プロ野球は、2024年10月26日からSMBC日本選手権シリーズが始まる。セ・リーグは巨人を倒してレギュラーシーズン3位からの下剋上を果たした横浜DeNAベイスターズが、パ・リーグはレギュラーシーズン1位の福岡ソフトバンクホークスが、それぞれ日本シリーズに進出。計7戦の短期決戦では、予想外の活躍を見せる「ラッキーボーイ」が現れ、勝利を呼び込むことがある一方で、主力選手が「バッドボーイ」に陥り、敗北につながってしまうこともある。近年の日本シリーズにおける「ラッキーボーイ」と「バッドボーイ」を振り返る。
画像ギャラリープロ野球は、2024年10月26日からSMBC日本選手権シリーズが始まる。セ・リーグは巨人を倒してレギュラーシーズン3位からの下剋上を果たした横浜DeNAベイスターズが、パ・リーグはレギュラーシーズン1位の福岡ソフトバンクホークスが、それぞれ日本シリーズに進出。計7戦の短期決戦では、予想外の活躍を見せる「ラッキーボーイ」が現れ、勝利を呼び込むことがある一方で、主力選手が「バッドボーイ」に陥り、敗北につながってしまうこともある。近年の日本シリーズにおける「ラッキーボーイ」と「バッドボーイ」を振り返る。
阪神タイガース38年ぶり日本一の立役者・木浪
日本シリーズのような短期決戦には勝利を呼び込むラッキーボーイがつきものだ。何故かチャンスに打順が巡ってきて、ヒットが生まれる。野球の神様が降臨したかのように活躍するラッキーボーイの存在は、チームを勢いづけ、勝利へと導く。
阪神タイガースが日本一に輝いた昨年の日本シリーズのラッキーボーイをあげるなら木浪聖也になるだろう。全試合8番遊撃手としてスタメン出場し、25打数10安打、打率.400。シリーズMVPになった近本光司も打率.483と当たりまくっていたが、8番打者の期待以上の活躍という点で木浪のラッキーボーイ度がより強く感じられる。
下位で打線の切れ目を作ることなく、近本ら上位陣にチャンスメイクし、5得点をマークしたのは特筆に値するだろう。MVPや優秀選手など表彰選手にはならなかったが、チームが38年ぶりに日本シリーズを制した立役者なのは間違いない。ちなみに木浪はクライマックスシリーズでも10打数5安打、打率.500と好成績を残しており、ポストシーズンのような短期決戦で力を発揮するタイプなのかもしれない。
日本シリーズ史上初!初回初球先頭打者本塁打
オリックス・バファローズが東京ヤクルトスワローズを降した2022年の日本シリーズにもラッキーボーイが現れた。太田椋は、このシーズン打率.196、1本塁打という成績だったが、日本シリーズではスタメン出場した4試合で全て安打を放つなど15打数6安打、打率.400。雌雄を決する第7戦に1番一塁手として抜擢されると、日本シリーズ史上初となる初回初球先頭打者本塁打を放ちチームを勢いづけた。
強烈なラッキーボーイぶりを見せつけのは、福岡ソフトバンクホークスが読売ジャイアンツにストレート勝ちした2020年の栗原陵矢だ。第1戦、1打席目に先制2点本塁打、3打席目にも2点タイムリー二塁打を放ち3安打4打点。翌第2戦でも日本シリーズ最多タイの1試合4安打を放ち、シリーズ4試合で14打数7安打、打率.500の大当たりでMVPも獲得している。
史上最高の日本シリーズラッキーボーイ
ラッキーボーイは、最初から期待の高い主力選手よりも、伏兵的な選手がシリーズの流れを変えるような大活躍をした時、より印象が強くなる。その点から独断と偏見も交え、史上最高の日本シリーズラッキーボーイを選ぶとしたら、埼玉西武ライオンズが巨人を4勝3敗で降した2008年日本シリーズの平尾博嗣をあげたい。
このシーズンの平尾は代打や守備固めとして55試合に出場。打率.255、2本塁打、9打点という成績だったが、日本シリーズでは5試合に出場し、14打数8安打、打率.571、2本塁打をマークする大活躍を見せた。
特にシリーズ終盤は、まさに神懸った活躍ぶり。第5戦、わき腹痛で負傷退場した中島裕之と交代し途中出場すると、最終回に快速球でならした当時の巨人の守護神、マーク・クルーンからアーチを架ける。翌第6戦は6番一塁手でスタメン出場し、初回二死満塁のチャンスで先制3点タイムリー二塁打、5回には2試合連続となる本塁打を放ち、チームの全打点を叩き出した。
最終第7戦も6番一塁手としてスタメン起用され、2対2で同点の8回二死一・二塁の場面で、フルカウントまで粘った末にセンター前に決勝タイムリーを放ち、勝利を引き寄せた。チャンスで打ったのはもちろんのこと、勝負どころでたびたび打順が回ってきたのは、引きが強かったというほかない。
西武は2勝3敗から逆転での日本一。ラッキーボーイの活躍が勝負の流れを変えた代表な日本シリーズといえるだろう。ちなみにシリーズMVPは14回2/3を投げ無失点と、こちらも神懸かり的な投球を見せた岸孝之が獲得。平尾は優秀選手だった。
バッドボーイは主力選手が陥りやすい?
野球の神様が降臨するのがラッキーボーイならば、野球の悪霊に取り憑かれたかのように、パタリと当たりが出なくなるバッドボーイの存在も見逃せない。
2022年の日本シリーズは、ヤクルトはオリックスと最終第7戦までもつれ込みながら惜しくも敗れた。このシリーズでは山田哲人が24打数2安打、打率.083、シーズン三冠王の村上宗隆も26打数5安打、打率.192と中軸2人の不振が敗因となった。
逆にオリックスがヤクルトに敗れた2021年の日本シリーズでは、オリックス打線の得点源、吉田正尚が27打数6安打、打率.222と抑え込まれている。2020年の日本シリーズでは、巨人の4番、岡本和真が13打数1安打、打率.077、打点も0で、全く当たりがなく、ソフトバンクに4連敗のストレート負けを喫した。
ラッキーボーイに伏兵的な選手が目立つのとは対照的に、バッドボーイは勝負のキーマンになる主力選手が陥るケースが多い。故にチームの敗戦に直結してしまう。自らに課せられた重責が分かるからこそ、シーズン中と同じようにプレーが出来なくなり、もがいて、苦しんでいる間に短期決戦は終わってしまうというわけだ。
不振に陥った中軸選手を「寝かせたままにする」のは、短期決戦の必勝法のひとつといえるだろう。大舞台である日本シリーズでは、いつ誰がバッドボーイになるかは分からない。それを知っているのも、やはり野球の神様だけなのかもしれない。
石川哲也(いしかわ・てつや)
1977年、神奈川県横須賀市出身。野球を中心にスポーツの歴史や記録に関する取材、執筆をライフワークとする「文化系」スポーツライター。
※トップ画像は、上空から見た横浜スタジアム「Photo by Adobe Stock」