お笑いコンビ「ティモンディ」前田裕太さんの、「目指せ、理想の大人」をメインテーマに掲げた連載コラム。30代を目前にした前田さんが「大人」を目指して過ごす日々を、食・趣味・仕事など様々な視点で綴ってくださいます。連載は、第1・3木曜日に更新です。「(理想の)大人ってなんだろう?」を一緒に考えながら、前田さんの成長を見守りましょう! 今回は、「食編」の3回目です。誰しも子どもの頃に、「好き嫌いはダメ」と言われたことがあるはず。でも、大人になれば嫌いな食べ物がなくなる、というわけではないですよね。前田さんが食べ物の好き嫌いから学んだ、「苦手なものとの付き合い方」のお話です。
画像ギャラリー好き嫌いはダメ、と言われて育ったけれど……
私のイメージする大人は苦手な食べ物が少ない。
子供の頃、食事の席であれ嫌!これ嫌!と言っていた大人に出くわしたこともないし、「好き嫌いはダメ。残さず食べなさい」なんて大人達が言うものだから、大人には嫌いなものってないのだと思っていた。
幼少期の私には、苦くて飲めないコーヒーを美味しそうに啜り、独特で強い匂いのする春菊を美味しいとムシャムシャ食べていたし。
そんな彼らが嫌いなものがあるのはダメだと言うので、そういうものだと思っていた。
何故ダメなのか、理由は分からなかったけれど。
ただ、私の事務所の先輩である富澤さんは嫌いな食べ物が多い。
マグロは、ダメ。
鯖も、ダメ。
てか生魚がダメ。
青臭いのもダメだし、果物もダメ。
ある日、富澤さんがかき氷が食べたいと言うので、イチゴシロップをかけたかき氷を作ってあげた。
小さいかき氷器でせっせと氷を砕いてシロップをいい塩梅にかけて渡したというのに、頂点を赤くした氷の山を見て「俺いちご苦手なんだよね」と言ってきた。
かき氷食べたくて、いちごシロップ苦手な奴なんていんのかよ。
私の聞いてきた食に対する教育を、同じように受けてきた大人とは思えない。大人って、大抵の味の楽しみ方を知ってるのではないのだろうか。
他にもレモンやメロンのシロップをかけて渡したら「甘いのはちょっと」と言われたので、それならかき氷なんて頼むんじゃねぇよとか思った。
けれど、一度かき氷作りを請け負ったこっちも段々と意地になってきた。
絶対美味いと言わせてやる。
そんな美食家に対するシェフのような熱が心に宿った。
嫌いな食べ物の多い大先輩から学んだこと
甘いシロップがダメなら思い切って、富澤さんの好きなものをかけたらいいのではないか。
そう考えて、富澤さんの好きなコーヒーをかき氷にぶっかけたら、案の定嬉しそうに食べて「このかき氷最高」と言っていた。
これはもうかき氷とは呼べない、氷多めのアイスコーヒーだろ、とは言わなかっただけ、褒めてもらいたい。
「好き嫌いはダメって言われませんでした?」
と聞くと、富澤さんは
「苦手なものって、ダメと言われて無くせるものではない。本当に嫌いなものは、我慢しても難しい。大人になったのだから、苦手なものは避けていいんだよ」
と胸を張って言っていた。
なんだかカッコよく見えた。
そう言われてみれば、大人って子供の頃と比べて嫌なものを回避できるようになる。それは金銭的にもそうだし、物理的にも選択肢が増える。
それなのに、わざわざ苦手なものに着手してメリットはないのではないか。
自分が喜ぶ選択をし続けるのが大人なのではないだろうか。
富澤さんが、続けて
「子供の頃は、何が嫌いか自分が知る期間で、大人になったら好きなものを選択してくんだよ」
なんて言うもんだから、なんだかそんなもんなのかという気がしてくる。
嫌いな食べ物が多いのは、子供だと思っていたけれど、別に無理にその食べ物と対峙しようとせず、いちごシロップへ和解の手を差し伸べることなく別々の人生を歩むという選択をするのも、ある種、大人になったということなのだろう。
苦手なものはあえて選ばない、という大人の選択
私は野菜を食べる意味が分からなかった。
結局マヨネーズをかけて、そのマヨネーズの味を美味しいと感じているし、ほぼ無味のものを、ドレッシングの味で食すしかない。
だったら、マヨネーズを直接口に入れた方がいいし、ドレッシングを舐める方が味がする。
野菜は食べた方がいい、という教えの元、とりあえず口にしていたけれど、正直美味しさがわからない。食べたいとは思わない。
野菜美味しい!と口にしている人を見ると、本当かよ、と思っていた。
これからは、自分が心地いいと思わないものは、意図して選択しないということもしてみよう、と富澤さんの姿勢を見て思った。
幼少期、大人に言われたままのことをし続けていても、子供のままな気もするし。
大人って、苦手なものが沢山あったとしても、逃げる口実や手段があって便利だなあ。
前田裕太(まえだ ゆうた)
1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。愛媛県の名門、済美高校野球部の同期である高岸宏行とのお笑いコンビ「ティモンディ」のツッコミ担当。趣味はサッカー観戦、読書。テレビ番組で披露した絵の実力も話題になるなどマルチな活動で注目を浴びている。コンビの野球経験をいかしたYouTubeチャンネル『ティモンディベースボールTV』は登録者数25万人超え。