天皇家の食卓

子どもたちと囲む天皇家のお祝い御膳

コデマリ

お孫さま方の成長をやさしく見守る美智子さま 平成19年10月のお誕生日に際し、美智子さまはこのようなお言葉を寄せられた。その年の9月に悠仁さまが満1歳を迎えられ、翌春には愛子さまが学習院初等科にご入学されるときのことであ…

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「こどもの日」の5月5日は、端午の節句。天皇家では、御所のお和室に節句にちなんだ飾り物や、粽(ちまき)や柏餅がお供えされる。柏の葉は新芽が育つまでは古い葉が落ちないことから、子どもの健やかな成長を願う親の想いが込められた和菓子である。ご夕餐には大きな曲げ輪っぱに紫色の菖蒲麩や黄色い兜しん薯(かぶとしんじょ)山吹焼きといった節句の料理をご用意される。今回は、お子さま方の成長をよろこぶお祝い御膳の物語である。

黄色い兜や紫の菖蒲、矢羽根をかたどった彩のよい料理

天皇家にお子さまがお生まれになると、そのときの天皇陛下と皇后さまから犬張子が贈られ、親王の初節句には檜兜(ひのきかぶと)が贈られる慣わしがある。犬張子は箱のようになっていて、中にいろいろなお道具を入れることができるお枕飾りである。檜兜は天皇家が平和を願う独特な兜で、鉄製ではなく檜の木で作られる。

愛子さまのご誕生のときには、天皇陛下(今の上皇陛下)と美智子さまから犬張子が贈られた。戦後は途絶えていたが、愛子さまご誕生にあわせて従来の製法で復活されたのだ。そして、悠仁さまの初節句には、檜兜が贈られた。檜兜は色付けされて金色に輝き、上部には華やかな花の造花が添えられている。美智子さまはおばばさまとなって、お子さま方の成長を見守られたのだ。

千鳥ヶ淵

平成30年「こどもの日」のお祝い御膳

陛下と美智子さまがご成婚60年を迎えられた、平成30年の5月5日のご夕餐のお祝い御膳も、季節の味を大切にしつつお子さま方の目を楽しませるものだった。

爽やかな五月に咲く菖蒲の花をかたどった菖蒲麩、金色の兜のような兜しん薯山吹焼き、矢の羽根の形をした矢羽根蓮根といった、端午の節句らしい遊び心のある料理。道明寺柏葉包み(鶏挽肉射込み)、若々しい稚鮎の唐揚げ、石川小芋田楽、わらびの土佐和えなど季節の味。海老黄身寿司や鰻棒寿司、彩のよいちらし寿司が盛り込まれた、いかにもお子さま方の心が浮き立つようなお祝い御膳である。

新緑

平安時代から食べられている粽(ちまき)、江戸時代に広まった柏餅

お和室の床の間には、菖蒲と兜が描かれた軸がかけられ、能の舞台などを表現した御台(おだい)人形が飾られている。その前に並ぶ三宝には、粽と柏餅が供えられた。右の三宝には柏餅餡、左の三宝には柏餅味噌餡。中央の三宝には、葛羊羹粽、外郎粽(ういろうちまき)、水仙粽が立ち上がるように盛られている。天皇家のお子さま方も、子どものための一日を楽しまれたことだろう。

端午の節句に粽を食べるのは、中国に由来する風習だという。紀元前の戦国時代の楚(そ)の詩人、屈原が川に身を投げて亡くなり、その弔いのために笹の葉で包んだ米の飯を川に投げ込んだのが始まりと伝わる。日本でも、平安時代の終わりごろには食べられていたという。もともとは、もち米を植物の葉で包んで灰汁で煮込んだ保存食であり、やがてお菓子となっていった。

和菓子屋の店頭をかざり、一般に馴染みのあるのが柏餅。天皇家と同じように、小豆の餡と味噌餡とが並び、選ぶのが楽しい和菓子だ。柏餅は江戸時代半ばに江戸で生まれた和菓子である。柏の葉は新芽が育つまでは古い葉が落ちないところから、代が途切れないという子孫繁栄の縁起をかついで食べられた。

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お孫さま方の成長をやさしく見守る美智子さま

平成19年10月のお誕生日に際し、美智子さまはこのようなお言葉を寄せられた。その年の9月に悠仁さまが満1歳を迎えられ、翌春には愛子さまが学習院初等科にご入学されるときのことである。

「祖母として幼い者に接する喜びには、親として味わったものとも違う特別のものがあること、また、これは親としても経験したことですが、今、また祖母という新しい立場から、幼い者同士が遊んだり世話しあったりする姿を見つめる喜びにも、格別なものがあるということは申せると思います。……悠仁に対しても、二人の姉たちが、丁度小さなおかあさんのように気遣いつつ、しかも十分に手加減を知った無造作さで、抱いたり着替えさせたりしている姿や、小さな愛子が、自分より更に小さい悠仁の傍でそっと手にさわっていたりする姿を、ほんとうに好もしく可愛く思います」

北の丸公園のツツジ

お孫さまたちの感性や一生懸命さを、愛おしく大切に思われておられるご様子がうかがえる。日々は足早に過ぎていき、そんなお小さかった愛子さまも大学をご卒業、ご就職された。おでましの機会もますます増えている。悠仁さまはスラリと背の高い高校生におなりになった。美智子さまはすくすくとご成長されたお孫さま方の羽ばたく姿を、目を細めてご覧になっていることだろう。(連載「天皇家の食卓」第17回)

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文・写真/高木香織

参考文献/『天皇・皇后両陛下ご成婚60周年記念 宮中 季節のお料理』(宮内庁監修、扶桑社)、『皇后さまと子どもたち』(宮内庁侍従職監修、毎日新聞社)

高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、カレンダー『永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。

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