたユッケを食べたことが原因の食中毒事件が広域に発生したことが発端です。同年10月1日からは「牛肉の塊(ブロック肉)の表面から1cm以上の深さまでを60℃で2分間以上加熱殺菌をして表面を切り取るといった加工・調理する。さらに、腸内細菌科菌群(腸管出血性大腸菌、サルモネラなど)が陰性である」という厳しい基準を満たさなければ生食用牛肉を提供することはできなくなりました。

そのため、飲食店がユッケを提供するためには、厳重な衛生管理体制を整え、さらに保健所から「認定生食用食肉取扱者等設置施設」の認定を受ける必要があります。

ちなみに、牛レバーに関しては2012年に生食用として販売・提供することが全面禁止されています。

レバ刺しは法律で提供禁止に。レアで焼いてレバ刺し感覚で食べるという方法は危険!

豚肉の生食はさらに危険!?

豚肉の生食に関してはカンピロバクター菌による食中毒はもちろんのこと、E型肝炎ウイルスに感染するリスクもあります。これに関しては、どんなに清潔な場所で処理された肉でも安全性は担保されません。

つまり、豚肉はどんな状況であっても絶対に生食をしてはいけない肉なのです。もちろん、生焼けも絶対にNGです。豚肉をレアの状態で食べるのは先ほどのササミの生焼け以上に危険です。

平成27年(2015年)6月12日からは、豚肉を生食用として販売・提供することが禁止されています。

実は、鹿やイノシシなどの野生動物の肉からもE型肝炎ウイルスが高率で検出されるため、ジビエなども生食は避けましょう。

いま流行りのジビエもレアで提供されることがあるが、野生動物の肉の生食は豚肉と同様に危険

牛肉でもハンバーグのレアは要注意!

牛肉であってもひき肉料理の生焼けは要注意です。ひき肉には汚染された表面部分が混入している恐れがあるためです。さらに危険なのは、豚肉を使用した合いびき肉を使用している場合です。いずれにせよ、たとえ牛肉100%でもハンバーグはレアではなくしっかり火を通ったものを食べるようにしましょう。

ひき肉の生はたとえ牛肉であっても食べてはダメ。 ビーフ100%のハンバーグだったら大丈夫ではない

日本では、「生食はしない」ことを前提に食肉に関する法律が作られていました。しかし、想定外の生食文化が根付いてしまい、食中毒で犠牲になる人が出るなどの問題が明らかとなってきたことから、対症療法的に法律に手を加えている状況が続いています。そのため、法律で規制されていないから安全とは言い切れないのです。

ここまで読んでいただくと鶏肉を食べるのが怖いと思う人もいるかもしれません。しかし、しっかり火を通して食べればまったく問題はありません。むしろ、鶏肉は高タンパク・低脂質の理想のタンパク源なので、どんどん食べてほしい食材です。正しい知識をもって食べれば恐れる必要はないのです。

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