湯に~く温泉旅

高級宿の温泉に“お金を払わずに入れる”ワザ 新潟・六日町温泉で5時間働けば1泊無料のワーケーションとは?

のどかな田園風景が広がる新潟県南魚沼市。全国でも指折りの豪雪地帯に佇む「ryugon(リュウゴン)」は築200年の豪農や庄屋の館を移築した古民家の宿である。離れのスイートルーム「Villa Suite(ヴィラ・スイート)」に泊まるなら1泊2食付きで1人4万円超え(1室2名利用時)のラグジュアリーな宿だが、敷地の一角に無料で泊まり、スイートルームのお客さんと同じ大浴場に浸かることができる面白い宿泊スタイルがある。

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のどかな田園風景が広がる新潟県南魚沼市。全国でも指折りの豪雪地帯に佇む「ryugon(リュウゴン)」は築200年の豪農や庄屋の館を移築した古民家の宿である。離れのスイートルーム「Villa Suite(ヴィラ・スイート)」に泊まるなら1泊2食付きで1人4万円超え(1室2名利用時)のラグジュアリーな宿だが、敷地の一角に無料で泊まり、スイートルームのお客さんと同じ大浴場に浸かることができる面白い宿泊スタイルがある。

六日町温泉「ryugon」雪国なのにバリ島のリゾートのような神秘的な雰囲気

地元の豪農や庄屋の館を移築した古民家の宿「ryugon」

豪雪に耐えうる太い梁と柱が印象的な「ryugon」は、「温泉御宿 龍言」として昭和44(1969)年に創業した。令和元(2019)年10月に現オーナーに引き継がれ、リニューアルして「ryugon」となった。オーナーは同じ南魚沼市のJR越後湯沢駅前に温泉宿「HATAGO井仙(はたごいせん)」を営む井口智裕社長(51)である。

「幽鳥の間」の襖の書は、雲洞庵の住職だった新井石龍禅師が書いたもの。梁や柱をそのまま生かした和の空間に雪をイメージした丸いクッションが置かれ、モダンな雰囲気

「ryugon」は、「雪国」の文化を視覚化したインテリアや内装に加えて、土間でおばあちゃんから郷土料理を教えてもらったり、冬に雪かき体験をしたり、「雪国」をキーワードにした数々の体験ができる雪国リゾートだ。

白い囲炉裏のロビーラウンジ。コーヒーやソフトドリンクなどが自由に飲めるフリースペースになっている

リニューアルによって、和の趣にリゾートの開放感が加わり、「Villa Suite」から望む池などはまるでインドネシア・バリ島の観光地ウブド地区のような緑が鮮やかで神秘的な雰囲気である。

まるでバリのリゾートに来たような雰囲気の「ryugon」の「Vill Suite」客室付き露天風呂

帰る場所を提供する「さかとケ」はワーケーションの進化形?

その「ryugon」で、2022年から労働を対価に宿泊できるという、これまでにはない取り組みがスタートしている。対象となるのは、長屋門の横にある蔵を改修した宿泊施設「さかとケ」で、「5時間働けば、1泊無料」で宿泊できる。

「さかとケ」の蔵。スロープの先を左側に進むと「ryugon」の入り口だ

「温泉宿で仕事をする」人といえば、かつては小説を書く文豪くらいだったが、ここ5年くらいは「ワーケーション」(仕事をしながら余暇を楽しむこと)や「旅先テレワーク」も市民権を得た。「Wi-Fi」環境さえ整っていれば、旅先から会議に参加することもできるし、採用面接だってこなせる。

だが、ワーケーションと言えば、あくまでも通常通り素泊まりや1泊2食料金を払い、宿泊するのが一般的。「さかとケ」は新しいスタイルといえるだろう。

全面的に改修を施した「さかとケ」の4室のシングルルームは、もともと客室として販売しようと思っていたそうで、インテリアも整っているし、ベッドもきれい。洗面所やトイレなどの水回りも新しい。共同の小キッチンがあって、食材を持ち込んで自炊もできる。こんなにきれいな居室に無料で泊まれるとは驚きである。

「さかとケ」のシングルルーム。ベッドのある洋室で、デスクや薄型テレビもあり、冷暖房完備で快適

「ryugon」の井口智裕社長は「さかとケ」での宿泊を「帰る旅」と定義づけ、「懐かしい故郷に帰り、宿や地域の人たちと立場を超えた交流をしてもらおう」と考えた。それは、南魚沼市に隣接する湯沢町で生まれ育った井口社長自身の幼少期の体験が影響している。

旅館が家業だった井口さんは、少年時代はお盆や正月に親戚が遊びにきても、なかなか遊びには行けなかった。

そこで、親戚の子どもたちと一緒に宿の仕事を手伝うと、みんな仲良しになれたし、絆も生まれた。そんな心温まる交流の場を作りたいと考えて、本来は宿泊料金をとれる客室を無料にし、労働とバーターで宿泊できる仕組みを作ったのだという。

「さかとケ」の名前は住所「南魚沼市坂戸」の「坂戸(さかと)」と「家」を表す「ケ」を組み合わせたもの。「田舎のない人が、気軽に帰る家のような場所を作ろう」というコンセプトのもと、名付けられた。

「さかとケ」では宿の仕事を5時間手伝えばいい。夏休みに祖父母の家に泊まりに行って、「おばあちゃんの代わりに庭の雑草抜きをやってね」とか「皿洗い、手伝ってね」と言われてお手伝いをした、子どもの頃の体験を思い出してみてほしい。

さかとケの一日は? こんな過ごし方ができる

仕事の種類は、宿の掃除や皿洗い、夕食出しといった単純作業で、時間は午後5時〜同10時か午前7時30分〜午後0時30分のいずれか。たとえば、夕方5時から仕事をするならば、到着後、日中の時間はフリータイムだから、パブリックスペースで自分の仕事をしてもよい。

仕事が終われば、やわらかな湯を湛えた大浴場で温泉に浸かることもできる。この大浴場は一般のお客様も利用するから、ラグジュアリークラスの宿の風呂にタダで入れてしまうというわけだ。

古民家の宿「ryugon」の男湯の露天風呂。塩分が含まれているので保温効果が高く、寒い季節でも湯冷めしにくい泉質だ

「ryugon」の温泉は、疲労回復に効果の高いナトリウム‐塩化物泉。重厚かつスタイリッシュな国の登録有形文化財に指定された建物を通り、土蔵造りの趣ある湯屋へ。労働した後の温泉は最高だ。温泉に浸り、さらにサウナで汗をかけば、極上の眠りにつくことができるだろう。

「さかとケ」のホームページには、利用は「最大6日まで」と書かれているが、日程に関してはフレキシブルに対応していて、1泊利用の人もいれば、これまで最も長く滞在した人は2週間だったという。決められた時間以外はフリータイムなのでスノーボードや地域のフィールドワークなど、何をしても自由。終了時に自室を清掃して帰るなどの決まりを守れば、レンタサイクルや共同のランドリーを使用できるなど、特典も多い。

「さかとケ」のシングルルームにはデスクがあるから、自室で仕事をすることもできる

2022年のサービススタートから2年半の間に利用した350名のうち、多くは大学生のインターンシップ(就労体験)だが、社会人でうまく活用している人もいる。

月に1度のペースで訪れる50代男性のITコンサルタントは南魚沼が大好きで、町のボランティアやイベントの手伝いをしに当地を訪れ、宿泊場所として「さかとケ」を定期的に利用しているそうだ。

クリエイターやアーティストも受け入れたい

かつて全国の温泉旅館には、器や掛け軸、書などの作品を宿賃代わりに残していった陶芸家や書家などのクリエイターたちが存在していた。

お客様にコーヒーを出したり、料理を運んだりすればOK。働く人同士のつながりもできる 提供画像・ryugon

「さかとケ」でも今後は「現代のクリエイターやアーティストが自身の作品やパフォーマンスを披露する場としても機能させていきたい」と考えている。自身の作品を温泉宿で制作してみたいという人は、名乗りをあげてみてはいかがだろうか。

【六日町温泉】
六日町温泉の歴史は比較的新しく、昭和32(1957)年、天然ガスの試掘とともに湧き出した。越後三山(中ノ岳=2085m、駒ケ岳=2003m、八海山=1778m)や、日本百名山の巻機山(まきはたやま、1967m)など2000m級の山々を望むのどかな田園風景は療養に最適で、昭和39(1964)年には環境省の国民保養温泉地に指定されている。泉質は塩分が含まれ、保温効果の高い「ナトリウム-塩化物泉」とクセの少ない無色透明の「単純温泉」の2つ。3本の源泉を12軒の宿が使用しているが、温泉街を形成しているわけではなく、それぞれの宿が点在している。

【宿データ】
『さかとケ』
住所:新潟県南魚沼市坂戸1-6
電話:025-772-3470
泉質:ナトリウム-塩化物泉
アクセス:JR越後湯沢駅の「HATAGO井仙」から送迎車で約30分
https://ryugon.co.jp/sakatoke/

吹き抜けの玄関に「龍言」時代から使われている大きな提灯が下がっている

文・写真/野添ちかこ
温泉と宿のライター、旅行作家。「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。「NIKKEIプラス1」(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、「旅の手帖」(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)や『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。
https://zero-tabi.com/

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