珍しいヨーロッパ野菜を使った“イタリアン”な給食も 一方、伝統食品にとどまらず、“新顔”を積極的に取り入れているのは女子栄養大学特別賞を受賞した埼玉県朝霞市立朝霞第八小学校です。献立で目をひくのは、スイスチャードやコール…
画像ギャラリー「めぎすの米粉あげ~かんずりジュレソース」「切り干し大根とツナのミルク煮」「加賀棒茶と生わかめの味わいご飯」「コールラビのかきたま汁」「イバラキング」…。一見、料亭のお品書きかと思われるメニューの数々ですが、これは各地の学校給食で、実際に提供されている献立の一部です。今月開かれた全国学校給食甲子園の決勝大会で披露されたメニューからは、伝統食品をアレンジしたり、新種の野菜を取り入れたりして、子供達に食べてもらえるよう五感に訴えかける献立の工夫が垣間見えます。一方、給食費が無償化になる動きも話題を集めています。令和の給食事情を見ると―――。
参加1079校(施設)の中で12校(施設)が決勝出場
2023年12月10日、「第18回全国学校給食甲子園」(認定NPO法人21世紀構想研究会主催)決勝大会が東京都内で開催されました。同大会は、地元食材を生かした献立のアイディアや美味しさを全国各地の小中高校(施設)が競う調理コンテスト。子供達が地域に根差した食文化に関心を深め、自ら野菜を栽培するといった食育の推進や、食材の地産地消で地域の活性化を図ることなどを目指しています。
2023年度は、47都道府県1079の小中高校(施設)から応募があり、4回の書類審査を勝ち抜いた12校(施設)が、この日、決勝大会に出場。各学校(施設)で日頃、給食に携わっている栄養教諭と調理員が2人1組で、地場産の食材をふんだんに使い、趣向を凝らした栄養価の高い数品の献立6人分を、制限時間60分以内に手際よく仕上げていました。
【第18回全国学校給食甲子園結果】優勝は新潟県の新井中央小学校
優勝「新潟県妙高市立新井中央小学校」
準優勝「岐阜県美濃加茂市学校給食センター」
大村智特別賞「佐賀県佐賀市富士学校給食センター
21世紀構想研究会特別賞「岩手県遠野市学校給食センター」
女子栄養大学特別賞「埼玉県朝霞市立朝霞第八小学校」
優秀賞「香川県高松市立屋島小学校」
同「北海道大空町立東藻琴学校給食センター」
同「茨城県桜川市学校給食センター」
同「石川県加賀市立山代中学校」
同「奈良県広陵町立真美ケ丘第一小学校」
同「岡山県立岡山東支援学校」
同「長崎県長崎大学教育学部附属小学校」
調理員特別賞「長崎県長崎大学教育学部附属小学校」
意外な使い方に感動、新潟伝統の調味料「かんずり」
初出場で優勝を果たした新潟県妙高市立新井中央小学校の献立は、「アスパラ菜めし/牛乳/めぎすの米粉あげ~かんずりジュレソース/アスパラ菜のごまこうじあえ/妙高ごっつぉ汁」。地元の特産物をふんだんに取り入れた郷土料理を、児童が食べやすいよう独自に工夫した姿勢が高く評価されました。中でも、審査委員から「意外な使い方に感動した」と驚きの声が上がったのが、地元に伝わる伝統の発酵調味料「かんずり」です。
「かんずり」は、農林水産省「うちの郷土料理~次世代に伝えたい大切な味」にも選ばれています。農水省のHPには、かんずりについて「地場産の唐辛子を雪の中にさらしたのちにすり潰し、米麹と柚子、塩を混ぜて三年間熟成・発酵させる」と書かれています。雪国ならではの知恵と手間をかけて作られていることがわかります。
唐辛子=辛いイメージで、一見、大人の珍味のような…「そんなことはありません。とても身近で親しみのある調味料ですから、給食でも豆板醤(トウバンジャン)の代わりに使用しています」と話すのは、同小の岡田小野江(このえ)栄養教諭。日頃から、地産地消を目指し、伝統食材の新しい使い方に余念がない岡田教諭は、「今回、めぎすにかけたかんずりジュレソースは、辛さを抑えるため、かんずりにトマトジュースと白みそを加え、酸味とまろやかさを出しました」とアイディアを披露。
まさに「ごっつお」(新潟の方言で「ごちそう」の意)の品々に驚きです。妙高市では2023年度より、3歳以上の園児から小中学生までの給食費が無償と聞いて、さらにビックリ!
珍しいヨーロッパ野菜を使った“イタリアン”な給食も
一方、伝統食品にとどまらず、“新顔”を積極的に取り入れているのは女子栄養大学特別賞を受賞した埼玉県朝霞市立朝霞第八小学校です。献立で目をひくのは、スイスチャードやコールラビといった珍しいヨーロッパ野菜。さいたま市を中心に若手農家らで作る「さいたまヨーロッパ野菜研究会」が生産しており、主にイタリアン・フレンチレストラン向けに流通しているそうです。
敢えて給食の献立に採用したことについて、同校の中美奈子栄養教諭は「埼玉県が誇る新しい名物として、子供達にも関心を持ってほしい」と話します。児童の反応は上々で、緑の野菜が苦手な子供も「どんな味がするのか楽しみ」と興味津々で手をつけるといいます。
「子供は忖度しないので、まずかったら残す」
2023年度のコンテストでは、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」を意識した取り組みも目立ちました。
優勝の新井中央小学校がある妙高市は、政府の「SDGs 未来都市・自治体SDGsモデル事業」に選定されていることもあって、ふだんから給食の献立にも出荷する際にはじかれる野菜の茎や葉まで余すところなく活用しています。今回メニューで使われたアスパラ菜も、見た目を揃えて出荷する際にはじかれた葉や茎をご飯に混ぜたり、和え物にして提供しました。
一方、大村智特別賞の佐賀県佐賀市富士学校給食センターの献立には、麦入りご飯に、だし昆布とかつお節の出し殻を再利用したふりかけが添えられています。いずれもSDGsにある目標12「つくる責任、つかう責任」を念頭に置いたものです。
大会を主催した21世紀構想研究会の馬場錬成理事長は「子供は忖度(そんたく)しないので、まずかったら残す。しかも、飽食の時代で味覚が肥えているので、子供が満足できる美味しさを出すのは(昔に比べ)大変なこと」と話します。それゆえ、あの手この手で給食の進化に挑む栄養教諭や調理員の皆さんの子供達への深い愛情を痛感します。
小学生の時は偏食で食が細いがゆえ、食べ残しを許されなかった筆者にとって、40年以上前の給食の時間はまさに、修行。学校給食を取り巻く環境の変化に、隔世の感があります。
給食費の一律無償化なるか、物価高でもやりくりで低コスト
では一体、“ごちそう給食”は、どのぐらいのコスト負担でいただいているのでしょうか。
2023年1月、文部科学省が公表した「令和3年度学校給食実施状況等調査」によると、学校給食費の平均月額は公立小4477円、公立中5121円となっています。この金額を統計を元にして独自に1食分に換算してみると、公立小で約250円、公立中で約300円となります。2023年12月現在は、物価や光熱費の上昇で、この金額より多少上がっていると思われますが、いかに毎日の給食が格安で提供されているのかが分かり、頭が下がります。
学校給食費は自己負担が原則ですが、公費を投入して無償化している自治体が増加しつつあります。そうした流れを受けて政府の少子化対策の一環として、全国の小中学校で学校給食費を一律無償化することを検討し、文科省の実態調査が始まっています。
1889(明治22年)年、山形県で始まったとされる学校給食の歴史は、2024年で135年を数えます。子供の貧困や虐待は現代でも社会問題化し、栄養価に富んだ学校給食は美味しいだけにとどまらず、生命線でもあります。
世界に誇る日本の学校給食のすばらしさ、ありがたさを改めて感謝して、いただきたいものです。
文/中島幸恵