かつては、クルマのセンターコンソールにカーナビやオーディオを取り付ける「DIN(ドイツの工業規格)」サイズのスペースがあり、付け替えたり、後から装着したりできたものだった。しかし、最近はメーカー専用のディスプレイオーディオやナビが主流で、後から市販のナビを取り付けたりできなくなっている。それはなぜなのだろうか?
画像ギャラリーかつては、クルマのセンターコンソールにカーナビやオーディオを取り付ける「DIN(ドイツの工業規格)」サイズのスペースがあり、付け替えたり、後から装着したりできたものだった。しかし、最近はメーカー専用のディスプレイオーディオやナビが主流で、後から市販品に変えたりできなくなっている。それはなぜなのだろうか?
メーカー出荷時に搭載されるナビやオーディオが主流
以前は、コンパクトカーなど価格が比較的安い車種に採用されるカーナビやオーディオには、販売店や物流センターで装着するディーラーオプションが多かった。ところが最近は、ディーラーオプションではなく、メーカーオプションが増えている。
例えばスズキスイフトは、マイルドハイブリッドを搭載するMXとMZに、全方位モニター付きナビゲーションシステムをメーカーオプションで設定した。トヨタ車では、コンパクトカーのヤリスを含めて、さまざまな車種にディスプレイオーディオが標準装着される。その上でフルセグTVチューナーなど、メーカーオプションによって機能の幅を広げられる。
スイフトの純正ナビにはわき見や居眠りを監視するカメラを装着
カーナビやオーディオが、以前のディーラーオプションから、標準装着、あるいはメーカーオプションに変わった背景には、大きく分けて2つの理由がある。
1つ目は機能の高度化だ。先に挙げたスイフトにメーカーオプションとして設定される全方位モニター付きナビゲーションシステムには、ドライバーモニタリングシステムも併せて装着される。モニター画面の右上にカメラが内蔵され、脇見や居眠り運転をすると警報を発する。
また車種によっては、オプション設定されるカーナビの地図情報に基づいて、ATの変速を制御する。例えばカーブが迫ってきた時など、アクセルペダルを戻してもシフトアップを抑えて、走行安定性を高める支援を行う。これらの高度な制御には、サイド&カーテンエアバッグなどと同じく車両との綿密な連携が必要だから、生産ラインで装着するメーカーオプションになることが多い。
コストの低減になるが販売店には不満も
2つ目の理由はコストの低減だ。生産ラインで装着すれば、効率を追求した車両の組み立てと同様にオプションパーツをセットできるため、コストを抑えられる。そのために、例えばアルミホイールやフォグランプがメーカーオプションとディーラーオプションの両方に採用される場合、前者の方が価格を割安になる。
このような事情もあって最近はメーカーオプションが増えたが、販売店にとっては不満も生じる。ディーラーオプションは、メーカーオプションに比べて価格が割高だが、その分だけ販売会社の受け取る利益も増えるためだ。
従ってユーザーがディーラーオプションを多く装着した時は、値引きの増額も可能で、販売会社は商談を有利に進めやすい。決算期などは「ディーラーオプション10万円サービス」なども実施され、多くのユーザーは、この金額でカーナビなどを割安に装着する。
それがメーカーオプションに変わると「ディーラーオプション10万円サービス」を利用しにくくなってしまう。メーカー/ディーラーオプションにも、いろいろな事情や思惑が絡んでいるのだ。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/トヨタ、スズキ