好き嫌いはダメ、と言われて育ったけれど……
私のイメージする大人は苦手な食べ物が少ない。
子供の頃、食事の席であれ嫌!これ嫌!と言っていた大人に出くわしたこともないし、「好き嫌いはダメ。残さず食べなさい」なんて大人達が言うものだから、大人には嫌いなものってないのだと思っていた。
幼少期の私には、苦くて飲めないコーヒーを美味しそうに啜り、独特で強い匂いのする春菊を美味しいとムシャムシャ食べていたし。
そんな彼らが嫌いなものがあるのはダメだと言うので、そういうものだと思っていた。
何故ダメなのか、理由は分からなかったけれど。
ただ、私の事務所の先輩である富澤さんは嫌いな食べ物が多い。
マグロは、ダメ。
鯖も、ダメ。
てか生魚がダメ。
青臭いのもダメだし、果物もダメ。
ある日、富澤さんがかき氷が食べたいと言うので、イチゴシロップをかけたかき氷を作ってあげた。
小さいかき氷器でせっせと氷を砕いてシロップをいい塩梅にかけて渡したというのに、頂点を赤くした氷の山を見て「俺いちご苦手なんだよね」と言ってきた。
かき氷食べたくて、いちごシロップ苦手な奴なんていんのかよ。
私の聞いてきた食に対する教育を、同じように受けてきた大人とは思えない。大人って、大抵の味の楽しみ方を知ってるのではないのだろうか。
他にもレモンやメロンのシロップをかけて渡したら「甘いのはちょっと」と言われたので、それならかき氷なんて頼むんじゃねぇよとか思った。
けれど、一度かき氷作りを請け負ったこっちも段々と意地になってきた。
絶対美味いと言わせてやる。
そんな美食家に対するシェフのような熱が心に宿った。