「シーナが音楽の中で生きちょる」 そのシーナは2015年2月14日この世を去った。シーナの命日である2020年2月14日、シーナの死後、初のアルバムとなる『LIVE FOR TODAY!-SHEENA LAST RECO…
画像ギャラリー国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。鮎川誠の第3回は、鮎川誠の愛妻家の一面が語られます。九州から上京した背景には、妻シーナの存在が大きかったようです。そして、会話によく出てくるフレーズは、「シーナがこう言っちょるけん」だったそうです。
「シーナ&ロケッツ」は語呂合わせ
「ユー・メイ・ドリーム」はアルバム『真空パック』から、1979年12月5日にシングル・カットされた。作曲は鮎川誠とイエロー・マジック・オーケストラ~Y.M.O.の細野晴臣だった。日本航空のCMソングに使用されたこともあって、オリコン最高位20位にランクされ、シーナ&ロケッツの最大のヒット曲となった。曲のタイトルは“ユー・メイ”が“夢”で“ドリーム”も“夢”とイメージ的な語呂合わせがなされている。
そういえばシーナ&ロケッツというバンド名も語呂合わせだ。“ロケッツ”はシーナの本名“悦子”から“ロック+エツコ”を縮めて“ロケッツ”になったと鮎川誠から聞いたことがある。“ロケッツ”の英語表記も“ROCKETS”でなく“ROKKETS”となるのも鮎川誠的感性だろう。ちなみに名前とバンド名を組み合わせるのは、ビル・ヘイリー&ヒズコメッツ、ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズなど1950~60年代の原初のロックンロール/ポップスではよくあり、自分もそういうバンド名にしたかったと教えてくれたことがある。
「シーナがこう言っちょるけん」というフレーズ
鮎川誠は記憶力の良い人で1980年の早い時期、エルヴィス・コステロの楽屋以来の再会をした時もぼくの名前こそ浮かべてもらえなかったものの、FMレコパルなどで音楽記事を書いている人として憶えてくれていて話が弾んだ。とにかく愛妻家では話の端々に“シーナがこう言っちょるけん…”というフレーズが出てきた。
“シーナがおらんかったら東京ば出てきたか分からん。シーナがオレを後押ししてくれたんや”と言っていた。
鮎川誠は根っからのロッカーだった。そのファッション、ライヴ・アクション、生き様、言葉。ただ例えば、ザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーやキース・リチャーズなどのように華麗な女性遍歴だけが無かった。結婚観だけは昭和の日本男子だった。仕事も一緒、家庭も一緒、息が詰まって喧嘩になることがないのか訊ねたことがある。
“そりゃあ喧嘩することはある。でもシーナは九州の女やけん、そうなると気が強い。言い争いになるけど翌日には何もなかったようになっちょる。オレにはずっとシーナしかおらんけん、古いロックやブルーズ、そしてシーナがオレのロックなんや”と答えていた。
「シーナが音楽の中で生きちょる」
そのシーナは2015年2月14日この世を去った。シーナの命日である2020年2月14日、シーナの死後、初のアルバムとなる『LIVE FOR TODAY!-SHEENA LAST RECORDING&UNISSUED TRACKS』がリリースされた。生前、シーナのヴォーカルが遺されたトラックを編集したアルバムだ。日本ではテンプターズで知られる「今日を生きよう」、チャック・ベリーの「JOHNNY B.GOODE」、ザ・ローリング・ストーンズの「Heart Of Stone」などカヴァー曲が多い。
このアルバム発売直前に鮎川誠と逢った。シーナの死後、初めてのインタビューだった。
“シーナはいなくなったけど、そりゃあガックリきたけど、いつまでもメソメソしていたら天国のシーナに怒られる。あんたにはロックしかないやろって言うてね。区切りをつけるって言うわけではないが、シーナのヴォーカルが残っている発表していないトラックがいっぱいあるけん、それを整理して、ちょっと手を加えたりしたのが、このアルバムなんや。シーナは若い時、GS(グループ・サウンズ)が大好きで、学校さぼってタイガースやらテンプターズやらが九州に来た時によく観に行っていた。そこでテンプターズの「今日を生きよう」の原曲であるグラス・ルーツの「Let‘s Live For Today」からLive For Todayをアルバムタイトルにしたんや。ロックちゅうもんはいろんなミュージシャンが語り継いできた。ロックちゅうもんは今日を生きるってことなんやと思うねん”
鮎川誠はそう熱く語っていた。
見本盤のCD以外に『SHEENA & THE ROKKETS LOVE BOX』を鮎川誠は持参していた。ボックスのジャケットはシーナを含めた4人のバンド・メンバーの写真だ。
“この写真いいやろ。シーナが音楽の中で生きちょる”
ぼくは良いジャケットですねと誉めた。インタビューから2、3日後、自宅にボックス・セットが届いた。ジャケットを誉めたので鮎川誠が送ってくれたのだ。こういう気配りが優しい男だった。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。