ティモンディ前田裕太の“おとな”入門

【ティモンディ前田裕太の“おとな”入門】第31回 「音楽」編(1) 音楽と“ライブ”が持つ力

ティモンディ前田裕太

好きなバンドのライブで号泣 その日は、お目当てのバンドを見に来たお客さんで会場はいっぱいだった。 他のお客さんたちの、ワクワクが私にまで伝播してくる。 友人たちと来ている人は口々に楽しみを伝え合っているけれど、私のような…

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お笑いコンビ「ティモンディ」前田裕太さんの、「目指せ、理想の大人」をメインテーマに掲げた連載コラム。30代に突入した前田さんが「大人」を目指して過ごす日々を、食・趣味・仕事など様々な視点で綴ってくださいます。連載は、第1・3木曜日に更新です。「(理想の)大人ってなんだろう?」を一緒に考えながら、前田さんの成長を見守りましょう!
今回は「音楽」編。コロナ禍もあり、音楽やお笑い、スポーツ観戦など、様々なものを家にいながら楽しむ手段が増えましたよね。それでも、「ライブだからこそ」の良さがあるということを、身をもって体感したお話です。
そして、次回からはいよいよこの連載がリニューアル!皆様からのお悩みに、びしばし答えていきますよ~

“ライブ”でしか得られない栄養

私はライブが好きだ。

お笑いや音楽などのジャンルは問わず、生ならではの臨場感に高揚する感じが堪らない。

肉にはタンパク質があり、野菜には食物繊維があるように、ライブでしか得ることができない栄養というのが存在するのだ。

このライブでしか得られない栄養というのは、ビタミンと同様に自分の体内では生成することができないため、外から摂取する必要がある。

目と耳で心の肥やしとなる栄養を摂取するのだ。

だから、栄養失調になる前に、北は北海道、南は沖縄まで全国津々浦々で開催しているライブに訪れる。

この栄養というのが、心の油分といえようか、摂取すると精神にテカテカと艶が出るのだ。

その艶は、仕事への活力になって、次の日からまた頑張れる。

テレビやネットを活用すれば映像でも同じようなものを見ることができる。

当然、それはそれで充分に心の栄養が取れるのだけれど、例えば同じ曲、同じネタだとしても映像で見る時とライブで見る時とでは、得られる栄養は全く異なるのである。

同じ食べ物でも、Uber Eatsで家で食べるより、その店に行って、調理する工程を目の前で見た方がより美味しく感じるのだけれど、それと同じ原理なのかもしれない。

先日も、何かと心が荒むような日々の中、このままでは何かが破裂してしまうかもしれない、まずいと思って、音楽ライブに行くことにした。

好きなバンドがライブをするので、仕事終わりにその足で会場に向かう。

普段は仕事前だろうが後だろうが関係なく重い足取りも、人間単純なもので、羽が生えたように軽い。

きっと日常的に歩いているとあれこれ反省や課題を考えてしまうからどんどん足が重くなっていくのだけれど、その時はライブに行きたいという一心でいたからだろう、そのまま海を越えてユーラシア大陸に上陸できるのでは、と空を飛べそうなくらい身も心も軽くなった。

音楽ライブの会場というのは、本当に広い。

先日訪れたZeppHanedaはお客さんを3000人ほど入れることができる大きい会場だ。

お笑いライブをやるライブハウスは、音楽に比べると本当に狭い。

私の所属しているグレープカンパニーという事務所が毎月行う事務所ライブの会場なんて100人も入らないキャパシティだ。

新宿にはそれよりももっと少ない人数しか入れないお笑いライブの会場だって幾つもあるし。

もちろん、吉本興業さんの持っている「ルミネ・ザ・よしもと」のような500席近くある会場もあったりするけれど、それは比較的大きめな会場に分類される。

如何に音楽ライブの会場が多いか、分かってもらえただろうか。

好きなバンドのライブで号泣

その日は、お目当てのバンドを見に来たお客さんで会場はいっぱいだった。

他のお客さんたちの、ワクワクが私にまで伝播してくる。

友人たちと来ている人は口々に楽しみを伝え合っているけれど、私のような独り身での参加者も声に出さなくとも内なる感情が自然と体外へ漏れ出ていて、高揚感が伝わる。

これはライブならではの感覚だろう。

ライブが始まると、盆と正月が一緒に来たような、運動会と文化祭を一緒にしたよな、悟空とベジータがフュージョンしたような、とにかく物凄い熱気に包まれた。

お客さんも、素直にまっすぐ音楽にのめり込んでいる。

お笑いだと良くも悪くもネタに対して点数をつけたり評論をするお客さんも中にはいるけれど、音楽ライブは、そんな点数とか一切関係ない。

シンプルに、エンターテインメントを浴びに来ている人たちの集いなのだ。

一心不乱に曲に乗って、周囲の人たちは汗をダラダラかくほどジャンプしたり腕を振って演者に応えていた。

私はというと、普段から体力を温存しすぎているためか、汗をかくほどの運動ではなかったものの、汗の代わりに涙をダクダクに流した。

泣こうとしている訳ではないのだけれど、自然と涙が出てくるのだ。

ただ目の前で人が歌っているだけなのに、心を動かされる。

お前は頑張ってるよな、偉いな、周囲の人間は分かってくれないよな、辛いよな、と、そんな歌詞はないのに、エネルギーをぶつけられることで、普段自分にはかけてあげないような言葉を自分にかけている自分がいた。

マスク着用の元でのライブだったので、気がつくとマスクは涙でビショビショに濡れ、空気が通りにくくなるため呼吸がしにくくなる。

ヒーヒーと大きく呼吸をしながら、ダクダクに泣いている男が周囲にいたら、さぞ怖いだろう。

ただ、そんな醜態も、音楽ライブで気にする人なんていない。

何故なら、参加している者が皆、醜態を晒しているからだ。

ここでは皆が等しく体裁など気にしないでいられる時間が流れているのである。

隣の男性も、私と同じようにマスクをグショグショに濡らしていた。

次々と曲が変わっていくのを楽しみながら声を押し殺しながら「うっうっ」と泣いているうちに、気がつけばライブが終わっていた。

音楽ライブで沢山いい曲を浴び、キラキラとした栄養を得て、溜まっていた澱を目から流すことで、ライブが終わった後の私は、泣きすぎて疲れたはずなのに、活力に漲っていた。

いやあ、ライブ最高。

ライブ最高!

大切なことなので2回言ってみた。

ジャンルも違うし、入るお客さんの数も違うけれど、同じエンターテインメントを提供する人間として、今回見たライブと同じくらい人の心を動かせるものを、いつか来てくれる人に提供するぞ、という目標もできたのであった。

前田裕太(まえだ ゆうた)
1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。愛媛県の名門、済美高校野球部の同期である高岸宏行とのお笑いコンビ「ティモンディ」のツッコミ担当。趣味はサッカー観戦、読書。テレビ番組で画力を披露したり、複数メディアでコラムを執筆するなど、マルチな活動で注目を浴びている。

ティモンディ
高岸宏行・前田裕太によるお笑いコンビ。コンビ結成は2015年、グレープカンパニー所属。高岸のポジティブなキャラクターや、二人の野球経験と身体能力などがバラエティ番組で引っ張りだこに。コンビの野球経験をいかしたYouTubeチャンネル『ティモンディチャンネル』の登録者数は約28万人。

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