チチ・ロドリゲスがぶっ殺してやろうと思った相手 「女性だからといって、理由もなしに侮蔑の色メガネで見る男性ゴルファーこそ、この世で最悪。彼は偉大なるゲームまで侮辱している」(アガサ・クリスティー) 「クラブを振り上げた瞬…
画像ギャラリー今から20数年前、ゴルフファンどころか、まったくゴルフをプレーしない人々までも夢中にさせたエッセイがあった。著者の名は、夏坂健。「自分で打つゴルフ、テレビなどで見るゴルフ、この二つだけではバランスの悪いゴルファーになる。もう一つ大事なのは“読むゴルフ”なのだ」という言葉を残した夏坂さん。その彼が円熟期を迎えた頃に著した珠玉のエッセイ『ナイス・ボギー』を復刻版としてお届けします。第12回は、ゴルフ場で絶対に遭遇したくない「イヤな奴」について、歴史に名を残す著名人たちがこぼしたコメントの数々を紹介します。
夏坂健の読むゴルフ「ナイス・ボギー」その12 イヤな奴
マイケル・ジョーダンも二度とごめんな相手とは?
「むかしのコースは、ボールなど打たなくても十分に楽しめる場所だった。木陰には動物が休息し、蝶も乱れ飛んで小鳥がさえずり、誰もが散歩のついでにゴルフをしたものだった。ところが1960年ごろからゴルファーが急増して、ゴルフ全体から余裕というものが消えてしまった。要するに、イヤな奴が増えたのだ。スコアのためなら可憐な花までなぎ倒す輩をゴルファーと呼べるだろうか。いまやコースは楽園から戦場に変わって、優雅なるゴルファーが消滅、スコアの亡者がわがもの顔で跋扈する。なんと嘆かわしいことだろう」(ショーン・コネリー)
「これまでに出会った最悪のゴルファーといえば、カリフォルニアでは名の知れたアマ選手のJにとどめを刺す。彼の常套手段は相手がパッティングを行う際、まさにボールがヒットされる直前、狙いすましたようにカップの向こう側を横切るのだ。それも毎回ではない。自分が不利になると絶妙のタイミングでこれをやる。打とうとする瞬間に歩かれて、平静でいられるだろうか? もちろん、多くの場合はミスになる。われわれは彼に『前方横切りマン』なる蔑称を献上して、なるべく一緒にプレーしないよう心掛けている」(カリフォルニア・アマ選手権覇者、ピーター・ロールス)
「このゲームの魅力の一つに、思索する豊かな時間があげられる。四季の自然を愛でながら、静かに真摯にゲームと取り組むことが自分の人生の贅沢だと思っている。ところが、もし大声で喚き立てる人物と同伴したならば、何もかもが台無しになる。大声の持ち主は自己中心的であり、周囲の感情などお構いなし、わずかなミスにも大騒ぎ、贅沢な時間は彼によってズタズタにされる。そこで私は体調の悪さを理由に、9ホールでさっさと家に帰ることにしている」(クリント・イーストウッド)
「これまでに出会ったイヤな奴? それは俺がニギリで負けた相手全部が最悪、というのは冗談だが、俳優仲間のPとは同じ組で回りたくないね。何しろ彼は、絶対に人のプレーに視線を向けず、徹底的に無視するのだ。まるで俺が存在しないかのようにふる舞われてみろよ、こちらの気分としてはムッとして、とてもゴルフどころではない。次第にイライラが昂じてスコアにならず、結局、彼の思う壺に嵌まるわけだ。ゴルフには同伴競技者もいるのだから、人のプレーに拍手する程度のマナーある人物と一緒にゴルフを楽しみたいね」(ディーン・マーチン)
「プレー中にカネの話、人の悪口、うわさ話、下卑た話、宗教と政治の話をする奴がいる。こいつらとは二度とゴメンだ」(マイケル・ジョーダン)
「下手でもいい。18ホールで150打の超ダッファーでも構わない。なぜなら私にも私のプレーがあるからだ。ところがへぼのくせにクサったり、砂や芝に八つ当たりしたかと思うと、ひとり仏頂面でパーティから離れたり、世間には手に負えない奴がいる。この手のゴルファーが最悪だ。とくに歩行が遅く、現場に到着してからもクラブ選択にダラダラと時間をかけ、打つのかと思うと何度も素振りをくり返し、さんざん人を待たせた挙げ句にチョロとザックリでは殴りたくもなる。スロープレーヤーこそゴルフ最大の敵であり、私は有罪を宣告して追放するのがコース側の責任だと考える」(バーナード・ダーウィン)
チチ・ロドリゲスがぶっ殺してやろうと思った相手
「女性だからといって、理由もなしに侮蔑の色メガネで見る男性ゴルファーこそ、この世で最悪。彼は偉大なるゲームまで侮辱している」(アガサ・クリスティー)
「クラブを振り上げた瞬間、狙いすましたようにセキをする奴がいた。二度までは偶然ということもあるので我慢したが、いよいよ三度目、まさにダウンスウィングに移ろうとする直前、またもやエヘン! これで間違いなし。俺は次のホールでスタンスを決めると、ワッグルを2~3回、それからテークバックすると見せかけて、肩越しにその野郎に言ってやったものだ。
『おい、先にセキをしろ!』
奴さん、それからというもの、おとなしくなったぜ」(レイモンド・フロイド)
「全米オープンの最終日、私の相手はあごが長いところからチンと呼ばれるルー・ウォーシャムだった。残り9ホール、野郎がやった汚い作戦は全米の誰もが承知だろう。奴ときたらパッティングする私の背後に立って、ハッ、ハッと、わざと荒い息を吐いたものだ。それも15番あたりから2メートルと離れていない場所に近づいて、さらに切迫した感じのハッ、ハッが続いた。私は離れるように要求したが、いつの間にか近づいて蒸気機関車も顔負け、周囲の酸素のすべてを吸い込む勢いで妨害が続いた。お陰で私の神経はズタズタ、新聞が書き立てたように、ルーは全米オープンに勝ったのではなく、タイトルを騙し取っていったのだといまでも思っている」(サム・スニード)
「過去に遭遇したイヤな奴の代表が、私の場合、某大学の教授だった。とにかく相手のプレーのすべてに干渉して得意顔。アドバイス行為がルールに抵触することはご存じないらしく、人のスウィング、クラブ選択にまで平気で口を出す。たとえば相手のミスを見るなり、早い! ヘッドアップ! ボールを見ろ! 必ずこの3つの言葉のどれかを浴びせるのだ。グリーン上でも彼の干渉はとどまらず、人のラインにあれこれ口を出すばかりか、打ち方が強い弱いと文句のつけ放題、我慢ならなかった。そこで私と弟のジムは示し合わせた上で逆襲に転じることにした。教授が打った瞬間、まったく同じセリフを大声で合唱してやったのだ。すると礼儀知らずの教授もついにたまらず、憤然とクラブハゥスに引き上げて行った。最悪のゴルファーを追っ払うには、この手に限ると思うね」(作家、アンドリュー・ワード)
「コースに棲息する最もイヤな奴とは、自分のスコアを適当にごまかした上で、何はさておき相手のスコアを聞きたがる奴」(ゴルフ評論家、フレッド・ピノン)
「プレー中は我慢できる。無視すれば済むことだ。ところが世間に溢れるゴルフ自慢、こいつだけは我慢ならない。スコア、飛距離、まぐれ当たり、バーディ、イーグル、優勝、ついでにクラブまで自慢する奴もいる。目は閉じることができても耳はふさげない。連中はそこにつけ込んで、すべてを自慢のタネにする。こいつらこそ本当にイヤな奴だ」(作家、ジェームズ・フォルバーグ)
「プロになって間もないころ、虫酸が走るほどイヤな奴とプレーしたことがある。そいつは郡の偉い役人で、ゴルフもそこそこの腕前だったが、何よりも飛びっ切りの負けず嫌い。勝ってるときは上機嫌だが、ひとたび負けると辛抱ならず、何かにつけ因縁をつける野郎だった。何しろ相手は役人、長いものには巻かれるしかないと思って俺はタヌキを決めていた。ところがある日、俺が絶好調で相手が絶不調、勝負にならなかった。するとアタマにきたね。こちらのスコアを聞いたあと、必ずエッという顔をして首をひねるのだ。毎回これをやられてみろよ、ついには相手をブッ殺してやろうと思うから、ゴルフというのは恐いゲームだね」(チチ・ロドリゲス)
(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)
夏坂健
1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。
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